海外トピックス

2016/1/20

vol.290 学生をターゲットに歴史的保存建物の再生と活用法

アーク・アット・オールドコロニーの入口(イリノイ州シカゴ市。以下同)
アーク・アット・オールドコロニーの入口(イリノイ州シカゴ市。以下同)
100年以上も前に建てられた17階建ての建物だが、堅牢でゆるぎもしない
100年以上も前に建てられた17階建ての建物だが、堅牢でゆるぎもしない
現在ではとても再現する事は難しい石彫の数々が見受けられる
現在ではとても再現する事は難しい石彫の数々が見受けられる
Arc at Old Colonyの受付。入ってすぐ右側にエレベーターがある
Arc at Old Colonyの受付。入ってすぐ右側にエレベーターがある
Arc at Old Colonyでは古いビルのウィンドウに若者たちのイメージを飾ってプロモーション活動がされている
Arc at Old Colonyでは古いビルのウィンドウに若者たちのイメージを飾ってプロモーション活動がされている
正面はデュポール大学。シカゴ都心中心部には20もの大学があり、ビジネス関連の人々に混じり、町中に学生が多い
正面はデュポール大学。シカゴ都心中心部には20もの大学があり、ビジネス関連の人々に混じり、町中に学生が多い

 都心部の大学を目指す学生の増加と共に、彼ら若い都会派をターゲットとする豪華な学生アパートが供給され、話題を呼んでいる。とりわけ歴史的に由緒ある建物を大改築し、贅沢に慣れた学生でさえ大満足するようなお洒落な内装を施した建物「アーク・アット・オールドコロニー」は、年代を経た風格と現代的なシャープさを混在させた点、見事である。

 しかしながら、都心は郊外や都下、田園地帯に比べて土地代はぐんと跳ね上がるから、部屋代も当然ながら高くなる。学生をターゲットとした場合に、供給する事業者はどのような工夫をして学生が払える範囲の家賃に抑えているのだろうか?

120年前の建物を58億円かけて大改築

 シカゴ都心に最近供給された「アーク・アット・オールドコロニー」(Arc at Old Colony) は、不動産投資やマネージメントを行なう大手のCAベンチャー社により58億円かけて大改築がなされた。アメリカ合衆国歴史登録材(National Register of Historic Places)として登録されたこ
の17階建の高層ビルは、資産の保全に必要な支出に対して国家の税優遇が受けられる。

 1893年(明治時代だ!)に建てられたこの古い建物は、外壁と骨組及びいくつかの室内装飾を残しながら大改築が着工され、学生用アパートメントへと再生されたのだが、改築に際して建物に20%の税控除が受諾されなかったら、手をつけるのは難しかったかもしれない。

 建物は都市の埃や煤煙を浴びて黒ずんだ外壁だったが、120数年間の汚れを丹念に落とすと、明るいグレーの石灰石とテラコッタの装飾が施されたクリーム色の煉瓦が現れ、明るい印象の建物に、まるで魔法のように変貌したのである。

キッチンには大理石のカウンター、屋上にはBBQグリルも

 ロビーの天井が低いのは残念だが、当時の壁紙や照明器具が残され、現代の軽いプラスティック素材に慣れた学生達にとっては、まるで美術館か博物館の中に住んでいるような印象があるに違いない。

 ふつう寄宿舎と言えば、キャンパス内にあって、2段ベッドと机が2つあるだけの殺風景で小さな部屋をルームメイトと共有するのが典型的。ところが、380人分のスペースを用意しているアーク・アット・オールドコロニーは、ベッドやソファなどの家具つきで、学生共有のスペースであるキッチンには大理石のカウンタートップや観音開きのステンレス冷蔵庫が備えられている。洗濯機や乾燥機は言うまでもなく、フィットネスセンターや屋上はBBQグリルまで取り付けられているという贅沢な仕様。

2人部屋でも、1人15万円の家賃

 月々の賃貸料は借りる学生とCAベンチャー社傘下のマネージメント会社 (CA Student Living Chicago) とで契約を結ぶ。通常のアパートメント賃貸のように一部屋借りる、という契約ではなく、1ベッドが一単位の個人契約となる。

 よくキャンパスの外に学生達が共同で部屋を借り、一部屋の代金を頭数で割って家賃を払うが、ここは違うシステム。例えば、4人部屋で家賃8万円というと、あくまでも1人8万円。4人で部屋を共有して8万円を頭数で割るわけではない。そして2人部屋でさえ1人15万円位もするので、学生ごときが何て贅沢な!とあきれてしまうが、従来の寄宿舎でなく、都会的なおしゃれな暮らしをしてみたい、と望む学生もどこかにいるのだろうか。

入居申し込みから支払いまで、すべてネットで

 Arc at Old Colonyのウエブサイトは、リッチな学生を相手にするだけあって十分にお金をかけ吟味されて制作されており、かつ非常に分かりやすい。写真も美しいので参考にぜひ見ていただきたい(www.arcatoldcolony.com)。

 遠隔地に住んでいてもネット上で申し込みから払い込みまで済んでしまう便利さで、まず学生は申し込み書に記入し、財政面で責任をとれる保証人(多くは両親)の承諾を得る。本人のバックグラウンド審査でパスすれば入居の運びとなる。

 どんなルームメイトと住むようになるのか不安なのは当然だろう。アーク&オールドコロニーは、ルームメイトマッチングサービスを実施しており、入居したい学生に希望を記入してもらう。例えば、静かに勉強したいのか、都会暮らしを楽しみたいのか、綺麗好きか、社交的か、自分のタイプは、など。うまく折り合うようにアーク&オールドコロニー側で考え合わせて学生達を組み合わせるのである。

キャンパス内の寄宿舎より、都会暮らしを…

 シカゴの都心には20以上の大学があるが、都心ゆえキャンパス内に寄宿舎のある大学は多くなく、収容人数にも限りがあって、自分で住まいを探さねばならない学生達も当然出てくる。都会から離れ、隔離されたキャンパスで学生生活を謳歌するのもよいが、都心の大学で学びつつ都会暮らしを味わいたい、と望む学生が増えているというニュースも最近よく聞く。

 彼等は都会のさまざまな文化的行事に参加したり、美術館やギャラリー、劇場、コンサートに惹かれるが、それらに行くのは勉強の一環でもあろう。金融関係に関心があればニューヨークの銀行街、芸術やファッションやアートマネージメント専攻の学生なら美術館などが都心に集中している都市を選ぶのは言うを待たない。専攻科目に関係あるインターンシップを得る可能性も都会にはある。そしてインターンシップから卒業後の就職へと移行する可能性は多い。在学中にアルバイトをみつけ、うまく時間を割り振って働くにも都会の方が動き回りやすい。

 先に述べたアーク&オールドコロニーは環状線の駅前にある。歴史的な建物を同様に大改築して学生用のアパートメントにした「インフィニットシカゴ」もやはり駅から徒歩数分の立地である。若者達は贅沢でもあろうが、結構実際的でもあるとも言えよう。


参考資料
CA Student Living 
Chicago Tribune newspaper (1月3日2016年)
www.chicagotribune.com/news/columnists/ct-old-colony-building-kamin-met-0830-20150828-column.html


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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