海外トピックス

2015/1/20

vol.266 ひとつの屋根の下に三世代が暮らす

カーリー(左)と祖母のボビー、お嫁さんのクリス(右)。働くクリスのためもあり、ボビーは週の半分は孫達の面倒を見ている(イリノイ州シカゴ市。以下同)
カーリー(左)と祖母のボビー、お嫁さんのクリス(右)。働くクリスのためもあり、ボビーは週の半分は孫達の面倒を見ている(イリノイ州シカゴ市。以下同)
数年前に友人が買った3階建コンドミニアム。母親が1階、二組の娘家族がそれぞれ2階と3階に住む
数年前に友人が買った3階建コンドミニアム。母親が1階、二組の娘家族がそれぞれ2階と3階に住む
典型的な三世帯住宅のコンドミニアム。土地を有効に利用できるために都市に多い
典型的な三世帯住宅のコンドミニアム。土地を有効に利用できるために都市に多い
ミシェールが住む二世帯住宅。入り口はひとつだが、すぐに1階と2階とに分かれ、完全に別世帯だ。1920年代に建てられたタイプの住宅が多いシカゴ。堅牢で剛健な良き時代に建てられた
ミシェールが住む二世帯住宅。入り口はひとつだが、すぐに1階と2階とに分かれ、完全に別世帯だ。1920年代に建てられたタイプの住宅が多いシカゴ。堅牢で剛健な良き時代に建てられた
1軒の住宅が取り壊されてこのタイプのコンドミニアムが2軒建つのをよくみかける。そして三世代が一緒に棲み分けるケースが多くあるそうだ
1軒の住宅が取り壊されてこのタイプのコンドミニアムが2軒建つのをよくみかける。そして三世代が一緒に棲み分けるケースが多くあるそうだ

親、夫婦、子供の三世代が共に住むケースが増えてきつつあり、三世代同居は2015年の新しい傾向として注目されている。
というのは、ここ数年の不景気で、経済上の理由から家族が一緒に住むケースが増えてきているのだ。特に、子供の世話を施設でなく親に依存する共働きカップルが増えた。そして親の側でも、年をとってゆく自分たちの将来を考えると、子供達と一緒に住むのは心強い。
社会状況の変化から生じてきた三世代同居の傾向だが、人種別に見ると、移民として現在増加しているアジア系とヒスパニック系の家族に多く見られるようだ。一方、人種別ではなく所得別に眺めた時に、とりわけ低所得層に三世代同居が増えている状況は多少気にかかる。

子供10人に1人が祖父母と同居

全米国勢調査によると、祖父/祖母の世代と彼らの子供である世代とを比べると、現在、三世代同居は祖父/祖母の世代から3倍の800万人にも増えているそうだ。また、ピュウ・リサーチセンターの調査によると、子供10人に1人が祖父/祖母と同居している、という結果が出ている。筆者の予想以上に多い数字で驚くが、社会状況を眺めると、さまざまな要因があるのに気づく。
例えば、両親がほとんど不在で祖母が全面的に孫を育てているとか、祖母が孫の世話をしに毎日子供の住まいに通ってくるとか、あるいは祖父が子供や孫と一つ屋根の下に同居しているとか…。そしてこれらのケースは主に貧困家庭に多い。
そのような状況をふまえてか、政府が供給する低所得層向けのアパートは孫の世話をする祖父/祖母を想定して車椅子が通れるような広い廊下が設置され、手すりも取り付けられるようになった。さらに、窓を大きくとって、孫達が昼間過ごしている遊び場を祖父母が室内から見渡せられるような工夫を凝らした設計もなされている。

移民にとってはあたりまえだった三世代同居

伝統的な家族の形態として、三世代、四世代が一緒に住むのは世界中どこの国でも少しも珍しいことではなかった。多世代が暮らしを共にすることで、文化やその家のしきたりが世代から世代へと伝えられてきたものだ。
近年は、代々続いてきた行事に伴う飾りや料理の数々を次世代に受け継いでゆくといった習慣は、どこでも消えつつある。新しい国アメリカでは20世紀前後に沢山の移民達がやってきた。仕事を得るために都会に移住することが優先し、どの都市でも住宅が不足していたので、親と同居は当時珍しいことではなかった。一戸建ての家に住める移民家族は稀で、多くは狭いアパートに三世代が同居していたという話はよく友人達から聞く。
そのせいか。片言ながら祖国の言葉を理解できる移民二世三世達がシカゴにはまだ結構多い。

「アメリカンドリーム」から半世紀。不景気で変わる住宅事情

第二次世界大戦後、沢山の住宅が都会から放射線状に郊外に建てられ、結婚したカップル達は親から独立して郊外へと巣作りを始めていった。一戸建ての我が家を持つという「アメリカンドリーム」達成であった。
ところが、半世紀ちょっと過ぎた現在、豊かなアメリカの社会事情は変わってきている。ここ数年の不景気が人々の暮らしを圧迫し始め、家を持ったはいいが、保持してゆくのは困難。アパート暮らしの人でも、仕事を解雇され家賃を払うのが苦しくなったり、光熱費の高騰で食費をけずらなければ暮らしてゆけない家族が増えてきた。
共働き夫婦でであっても、ディケア(保育園)に支払う金額を捻出するのは容易ではない。時にはディケア費用が収入を上回ってしまうこともあるほどだが、かといって夫だけの給与でやっていける余裕もない。そこで親に救援を頼むことになる。シングルマザーであればなおさらのことだ。

親世代にとっても、将来不安の解決策に

親世代は、まだ仕事をしている人もいれば、引退して趣味を活かしたり旅に出かけるなど老後を楽しんでいる人もいる。総じて100年前に比べ50代から60代はまだ十分に元気だ。それでも徐々に年をとって今のようには動き回れなくなる日がくるだろう。現在の年金だけでは到底満足のいくシニア施設への入居は望めない。うら寒い現実を眺めた時に、子供と一緒に住むのは願ってもない解決策、と考えるのは少しも不思議ではない。
選択の余地なく一緒に住まざるを得ない家族もいれば、つかず離れずほどよい距離をおいて互いのプライバシーを尊重しつつ一つ屋根の下に暮らす余裕のある家族もいる。
三世代同居の内容はさまざまにしても、基本的にこの状況は、水が高いところから低いところに流れ込むように自然なかたちに思われる。


参考資料
/gu.org/LinkClick.aspx?fileticket=yfGpYQNMuxk%3d&tabid=565&mid=1182
www.pewsocialtrends.org/2013/09/04/at-grandmothers-house-we-stay/


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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