海外トピックス

2014/8/6

vol.255 これが病院? 楽しい視覚効果が魅力のルリィ子供病院

ルリィ子供病院のロビー(イリノイ州シカゴ市。以下同。写真提供:Ann & Robert H. Lurie Children''s Hospital of Chicago)
ルリィ子供病院のロビー(イリノイ州シカゴ市。以下同。写真提供:Ann & Robert H. Lurie Children''s Hospital of Chicago)
シェッド水族館寄付によるファイバーグラス製のくじらの彫刻が高い天井から吊るされている(写真提供:Ann & Robert H. Lurie Children''s Hospital of Chicago )
シェッド水族館寄付によるファイバーグラス製のくじらの彫刻が高い天井から吊るされている(写真提供:Ann & Robert H. Lurie Children''s Hospital of Chicago )
11階のスカイガーデン。本物の竹林である。すべてが曲線になっていてゆったりと散歩できるように設計してある (写真提供:Ann & Robert H. Lurie Children''s Hospital of Chicago )
11階のスカイガーデン。本物の竹林である。すべてが曲線になっていてゆったりと散歩できるように設計してある (写真提供:Ann & Robert H. Lurie Children''s Hospital of Chicago )
6階の手術室にもカバ達が泳いでいる楽しい絵が飾られている。最新の診療器具が揃い、CTスキャンはたった3秒で済んでしまう。子供達にとってCTスキャンは決して嫌な経験として残らないに違いない(写真提供:Ann & Robert H. Lurie Children''s Hospital of Chicago)
6階の手術室にもカバ達が泳いでいる楽しい絵が飾られている。最新の診療器具が揃い、CTスキャンはたった3秒で済んでしまう。子供達にとってCTスキャンは決して嫌な経験として残らないに違いない(写真提供:Ann & Robert H. Lurie Children''s Hospital of Chicago)
23階建て高層ビルのルリィ子供病院全景。288の病室は全て個室で、感染予防が主目的。TV、洗面所、トイレ、シャワー、家族が付き添って眠れるソファが全室に装備。子供が気兼なくゆっくりと休み、早く快復できるようにとの配慮(写真提供:Ann & Robert H. Lurie Children''s Hospital of Chicago)
23階建て高層ビルのルリィ子供病院全景。288の病室は全て個室で、感染予防が主目的。TV、洗面所、トイレ、シャワー、家族が付き添って眠れるソファが全室に装備。子供が気兼なくゆっくりと休み、早く快復できるようにとの配慮(写真提供:Ann & Robert H. Lurie Children''s Hospital of Chicago)

美術館か水族館のようだ。背の3倍もある珊瑚や海草の彫刻をゆったりと眺めながら広々としたロビーを歩く。上を見上げると、巨大なクジラの母と子が! 空間に “泳いで” いる。1階上の救急待合室では鮮やかな色彩の熱帯魚に引き寄せられる。
シカゴ都心部に完成したルリィ子供病院は海洋イメージあふれるロビーや、11階に設けられた竹林やシダの香りが漂うスカイガーデン、その他病室や検査室、廊下やエレベーター、看護婦詰所に至るまで、楽しい「自然」に溢れている。
だが、子供達は遊園地に遊びに来ているのではない。ここでなければできない高度な手術や治療のために、全米のみならず世界35カ国からやってくる患者だ。病気だし入院ともなれば心細さは倍増する。どうしたら子供達のそういった不安をやわらげる事ができるのだろうか?

楽しさ、面白さが、痛みや緊張を軽減

「病気に対する恐れが少なければ、子どもは早く快復するに違いない。もしも何か楽しいことや面白いことが病院内で体験できれば、それらが刺激になって病気や痛みを軽減する助けになるだろう」と、設計と工事の総責任者ブルース・コミィスキー氏は考え、まず最初の設計の段階で「アートと自然」を柱に据えた。そして、シカゴ美術館やシェッド水族館、フィールド自然博物館、シカゴ植物園、ジョフリーバレー団、シカゴ交響楽団など、シカゴの23の文化事業団体をスポンサーに取り込んだのである。
彼等は作品を寄付した他、チームを組んで病院内でのアートと自然をテーマとした環境作りに参加、院内は動物や魚、花や木々の写真や絵や壁画で飾られた。例えば、救急看護室や検査室では、イルカの親子やペンギンの群れの大きな写真を飾り、天井や壁はそれらのイメージのタイルでまとめあげている。看護婦は来院したてで緊張している子供達に「いくつ魚がいるかしら?」とか「「ペンギンが見えるかな?」などと話しかけることで、幼児の気持ちをほぐす糸口にする。

