海外トピックス

2015/1/6

vol.265 ジョージ・ルーカス美術館がシカゴにやってくる?

ルーカス美術館の完成予定図。イリノイ州シカゴ市。以下同。(写真提供=The Lucas Museum of Narrative Art)
ルーカス美術館の完成予定図。イリノイ州シカゴ市。以下同。(写真提供=The Lucas Museum of Narrative Art)
背景が完成予定図と同じなのに注目。ミュジアムキャンパスの中、このあたりに建てられる予定。左側の建物はシェッド水族館
背景が完成予定図と同じなのに注目。ミュジアムキャンパスの中、このあたりに建てられる予定。左側の建物はシェッド水族館
ミシガン湖に沿っての47km、フリーウェイの西側には個人の建物は建てない規約になっているのだが…
ミシガン湖に沿っての47km、フリーウェイの西側には個人の建物は建てない規約になっているのだが…
建物が建っていないミシガン湖畔では、ボートや魚釣りなどが存分に楽しめる
建物が建っていないミシガン湖畔では、ボートや魚釣りなどが存分に楽しめる
広々とした湖畔は、400万人が住む大都会の人々に憩いを与えている
広々とした湖畔は、400万人が住む大都会の人々に憩いを与えている
厳しく長い冬を過ごすシカゴ市民は、夏にはピクニック、バレーボール、サッカーゲーム、ゴルフ、テニス、サイクリングなどをして湖畔で楽しむ
厳しく長い冬を過ごすシカゴ市民は、夏にはピクニック、バレーボール、サッカーゲーム、ゴルフ、テニス、サイクリングなどをして湖畔で楽しむ

「スターウォーズ」シリーズや「インディアナジョーンズ」でおなじみの映画監督、ジョージ・ルーカス氏(以下敬称略)は、彼の美術館を自費でシカゴの一等地ミシガン湖畔のミュジアムキャンパス内に建てる、と提案。シカゴ市長も大歓迎で、すでに著名建築家チームによる建築プランもでき上がった。時代を飛び越えた未来的な建築デザインである。
しかし、現在いくつかの理由で反対する声も多く、2014年11月には訴訟問題にまで発展。建設計画は膠着状態で、2015年、この問題がどう進展してゆくのか、市民の注目を集めている。

市内一等地、現在は駐車場となっている広大な土地に…

正式にはルーカス・ミュジアム・オブ・ナレィティブ・アート(Lucas Museum of Narrative Art) という名称で、これからの世代に芸術的な刺激と文化及び教育を与えることがこの美術館の目的だそうである(www.lucasmuseum.org/museum-design.html)。
ルーカスの収集品や「スターウォーズ」に関わる品々、デジタルアートが収められ、さらに4つの映画館、教育センター、レストラン、展望台と盛り沢山。構想は大変結構でございます、と言いたいところなのだが、ルーカスが選んだ場所が議論の問題点なのである。
そこはレイクショアドライブ(高速道路)とミシガン湖畔に挟まれた都心の東側で「ミュジアムキャンパス」と呼ばれる市内の一等地。すでにフィールド博物館、シェッド水族館、アドラープラネタリウムが立ち並び、シカゴを訪れる観光客を惹きつけている。同じキャンパス内にはソルジャーフイールド(アメリカンフットボールスタジアム)も建っており、現在駐車場となっている17エーカーの広大な土地が、問題の予定地だ。

市長は大歓迎! が、一部市民が違法と提訴

シカゴ市長リム・エマニュエル氏は、美術館建設はシカゴ市にとって雇用の機会を増やし、世界中から観光客を呼び込み、市の財政を潤す、とルーカス美術館招聘に大賛成。ルーカスについても、過去40年に渡り革命的なストーリーテラーとして活躍している人物と評し、同美術館は彼の経験を通して我々が学ぶ素晴らしい場所になると絶賛、ルーカスの善意(建設にはルーカス自身が3億円つぎ込み、さらに4億円寄付する予定)を讃えている(www.lucasmuseum.org/museum.html)。
ところが、である。14年11月13日、フレンズ・オブ・ザ・パークス(Friends of the Parks=市民による非営利団体)は、湖畔はイリノイ州の公共の土地で、市が一個人に建設を許可するのは違法であると、シカゴ公園局とシカゴ市を相手取って訴訟を起こした。立地の選定についての申し立てである(www.avclub.com/article/chicago-ordered-not-touch-george-lucas-museum-site-212344)。
市長は、美術館が建つのはあくまでも公共の土地で合法。訴訟には勝つと自信満々だが、実は、ルーカスの妻はシカゴ出身のビジネスウーマンで、現エマニュエル市長の強力な支援者。11年の市長選にはディズニー社(現在ルーカスが大株主)と合わせて5万ドルの献金もしており、政治的な駆け引きが見え隠れするのが気になる(www.chicagobusiness.com/article/20141113/NEWS07/141119895/no-museum-on-the-lakefront-mr-lucas-lawsuit)。

「ジャバ・ザ・ハット」のようなデザインに、批判的な声も

シカゴトリビューン新聞社の建築欄担当でピュリッツァー賞受賞者でもあるベテランジャーナリスト、ブレアー・カミンは、ルーカス美術館の建築設計デザインに対し批判的だ(www.chicagotribune.com/news/columnists/ct-lucas-museum-critique-kamin-met-1107-20141106-column.html)。
ルーカス自ら選んだ中国の若手建築家マ・ヤソング (Ma Yasong) による設計は、カミンによると、コンピューター使用の設計に特有の、無定形でアメーバ状の建物で、まるで巨大なランプのよう。完成予定図を見る限り灰色でずんぐり、しかも映画スターウォーズの中のジャバ・ザ・ハット(太ったヒキガエルとワニのような悪漢)のように巨大だという。カミンは、この設計は美しく崇高なミシガン湖を見晴らす公共の場所にはまるでふさわしくないデザインだが、まだプランの段階なので設計変更の時間はある、と示唆。さらにミシガン湖畔でなく違う場所に建てればよいのでは、とうながしているが、ルーカス側はここでなければ建てないと一歩も引かない構えだ。

市民の憩いの場でもある湖岸。問われる公共用地の活用

昔、火事で全焼したシカゴ市を大開発し、現在のシカゴ市街を構築した総合都市開発プランナー、ダニエル・バーナムを忘れることはできない(vol.179「バーナムの都市再開発プラン」拙文参照)。
バーナムは公園を重要視し、特にシカゴについて「湖岸は公共に使われるもので、たとえ30cm四方たりとも個人が所有すべきでない」と言い切り、湖岸沿いに土地開発業者のビジネス介入を禁止した。100年余り経た現在でも彼の基本精神は失われず、都心でありながら湖の自然は守られ市民誰もが眺望を楽しめる。都心からフリーウェイに沿って南北47kmに及ぶ湖岸は公園として開放され、市民の憩いの場だ。
ミシガン湖沿いのミュジアムキャンパス内には博物館や水族館やプラネタリウムは建っているが、これらはあくまでも公共が共有する永久不変の財産で、個人の収蔵品を陳列するルーカス美術館はバーナムの精神を反映していないような気がするのだが…。今後の展開が興味深い。

Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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