海外トピックス

2016/8/5

vol.303 平和に満ちたくつろぎの庭

庭仕事の合間に揺り椅子で愛犬のデイジーとくつろぐボビィ(イリノイ州シカゴ市。以下同)
庭仕事の合間に揺り椅子で愛犬のデイジーとくつろぐボビィ(イリノイ州シカゴ市。以下同)
噴水の水の音は心をしずめてくれる
噴水の水の音は心をしずめてくれる
鳥の餌カゴ(右)と巣作りに役立つ動物の毛を詰めたカゴ(左)。リスが登ってこないよう円板状の帽子のようなものをつけてある
鳥の餌カゴ(右)と巣作りに役立つ動物の毛を詰めたカゴ(左)。リスが登ってこないよう円板状の帽子のようなものをつけてある
ベランダの上方には蝶々や鳥などの飾りが楽しく配置
ベランダの上方には蝶々や鳥などの飾りが楽しく配置
壁かざりや鳥小屋が平和な光景をかもしだす
壁かざりや鳥小屋が平和な光景をかもしだす
おしゃれな鳥小屋。赤い花はハミングバードを惹きつける
おしゃれな鳥小屋。赤い花はハミングバードを惹きつける
鳥が水を飲んだり水浴びをするたらい
鳥が水を飲んだり水浴びをするたらい
トランペットバイン(中央)はハミングバードを引き寄せる花だ
トランペットバイン(中央)はハミングバードを引き寄せる花だ

 ガーデニング(庭いじり)は気持ちを休める、と友人たちは口を揃える。木や花だけでなく虫やウサギやリス、鳥や蝶などの生き物が身近に飛び交って、太陽の光と水に包まれた場所で憩いたい…。

 都会の小さな庭でも静寂に満ちた空間を作り上げることは決して不可能ではない。バングラディシュに続いてフランス・ニースでの無差別殺傷テロ、トルコの軍事クーデター、そしてアメリカ国内では黒人による白人警察官殺傷、白人警察官による黒人殺傷など息つく暇もないほど恐ろしい事件が起き、世界が崩壊するのではないかと思うほどの危機感に襲われる。

 周囲の危険、仕事の困難、人間関係の煩わしさをしばし忘れて、明日へのエネルギーを再生できる場所が必要とされているようだ。

夏の間、庭仕事を楽しむボビィ

 ボビィ・フリーマンはシカゴの短い夏の間、庭仕事に専念する。水やりや雑草取りの合間にベランダでひと休み。ブランコに揺られながら鳥たちが餌を食べたり水浴びするのを眺めていると、これまで波立っていた気持ちが静まってゆくのを感じるそうだ。

 とりわけ噴水から流れ落ちる単調な水の音はすぐに耳に心地よく慣れて、かえって水の音は静寂を際立たせる。コンセントに電源を差し込むと水が自動的に繰り返し循環する仕組みに出来ていて、水の無駄もない。本物の石ではないので噴水をあちこち移動させて楽しむことができる。噴水は冬は物置で冬眠。

 ローンオーナメント(戸外用の飾り)は雨や雪に耐えるようしっかり作られてあり、ボビィは茂みに置いたり塀に飾ったり…、戸外に一年中出しっぱなし。素材は木にペイントしたもの、メタル、陶器、ガラス、プラスティック、石やコンクリートなど多岐に渡る。アートフェアやガーデンストアで購入するそうだが、ウサギや羊、孔雀など動物の飾りは木々の間に見え隠れさせると意外な驚きが。色鮮やかなガラス玉を棒に取り付けたローンオーナメントは、茂みや芝生に立てておくと緑に映えておしゃれなアクセントになる。

あちこちの巣箱にはファミリーが入居中

 ボビィの庭には沢山の巣箱(バードハウス)が設置してあり、いくつかはすでに入居者(?)が…。

 小さなイソサザイ (WREN) が巣箱から突然飛び出してきて鉢合わせしそうになりびっくり仰天。お父さん鳥かお母さん鳥が餌を探しに出かける時だったのだろう。この巣箱には夫婦と何羽かの子供が住んでいるそうだ。

 シカゴの冬は寒いので秋の終わりにはイソサザイの家族は暖かい土地へ移っていく。そしてまた春になるとやってきて巣作りを開始し棲みつく。

 ボビィは鳥達が巣を作るのに役立つようにと、犬猫の床屋さんでシャンプーカットした後の毛をもらい、それらをカゴの中に詰め、巣箱の隣にぶら下げている(写真参照)。

 鳥達が何羽もやってきて毛のかたまりをくわえて飛び去る。くわえすぎて重さにフラフラして飛べない鳥もおり、可愛くて笑ってしまう。

ハミングバードを引き寄せる工夫も

 ハミングバード(蜂鳥)は雀やこまどり、ブルージェイなど翼で飛ぶ鳥と違い、1秒間に55回位の高速で羽を激しく上下させて移動する。空中で時折り静止する様子はヘリコプターのようだ。羽音がブーンとうなって“ハミング”する様子からその名がついた。甘い蜜や砂糖水が主食の点は他の鳥達と異なるが、相当量のエネルギーを消費するのですぐに役立つ糖分が必要なのかもしれない。

 ハミングバードは赤やオレンジ色で形状がチューリップのような花が大好きだ。花芯に長いくちばしを差し込み蜜を吸うが、そんなハミングバード達のためにボビィは「トランペットバイン」という鮮やかなオレンジ色の花が咲く木を育てている。

 この木の周囲では時には5羽も6羽も花から蜜を吸っているハミングバードがブゥーンと羽音をたてている。しかし臆病で近づくと途端に飛び去ってしまうのは残念(en.wikipedia.org/wiki/Hummingbird)。

都会のど真ん中にある小さな楽園

 鮮やかな緋色のカーディナルはカトリック教会の枢機卿が真紅の帽子と聖職服を身にまとうことからそう呼ばれている。しかしお母さん鳥は真紅のドレスのお父さん鳥とは違って、まだらの茶色とくすんだ赤を身にまとい見映えは冴えない。

 鳥は伴侶を見つけると、わらや小枝、葉や動物の毛などを集めて巣作りを始める。子供を産み、育て、やがて子供達が巣を離れたあともつがいで暮らすそうだ。

 ベランダの揺り椅子に座ってボビィと時の流れるままにぼんやりしていると、気が付けばホタルが飛び交い始め、すでに夕闇に包まれている。静かだ。鳥ばかりでなく沢山の生き物達が共存しているのを感じる。

 ボビィはミルクウィードを植えたいといま苗を探しているが、この植物は揚羽蝶を惹きつける野生植物だそうだ。住宅が立て込む都会のど真ん中で小さな庭だが、彼女は生き物を慈しみ、そして水音と鳥の鳴き声が耳に心地よい平和な楽園を作り上げる努力を惜しまない。

Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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