記者の目

2010/4/16

記者が密着取材!!家賃督促現場最前線

家賃保証会社の業務実態とは

 低所得者層の増加や連帯保証人の確保が難しくなったことから、家賃保証会社へのニーズが高まっている。しかし、“追出し行為”と呼ばれる乱暴な取立て行為をはじめとしたトラブルが、昨年来マスコミから取り沙汰されていたのはご存じだろう。こうした問題を受けて、業界団体や国が業界の健全化に取り組み始めた。  注目を集める家賃保証業界だが、一方で同業界の実務の実態については、ほとんどの方が知らないのが実情ではないだろうか。  そこで記者は、港区に本社を構える家賃保証会社フォーシーズ(株)を訪問し、スタッフの一人であるU氏(25歳男性)に半日密着。家賃督促の現場を取材したので、レポートしたい。

朝は8時から出勤。ミーティングや社内清掃、事務処理等を終えた後、督促先への連絡を始める
朝は8時から出勤。ミーティングや社内清掃、事務処理等を終えた後、督促先への連絡を始める
出発前に、防刃チョッキと防刃手袋を着用。督促現場では、危険な状況に遭遇することも少なくない
出発前に、防刃チョッキと防刃手袋を着用。督促現場では、危険な状況に遭遇することも少なくない
“家賃パトロール”と書かれた社用車。通常はバイクで移動するそうだが、この日は記者に配慮いただき車で向かうことに
“家賃パトロール”と書かれた社用車。通常はバイクで移動するそうだが、この日は記者に配慮いただき車で向かうことに
督促先へ移動中の車内。4月から配属先が変更になり、新しく新宿を中心としたエリアを担当することに。なお、担当するエリアは3ヵ月ごとに変わるのだとか
督促先へ移動中の車内。4月から配属先が変更になり、新しく新宿を中心としたエリアを担当することに。なお、担当するエリアは3ヵ月ごとに変わるのだとか
現場に到着。駐車場を確保するのも一苦労だ
現場に到着。駐車場を確保するのも一苦労だ
年金生活のご老人、生活保護を受けている家庭、会社社長、外国人… 家賃督促という仕事は実にさまざまな人と出会う
年金生活のご老人、生活保護を受けている家庭、会社社長、外国人… 家賃督促という仕事は実にさまざまな人と出会う
「督促には“粘り強さ”が大事」と語るU氏。慌ただしく変化する業界のなかで、今日も腰を据えて一つひとつの仕事に挑む
「督促には“粘り強さ”が大事」と語るU氏。慌ただしく変化する業界のなかで、今日も腰を据えて一つひとつの仕事に挑む

■防刃チョッキ・手袋を着用

 新卒で入社したU氏は、今年で勤続3年目。若手ながら、すでに何百件もの家賃督促を経験したエキスパートだ。家賃督促は1日平均10~20件、月にしておよそ100件に上る。それを同社では35人のスタッフで担当しているという。

 督促の方法は人それぞれ。例えばU氏は、まず滞納者本人の携帯等に電話をし、連絡が取れなかった場合に自宅を訪問する。それでも接触できなかった場合、最終的な手段として勤務先等に連絡するのだそうだ。初期のうちに勤務先等へ連絡するスタッフもいるそうだが、「このやり方のほうが、個人的には滞納者ともめることが少ない」(U氏)のだとか。

 滞納者への連絡を終え、督促先へ向かう準備を開始する。なお、スタッフが督促に行く際、同社は「防刃チョッキ」と「防刃手袋」の着用を義務付けている。というのも、督促は危険と隣合せの仕事だからだ。家賃を集金するというシビアな仕事のため、過去には滞納者から包丁を突き付けられたことや、逆に自らの手首を切りつけ始めたことも。訴訟沙汰になったスタッフもいるというから、督促業務の大変さがうかがわれる…。

 準備を整え、いざ“家賃パトロール”(同社では家賃督促をこう呼ぶ)へ。

■聞こえるのは犬の鳴き声ばかり…

 1件目の督促先である滞納者Aさんは、家賃12万5,000円の貸家に住む30歳代の男性。2ヵ月連続で家賃を滞納している。

 現地到着後、インターホンを押すと中から若い女性の姿が。第三者に対する督促行為はできないため、契約者であるAさんの現在の居場所を聞き出す。すると、Aさんは経営しているイタリアンレストランに出勤しているとのこと。さっそくそのレストランに向かう。
 レストランはとある駅近くの雑居ビルの中に所在していた。夜からの開店なのだろうか、店はシャッターが下ろされ、入口付近には食材や看板などが無造作に置かれている。U氏がドアを数回ノックをすると、返事の代わりに中から聞こえてきたのは犬の吠える声。しばらくノックを続けるも、犬が吠える以外はまったくの無反応…。

