海外トピックス

2015/9/7

vol.281 リタイアの条件を満たす3つの鍵とは?

フロリダ州は陽光がまぶしく1年中暖かいので、シニアに絶大な人気がある(フロリダ州マイアミビーチ)
フロリダ州は陽光がまぶしく1年中暖かいので、シニアに絶大な人気がある(フロリダ州マイアミビーチ)
屋上に設置されたジム。マイアミビーチはスポーツや戸外の娯楽がたっぷり楽しめる(フロリダ州マイアミビーチ)
屋上に設置されたジム。マイアミビーチはスポーツや戸外の娯楽がたっぷり楽しめる(フロリダ州マイアミビーチ)
旅行や絵の講習を楽しむ元気なシニアのカップル(メイン州ヘイスタック工芸学校)
旅行や絵の講習を楽しむ元気なシニアのカップル(メイン州ヘイスタック工芸学校)
引退後は近所にマーケットや食材店がある地域に住みたいものだ(フロリダ州マイアミビーチ)
引退後は近所にマーケットや食材店がある地域に住みたいものだ(フロリダ州マイアミビーチ)
ビーチの監視アルバイトをする学生達。若い人たちをしばしば目にするカレッジタウンである(イリノイ州ノースウェスタン大学)
ビーチの監視アルバイトをする学生達。若い人たちをしばしば目にするカレッジタウンである(イリノイ州ノースウェスタン大学)
大きな本屋や気軽なカフェやレストランが多いカレッジタウン(イリノイ州エバンストン市)
大きな本屋や気軽なカフェやレストランが多いカレッジタウン(イリノイ州エバンストン市)

 今年は400万人のベビーブーマーズがアメリカでリタイアするそうで、彼らの動向が気になる。引退後の楽しい暮らしを心待ちにしてきた元気溌剌のベビーブーマーズだが、準備は万全だろうか? 
 フットワークの軽いアメリカ人、引退後、住まいや暮らし方をがらりと変える人々が多いのだ。 

 それにしても…、飛び出す前に経済面と健康保険、そして住む地域の状況。これら3つは引退後の安心を守る鍵であるからしっかりと把握しておきたい。

 では「ゴールデンエイジ」と讃えられる引退後の日々を充実して過ごす鍵とは?

シニア向け税制優遇があるかどうかは大事なポイント

 まず経済面。アメリカ人は流動的でよく引越しをするが、引退後にどこに住むかは経済的な観点から見て重要な要素である。郡に収めるプロパティタックス(固定資産税)や収入に対して、シニア向け控除があるかどうか調べる必要があろう。

 ミシシッピ州ではシニアの収入には課税されず、プロパティータックスも控除があるそうで (Chicago Tribune 新聞、2015年7月5日)、州や郡によって相当違いがある。
 
 暖かくて陽光あふれる地域は、北部に比べて暖房費が節約でき、燃費の点で経済的。フロリダ州、アリゾナ州、ネバダ州、ジョージア州、カリフォルニア州など、暖かい州にシニア専用のコミュニティが集中し、プールやテニスコート、ゴルフ場を備えたリゾート型のシニア(健常者)専用のコミュニティが供給されている。
 
 一戸建て、タウンハウスやコンドミニアムなど選択肢も多く、55歳から入居できるので、早めにリタイアしてゴールデンエイジを謳歌するブーマーズも。
 しかし、州及び郡により税金も物価も違うので、上記の暖かい地域が必ずしも経済的とは限らないので要注意。

万一の時の医療設備・保険も確認を

 次に健康保険はどうか?
 政治家が選挙の度に取り上げるように、健康保険はアメリカ国民の頭を悩ます問題だ。現大統領が設定したオバマケアは話題を呼んではいるが、100%の満足とはいかない。高齢者用医療保険が受けられるのは65歳からだから、もしも55歳でリタイアすると65歳までの10年間をカバーする健康保険を確保しなければならない(アメリカと日本では健康保険制度が違う)。

 加えて、引退する予定地にしっかりした医療設備を持つ病院があるかどうか。いま健常でも検査やちょっとした疾患で近い将来病院に行く機会が増えるのは容易に予測がつこう。
 救急車が来るまで数十分、さらに病院に運ばれるまで数十分かかるのでは心もとない。

 画家のジョージア・オキーフはニューメキシコ州タオスの山岳地帯にスタジオを構え、余生を送ったが、彼女は人並みはずれた強い意志を持ち続けた。人里離れた土地に引退するには余程の覚悟がないと…。

季節ごとに下見して、生活のイメージづくりを

 住む地域の状況いかんによって、ゴールデンエイジとして輝く日々をおくれるかどうかを左右する。
 予定の地域に家族や友人がいたり、誰かから話をきいてその場所を選ぶシニアが多いのだろうが、居を定める前に何度かそれぞれ違う季節に訪れてみるのも様子がよくわかってよい。
 仕事場へ毎日通ったこれまでの暮らしと違い、その土地で隣人となごみ、友人を作り、食事をしたり、地元で楽しむ時間が比較にならぬほど多くなる。
 だから、食事が提供されるシニア専用のコミュニティに住むのでなければ、食材店や郵便局、図書館などへ歩ける距離か、車でそう遠くない場所を選びたい。

 都会は便利で公共機関を利用できるが、大都会のニューヨークやロスアンゼルス、小都市のサンフランシスコにしても土地も物価も高く、引退者向きではない。大都市で仕事をし、引退後は税金や物価が安い中小都市へ流入するシニア達が周囲に急激に増えつつある。
 
例えば、カンサスシティ市(ミズーリ州)、マディソン市(ウィスコンシン州)、ポートランド市(オレゴン州)など、地方の小都市には大都市に比べてワンテンポ穏やかな気風が漂っている。
 そのような落ち着いた中小都市の市内か郊外に住み、旅行好きなシニア達はニューヨークやサンフランシスコへと旅行してさまざまなイベントや美術館巡りなどを楽しむ風潮が見受けられる。

学生とシニアが交流するまちづくり

 少々話の視点がそれるが、不動産ビジネスの観点から眺めると、中小都市のカレッジタウン(大学町)周辺はシニアハウジング開発において、現在、最も注目してよいのではないか。
 
 というのは、大学が街の「核」をかたち作っており、その周辺は活動的なシニア達を惹きつける要素が多い。学生が多いせいもあり物価が割合に安いし、比較的安全でもある。カフェが多く寛げる雰囲気のレストランも多い。カレッジタウンには設備のよい病院が揃っている。知的な刺激を与えるコンサートや演劇、展覧会、テニスやアメリカンフットボールなどの学生スポーツなど、各種催し物にも事欠かない。しかもほとんどが無料。カフェや映画館、食料品店、通りも若い人々が行き交う。

 元気なシニア達は若い人々を目にするのが好き。温暖な地域のリゾート型シニア専用のコミュニティはすでに供給されつくされている感があるが、カレッジタウンは全米至る所に散らばっていて、まだまだ開発の余地があるような気がする。
 
 シニア同士が同じような時間帯で生活でき、しかも若い人々の多いカレッジタウンに立地するシニア向けの住まいは、シニア達、開発業者両者にとって一考の余地があろう。


参考資料
www.trilogylife.com/communities/
www.medicare.gov
Chicago Tribune newspaper July 5, 2015


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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