海外トピックス

2014/9/22

vol.258 休眠していたY世代が動き出した?

Y世代の友人が最近購入したコンドミニアム(イリノイ州シカゴ市。以下同)
Y世代の友人が最近購入したコンドミニアム(イリノイ州シカゴ市。以下同)
Y世代の友人と婚約者。彼が所有する屋上スペースで気軽なパーティがしばしば開かれる
Y世代の友人と婚約者。彼が所有する屋上スペースで気軽なパーティがしばしば開かれる
親の世代に比べて非常にシンプルなインテリアデザインだ
親の世代に比べて非常にシンプルなインテリアデザインだ
父親からもらった1960年代のジュークボックスがモダンでレトロな雰囲気をかもし出す
父親からもらった1960年代のジュークボックスがモダンでレトロな雰囲気をかもし出す
Y世代に人気のある地区。どんどん新しい店ができている
Y世代に人気のある地区。どんどん新しい店ができている
Y世代に人気があるのは、モダンでしかもレトロな雰囲気のあるバーやレストランだ
Y世代に人気があるのは、モダンでしかもレトロな雰囲気のあるバーやレストランだ

U.S. テニスオープン観戦で連日TVに釘付けになった。これまで不動だった4強プレーヤーに代わり24歳の錦織選手、25歳のチリッチ選手が決勝で争ったというのも印象深かった。新しい星たちの登場か…、世代の交代を強く感じる。彼等はいわゆるX世代の次のY世代に属するが、マーケティング会社や学者によりY世代の年齢規定には幅がある。
N.A.R. (National Association of Realtors =全米リアルター協会)の最新のデータによると、Y世代は1980年から1995年生まれで、現在33歳以下の若者達を指す。アメリカは景気低迷のここ数年間だが、なりをひそめていたかに見えたY世代がようやく動き出す気配がみられ、不動産ビジネスはいまY世代に的を絞っているようだ。

景気上昇で期待されるY世代の動き

その理由は彼等の潜在的不動産購買力であろう。Y世代は現在全体人口の31%、X世代(34歳から48歳)は30%、ベビーブーマーズ(団塊の世代)は30%とされ、潜在的不動産購買層のデータから見る限りではたった1%のリードだが、今後はY世代が表面に浮かび上がる可能性が大きいと言われる。
現在、Y世代の62%が賃貸アパートに住み、20%が両親や親戚の家に同居もしくはルームメートや友達と暮している。彼等が今後コンドミニアムやタウンハウス購入に踏み切るかどうかは景気や雇用率いかんにかかってくるのだが、今、じりじりと景気上昇の気配が感じられるのである。Y世代は初めて住宅(コンドミニアムやタウンハウス、一戸建てを含む)を購入する世代でもあり、住宅購入者に占める一次取得者の割合は76%という高率なのだ。
不動産を供給する側がY世代の動向を気にするのは当然ではあるまいか。

住まい選びも情報収集も、これまでとは異なる世代

Y世代の住まいに関する選択には「流動性のある暮らし方」という特徴が見られる。世の中の動き次第で彼等が仕事を見つけて動き出した時、賃貸に住むか投資としてコンドミニアムを買うかどうかは判断が難しい。ということは、供給側にしてみれば、強い働きかけ次第で賃貸、購入、いずれかにY世代を取り込む可能性があるということだ。
彼等を惹き付けるには、Y世代の好みを知り、それに対応する必要があろう。
だが、不動産エージェントの多くはY世代でなく、Y世代特有の伝達法に気がつかない場合も…。例えば、住まいを探すプロセス。ベビーブーマーズは欲しい家を見つけると不動産エージェントに連絡を取る。一方、Y世代は圧倒的にネットで検索。その上、彼等の半分以上がスマートフォンで住まいを検索し、検索を行なったうちの26%は住まい購入に結びついているという。
また、ベビーブーマーズの不動産エージェントへのコンタクトが電話中心で直接話し合うのに比べ、Y世代はEメールとテキストメッセージを重視するという大きな違いもある。スマートフォンから温度、照明、音量調節までできるような住まいを希望するなど、多くの面でY世代はスマートフォン重視の傾向が見られる。ちなみにアップルウォッチ購入に3日も前から並んだ人たちの映像を見ていたら、圧倒的にY世代の若者達であった。

実用的、かつレトロデザインが好み

Y世代が好むインテリアの特徴は「明るい色彩のレトロ+モダン」と、イリノイ州のインテリアデザイン会社社長・ヘレン ヴィラスさんは言う(Chicago Tribune Newspaper 03/02/2014)。
他の世代に比べ、トラディショナルというよりはモダンなインテリアデザインが好きだが、「レトロ」が決め手。1960年代のターコイズ色やピンク、当時のカーテン柄などが彼等にとっては新鮮に映るようだ。賃貸アパートやタウンハウス、一戸建てを供給する側でも、伝統的な住まいに使われる壁紙でなく、レトロな色彩のペンキを壁全体に塗るようになってきた。
トラディショナルな家はさまざまなパーツ(幅木、回り縁、腰見切り)が腰板や天井と壁、壁と床との境にも使われているが、それらの装飾を多少省略すると、手間代やパーツ代を節約できる上にモダンな外見になる。キッチンとダイニングルームをひとつにするのも最近の傾向で、もちろんスペースの節約にもなる。
Y世代の住まい購入の頭金は平均5%と、他の世代に比べ少ないが、多少の貯金に加え両親から借りたりプレゼントしてもらったり…。住宅購入にしても賃貸でも至近に余裕はないから、Y世代に的を絞った物件は贅沢な仕様でなく、スペースを実用的に使え、しかもレトロ的遊び心のある惹き付け方が必要だろう。

移動も気軽に…。落ち着くには早い世代

33歳以下のY世代は男女とも独身が多い。そのため、理想の住まいは歩いたり自転車で会社に通え、通勤に便利な都心部。会社に近ければ、昼休みに犬を散歩に連れ出したり、出勤前にジムで泳いだりエクササイズの時間を取ることもできる。
仕事を終えた夜の時間や週末を充分に楽しみたいY世代は、同世代の若者達が集まるカフェ、スポーツバーが集まっている地域を好む。シカゴはブルース、ジャズ、ロックを演奏するホールやバーが数多い地域があって、とりわけその界隈はY世代を魅了するようだ。
つきつめてしまえば、Y世代にとって住まいは単にねぐらに過ぎないのかもしれない。根をはやしてしまうと、新しい仕事を得たときに他の州に気軽に引っ越し難くなるし、まだ落ち着くには早い世代なのだろう。
彼等のことを「遅れて参入した世代」と言う人もいる。ここ数年の景気低迷期でパートタイムの仕事があれば良い方、大学を卒業してさえ仕事に就けなかったり、年齢が若いだけに仕事探しをあきらめて大学院で勉強し直したり。結婚や子供を持つ年齢も高い。他の世代より遅れるにしても、景気が回復次第、望む仕事を得て新しい土地に引っ越し、そこで住まいを見つける可能性は大なのである。


参考資料
/www.realtor.org/sites/default/files/reports/2014/2014-home-buyer-and-seller-generational-trends-report-full.pdf


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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