 仕方なく、郵便受けに家賃の請求書を入れ、レストランを後にした。

■最長12時間張り込んだことも

 滞納者Bさんはキャバクラで働く20歳代前半のホステス。仕事に相応したグレードのマンションに暮らしており、この2ヵ月間滞納が続いているという。

 マンションのエントランスをくぐり、滞納者宅のインターホンを鳴らす。数回呼び出しを繰り返すが応答がないため、ドアノックを何回か試みるものの、相変わらず反応はない。
 しかし「おそらく中にいますね」とU氏。電気メーターがものすごい速さで回っていることが、その理由だという。「金額も金額なので、日を改めて張り込みを行なう」と、今回もその場を立ち去る。

 ちなみに、家賃保証会社のスタッフは刑事よろしく“張り込み”を行なうのだとか。U氏に最長の待機時間を聞くと「12時間」という驚きの数字が!!

■“初滞納”に“シカト”なし

 滞納者Cさんは、Bさんと同じく水商売系の仕事に携わる20歳代前半の男性。家賃13万8,000円を1ヵ月ほど滞納している。

 2件目とは異なり、今回は築年数が相当経ったマンションだ。さっそく滞納者宅のインターホンを押すも返答はない。電気メーターは、先ほどより緩やかであるものの回っているのだが…。
 実はCさん、家賃滞納は今回が初めて。「初滞納の場合は居留守を使わないないことが多い」(U氏)ことから、おそらく本当に留守なのだろうと判断。ここでも、郵便受けに請求書を入れるだけに止まった。

■やっと出会えた(?!)滞納者

 最後の督促先は法人D社で、2月分の家賃12万5,000円を滞納している。

 現地に到着し、テナント名の一覧が書かれたボードを確認。すると「表札がなくなってる…」とU氏。夜逃げか?…と不安になりつつも、インターホンを鳴らす。しばらくすると、中から初老の男性が登場!4件目にして、ようやく滞納者とのご対面である。
 男性はD社の代表者。聞くところによると、滞納の原因は取引先からの入金がないからだという。翌日に未納分を支払う約束を取り付け、「残地物に関する契約書」を取り交わす。特段もめることもなく、いたって平和に督促作業を終えた。

 しかし、U氏によると「売掛金が回収できてないと嘘をついて家賃を支払わない法人は多いので、注意が必要」とか…。

■滞納者の職探しにまで同行

 帰りの車内、U氏は過去に遭遇したこんなエピソードを紹介してくれた。

 何ヵ月も家賃を滞納している40歳代の日雇い労働者の男性・Eさん。U氏が督促に行くと、稼いだお金はすべてパチンコですってしまい、手元には一銭も残っていないと言う…。これ以上滞納を続けるのであれば引越してくださいと訴えたところ、なんとEさんは本当にその場で荷物をまとめ始めた。
 このままでは家賃を回収できなくなると、U氏はEさんを説得して付近にあるハローワークに付き添うことに。住込みのアルバイトを見つけ、勤務先の店長に一緒に挨拶に行き、給料から未納分の家賃を同社に振込んでもらう約束を交わしたのだとか。

 家賃督促に必要なのは“粘り強さ”とU氏は言う。「なかなか結果を出せないときは辛いですが、根気よく滞納者と交渉した結果、延滞がなくなってオーナーから感謝されたときはうれしいですね」(U氏)。こうした粘り強い姿勢がEさんの心を動かし、双方が満足する結果を導き出せたのだろう。

■家賃保証業界の健全化が賃貸業界の活性化に

 同社では3年前からコンプライアンス規定を設け、スタッフの督促業務における倫理意識を高めている。同社代表取締役の丸山 輝氏は、国土交通省による家賃保証会社の登録制度の創設について「現在、ほとんどの家賃保証会社が、厳しい自主ルールのもと督促業務を行なっている。法規制により監督官庁が確定されることで、さらなる健全化が見込まれる。今後はより良いサービスを提供するための競争が始まるのではないか」と期待を寄せる。

 賃貸住宅業界にとって、「家賃保証」はなくてはならないサービスになっている。適切に機能すれば、オーナーや仲介会社、そして賃借人それぞれにとってメリットのあるサービスであり、だからこそ国も健全化への仕組みづくりを加速しているのだ。
 国や業界団体のルールづくりとともに、家賃保証会社各社による自主規制の取組みが進むことで、賃貸住宅業界が発展していくことを願う。(May)

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