海外トピックス

2014/8/20

vol.256 善意で積み上げられているロナルド・マクドナルド・ハウス

前回紹介したルリィ子供病院と連携しているロナルド・マクドナルド・ハウス。シカゴの都心にある(イリノイ州シカゴ市)
前回紹介したルリィ子供病院と連携しているロナルド・マクドナルド・ハウス。シカゴの都心にある(イリノイ州シカゴ市)
シカゴ大学付属子供病院と連携しているロナルド・マクドナルド・ハウス。オバマ大統領の自宅もすぐ近くで、由緒ある住宅地。弓形の広いポーチにはベンチがいくつか置かれ、のんびりと通りを見渡せる(イリノイ州ハイドパーク市。以下同)
シカゴ大学付属子供病院と連携しているロナルド・マクドナルド・ハウス。オバマ大統領の自宅もすぐ近くで、由緒ある住宅地。弓形の広いポーチにはベンチがいくつか置かれ、のんびりと通りを見渡せる(イリノイ州ハイドパーク市。以下同)
暖炉を中心にゆったりと寛げそうな居間である。ここで滞在している家族たちが団らんするのだろう
暖炉を中心にゆったりと寛げそうな居間である。ここで滞在している家族たちが団らんするのだろう
キッチン。この写真に写っているのは全体の3分の1程度。何組かの家族が料理できる。すべての食品や調理器具が揃っている
キッチン。この写真に写っているのは全体の3分の1程度。何組かの家族が料理できる。すべての食品や調理器具が揃っている
明るい日差しが入り、広々とした食堂。ここで新しい友達を作ることも
明るい日差しが入り、広々とした食堂。ここで新しい友達を作ることも
ハウスディレクターのマデル・ガンドラックさん(左)と週1度ボランティアにやってくるルース・アルトマンさん(右)
ハウスディレクターのマデル・ガンドラックさん(左)と週1度ボランティアにやってくるルース・アルトマンさん(右)

日本人にとって発音しにくいRとLが入る 「ロナルド」(Ronald) という名前だが、ロナルド・マクドナルド・ハウスは病気の子供に付き添う家族用宿泊所。
子供が深刻な病気で手術や治療のために専門的な医療設備のある病院に入院しなければならない時、家族の不安はいかばかりであろうか?病院が完全看護制になっている現在、家族は子供に付き添って集中治療室や病室に何日も泊まれない。だから近くのホテルに滞在することになるが、経済的にも気持の上でも大変な負担となろう。
こういった状況に陥った家族の負担を軽減する目的で、人々の善意によって建てられたのがロナルド・マクドナルド・ハウスである。

アメフト選手の娘の病気がきっかけで誕生した施設

40年前、フィラデルフィア・イーグルス(アメリカンフットボールチーム)のフレッド・ヒル選手の娘が白血病に侵され入院治療した。その時にヒル選手は、多くの家族が彼同様に付き添いなどさまざまな面で困っていることを知った。そして、ヒル選手をはじめ、フィラデルフィア新聞社主やハンバーガーでおなじみのマクドナルド店長らの尽力で病院の近くに泊まれる施設第1号が誕生したのである。その後、同施設は公益財団ロナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティが運営。いまや世界58ヵ国に322のロナルド・マクドナルド・ハウスが建つ国際的な組織となっている。
ちなみにロナルド・マクドナルドは、赤い帽子をかぶり縞の服を着たキャラクターのピエロの名前。日本では「ロナルド」は発音し難いために「ドナルド」となっているそうだが。

利用の可否はソーシャルワーカーの判断から

シカゴ周辺には5ヵ所のロナルド・マクドナルド・ハウスがあり、いずれも小児科のある病院に隣接している。前回レポートしたルリィ子供病院と連携したハウスは都心のホテルさながら、ひと家族3~4人が泊まれる86の個室があり、おそらく全米一大きなロナルド・マクドナルド・ハウスだろう。
宿泊は患者の家族のみに限られ、このハウスはルリィ子供病院からの紹介が必要である。また、利用は病院から10マイル以上離れた所に住む家族に限る(10マイル以内ならハウスに泊まらなくても自宅から通えるため)。
病院のソーシャルワーカーは、ハウスに泊まることが子供と患者家族にとって最良の選択かどうか判断するために患者の家族にさまざまな質問をする。宿泊が適切だと判断すると、バトンをハウス側へ。ハウスのスタッフは患者の家族に直接連絡をとり、到着日や滞在する期間など詳細を打ち合わせる。

1泊10ドル。運営のほとんどは寄付とボランティアで

シカゴ大学にも付属子供病院があり、病院の向かい側にロナルド・マクドナルド・ハウスがある。典雅なハイドパークの住宅街にふさわしい外観だが、「まだ建ってから6年半」とハウスディレクターのガンドラックさんから聞いて驚いてしまった。
建築家は周囲になじむようなクラシックな邸宅として設計したという。3階建てだがエレベーターをつけねばならず、その費用が一番大変であったとか。他のロナルド・マクドナルド・ハウス同様に、このハウスでも、利用者が自宅で自分が料理するように使えるキッチンや、大きな食堂、居間、コンピューター室など、多くの公共スペースを備えている。洗濯機や乾燥機が何台も常備され、洗剤は無料。滞在家族はハウス備え付けのシーツや枕カバーは自分でベッドにセットしなければならないが、シーツやタオルの洗濯はボランテイアがしてくれる。
キッチンには食料や清涼飲料水、調味料などが揃っていて、大きな冷蔵庫には卵やミルクなど食品がいっぱい。ロナルド・マクドナルド・ハウスの宿泊料は1泊10ドル(1,000円位)という安さだが、ほとんど寄付とボランティアで賄われ運営されている。
案内してくれたアルトマンさんは50年間も看護婦をし、シカゴ大学付属病院の癌専門医であった御主人が亡くなった後、ここで10年以上ボランテイアをしているそうが、滞在する家族がいつも快適に過ごせるようにと暖かく見守る笑顔が強く印象に残った。

宿泊フロアには、家族同士のコミュニケーションの場も

シカゴ大学付属病院が窓から眺められるロナルド・マクドナルド・ハウスは、88%は常に満室だそう。1階がオフィスと各種の公共スペース。2階と3階には家族が泊まれる合計22の個室があるが、珍しいのは各階にある広い居間。そこが普通のホテルと違う。昼間は子供に付き添って病院で過ごすだろうが、夜にはハウスに戻って、似たようなつらい時期を過ごしている患者の家族同士が、ゆったりした居間でくつろぎ、互いに気持ちを分かち合うのだ。
アメリカ人達はよくしゃべる。あけっぴろげである。多くの友人達を観察すると、内向せずにしゃべることでストレスを解消しているようだ。病人の家族も、体験談に共感したり、アドバイスを受けたり…、一人で背負う重い荷物が軽くなるに違いない。もちろんそう望めば、の話で、他人としゃべりたくない家族もあるだろうが、それも人々はよく理解できよう。
家を離れてもゆったりと自宅にいる気分で子供に目を注げるようにと、スタッフの心遣いがうれしい。ぐっすりと寝て身体を休め、明日も病気の子供のためにがんばろう!という勇気が出てくるに違いない。


<参考資料)
http://www.rmhc.org/
http://rmhccni.org/about-us/mission/


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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