海外トピックス

2014/11/6

vol.261 蔦にからまる話

年代物のスレート(屋根瓦)や青銅の飾り、石造りの建物には蔦がよく合う(イリノイ州エバンストン市)
年代物のスレート(屋根瓦)や青銅の飾り、石造りの建物には蔦がよく合う(イリノイ州エバンストン市)
窓やガレージドアの開閉に不便だろうと思うのだが、蔦を取り除く気配は全くない(イリノイ州シカゴ市。以下同)
窓やガレージドアの開閉に不便だろうと思うのだが、蔦を取り除く気配は全くない(イリノイ州シカゴ市。以下同)
まだ蔦の葉が残っているうちに雪が降る時があり、晩秋の美しい光景だ
まだ蔦の葉が残っているうちに雪が降る時があり、晩秋の美しい光景だ
蔦の根は地面から生えているが、蔦の先が毎年どんどん伸びて、あいているスペースを覆ってゆく
蔦の根は地面から生えているが、蔦の先が毎年どんどん伸びて、あいているスペースを覆ってゆく
葉が落ち蔓は枯れるが、根がある限り、蔦は毎年生えてくる
葉が落ち蔓は枯れるが、根がある限り、蔦は毎年生えてくる
春の青っぽい緑の若葉から、秋が深まるにつれて紅葉してゆく彩りは美しく、散歩をする人々の目を楽しませてくれる
春の青っぽい緑の若葉から、秋が深まるにつれて紅葉してゆく彩りは美しく、散歩をする人々の目を楽しませてくれる

アメリカ北東部の名門私立8大学連盟をアイビーリーグと呼び、アイビーリーガーつまり彼等卒業生は、長い間に蔦が八方に伸びていくようにアメリカの政財界や学界、官界の中枢に強力な人脈を構築してきている。
ハーバード大学は1636年に創立されたというから、徳川家光が将軍の頃。ということは、ハーバード大学校舎は東照宮と同じ頃に建てられたのであろう。確かに古い!
ハーバードに加えてイェール大学やダートマス大学など、アイビーリーグ8大学の多くはアメリカ独立以前に設立され、蔦(IVY=アイビー)が建物を覆いつくす程歴史があるから「アイビーリーグ」と名付けられたのだという説があるが、諸説あるにせよ、新しいものをよしとするアメリカでも、蔦と古い建物は好まれているようだ。古色蒼然としたレンガや石造りの建物に蔦はよく映える。

蔦の絡まる球場、特有のルールも

シカゴカブス(野球チーム)の本拠地リグレィフィールド球場は100年前に作られ、全米では2番目に古い球場。外野フェンスに蔦が生い茂っているのは全米でもここだけだ(wrigleyivy.com)。
蔦が歴史を証明する、とシカゴっ子は胸を張る。5月のシーズン始めには新緑が美しく、夏は緑が深くなり、野球シーズンが終わる秋には紅葉が美しく映えるので有名。試合中にボールが飛んで来て蔦の茂みに入り込んでしまう事故(?)もあり、そのためにリグレィフィールド球場だけに特別なルールが作られている。蔦の中を探すのに時間がかかってしまうが、相手チームはその間ベースを廻ることはできず、2塁で止まるそう(www.thisdayinchicagocubshistory.com/Wrigley-Ivy.html)。
現在改築中だが、ファンは蔦のあるリグレィフィールド球場を愛しているので、蔦を廃したらとんでもない騒ぎになろう。改築後の来春、蔦が無事に生えるだろうかと気をもんでいる。

壁の劣化や虫被害、エアコン不調など住居にはマイナス面も

蔦は水を含むため壁の劣化を起こすこともある。また、昆虫が多く集まるのでそれを防ぐために殺虫剤をまく場合もある。戸外にエアコン機器を置いてある家が多いが、蔦が機器を覆うとエンジン不調の原因になる等、いくつか蔦によるマイナス面があるにしても、人々はめったに蔦を取り除かない。
蔦をよく見て見ると、蔓(枝というのだろうか?)の先がぴたっと吸い付く小さな吸盤のようになっていて、それが壁の表面にくっつき伸びてゆく。凹凸の少ないコンクリートの表面でさえも蔦は這い上がってゆく。根はしっかりと地面から生えていて、レンガや塀や壁に絡まり簡単には引き抜けない。

エコ効果アピールし商品化も

エコシステムに関心を持つ人々が増えて、現在「緑のカーテン」が話題になっている。日本では昔から朝顔やへちまなどで夏に日陰を作ってきているので、考え方としては今更珍しいことでもないだろうが、アメリカでは「緑のカーテン」を商業物件に多く設置する傾向があり、それらが都心で目につくようになった。さまざまな植物が「緑のカーテン」の素材として試されているが、蔦も時折使われる。
エネルギー節約と言っても維持費は結構かかるだろうし、厳しい冬には枯れるから、実際的というよりはむしろ「当社はエコに配慮していますよ」と伝達したいのかもしれない。郊外では蔦の生い茂る家がたくさんあって、築100年は経つ古い家が多いせいか、蔦とセットになって落ち着いた町の景観を作っている。

胸に残る「最後の一葉」

蔦が印象に残るO. ヘンリーの短編がある。貧しい人々が住むニューヨークのアパートでの話。病気の青年は蔦の葉が散る頃自分は死ぬだろう、と思い込む。アル中でおおぼらふきの老画家はそのことを住人から伝え聞く。嵐の翌朝、青年は蔦の葉は落ちたと思って壁を見ると、驚いた事にまだ蔦が1枚残っていた。その夜も再びひどい嵐だったが、朝には蔦は何とレンガに一葉しっかりとしがみついていた。それを見た青年は生きる勇気を得る。しかし、実は嵐の夜中に老画家が蔦の葉を壁に描いたのだった。老画家は肺炎で死んでしまうが、この蔦の一葉は老画家の人生で最大の傑作と言えよう。大昔、高校の英語の授業で習ったのでストーリィは正確でないかもしれないが、老画家が描いた色鮮やかな蔦のイメージが今でも脳裏に蘇る。
蔦は古風でやさしい。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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