美術館も絵画、彫刻等を寄付

シカゴ美術館ではコレクションの中から自然、動物、家族、家をテーマにした49点の絵画、彫刻、版画を選び、複製にして寄付した。4階ではシカゴ現代美術館がアート作りのプロセス写真を壁面いっぱいに飾り、ファミリープログラムとして、アート作りの楽しさや絵画について話し合うボランティアを派遣している。
ルリィ子供病院は、ノースウェスターン大学医学部 (Northwestern Univiersity's Feinberg School of Medicine) のキャンパス内なので、患者の診察と治療に加え、教育と研究を医学部と共同で行なえる。そのためか、心臓疾患や白血病など難しい病気の患者が来院し、乳幼児からティーンエージャーまで長期間入院する子供達も幅広い。入院患者達が楽しめるようにと、設計にあたってプレイルームにはかなり広いスペースをとった。ゲームをしたり、コンピューターで遊んだり、絵を描いたり、本を読んだり…。
また、腕や肩が悪い幼児の治療には、フィジカルセラピスト達が色彩豊かで楽しい模様が描かれた遊具を使って「遊び」感覚で身体を動かすが、遊園地ではしゃいで遊ぶ幼児と錯覚するほど、楽しい光景である。

元患者の子供たちが意見を出し合い、病院に提案

一体全体、子供達が喜ぶテーマを考え出したのは誰だろうか?
前述した総責任者ブルース・コミィスキー氏?
もっとも多大な貢献をしたのは、この病院で治療を受けた子供達である。元患者のティーンエージャー達が「キッズアドバイサリーボード」という委員会を作り、こうだったらよかった、ああしたらいいのでは?など、彼等自身が入院していた時の体験や元患者(子供達)の声を集めた。そして病院側は同委員会の意見を大幅に取り入れて全体の設備やデザインを決めたのである。
「幼くて病気になった時、日常の暮らしの中で他の人達と同じように行動するのは本当に難しいと思う。だから学校よりはむしろ病院の方がいい思い出があるわ。だって、病院では誰もが私の事をわかってくれるから」とは、長期間難病で入院した元患者エレンのコメント
学校に行かれず、友達とも遊べず、病院に隔離された環境での日々は、子供達にとって心身共に相当厳しいものがあろう。アドラープラネタリアムでは14階に天体の見取り図を設置、リンカーンパーク動物園は19階に沢山の動物の生態を写真で示し、子供達の興味を引き込む。

元看護士が100億円を寄付!

ルリィ子供病院は130年前にシカゴ市で診療を始めた小児科専門病院で、この新病棟は2012年に完成した。6年の歳月と総工費605億円(土地代別)が費やされという。同時に、同病院の元看護師で教育者でもあり、長年数えきれない社会福祉貢献をし、新病院建設に100億円の個人寄付をしたアン(とご主人)の名をとってAnn & Robert H. Lurie Children's Hospital と改名。非営利団体のためか、移転にあたっては沢山の人々の支援を募り、ファンドレイジングとよばれる寄付金集めの慈善パーティを何度も催したという。先に述べたシカゴ美術館やシカゴ交響楽団をはじめとする23の文化事業団体も協力を惜しまなかった。
アメリカ人は慈善活動に対してフットワークが軽い。例えば、シカゴ消防署のハンサムでたくましい署員達がスパイダーマンやスーパーマンの扮装をしてルリィ子供病院の外壁を飛び回って病気の子供達を窓から訪問、ビックリ大喜びさせたこともある。子供達の痛みやつらさを軽減しようという病院側の基本的な環境作りと、その意図に賛同し支援する人々のエネルギーは、子供達の病気の早い回復を促すに違いないだろう。


参考資料
www.luriechildrens.org/en-us/our-home/Pages/community-partner-spaces.aspx
www.chicagoparent.com/magazines/chicago-parent/2012-june/features/lurie-hospital
www.luriechildrens.org/en-us/about-us/Pages/index.aspx
www.youtube.com/embed/zEhMStMyD5E
www.construction-today.com/index.php/sections/institutional/237-ann-a-robert-lurie-childrens-hospital-of-chicago


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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