記者の目 / イベント・セミナー

2010/10/18

建築家・隈 研吾氏が語る「環境と建築と世界」

~ICSカレッジオブアーツ2010年秋期公開特別講義を聴講~

 9月22日(水)、学校法人 環境造形学園 専門学校ICSカレッジオブアーツの2010年秋期公開特別講座が、目黒のパーシモンホールで開催された。  世界に活躍する建築家、隈 研吾氏をゲストに迎えた公開特別講座では、近年世界に作品を次々と発信する隈氏の建築秘話にまで。根津美術館(東京・青山)や、歌舞伎座建て替え計画など、話題の建築の取り組む隈氏の、建築へのこだわり、そして世界に通用する建築とは…。

会場は目黒・パーシモンホール
会場は目黒・パーシモンホール
受付入口は、ICSカレッジオブアーツの学生さんと一般(社会人)で分かれていた
受付入口は、ICSカレッジオブアーツの学生さんと一般(社会人)で分かれていた
開演の挨拶をするICSカレッジオブアーツ校長の水野誠一氏
開演の挨拶をするICSカレッジオブアーツ校長の水野誠一氏
1994年以降の代表作品をスライドとともに説明をする隈 研吾氏
1994年以降の代表作品をスライドとともに説明をする隈 研吾氏
最後は、隈氏と水野氏の対談
最後は、隈氏と水野氏の対談

隈氏の建築への姿勢、こだわりを感じた2時間

 ICSカレッジオブアーツは、日本のインテリアデザイン業界の成長とともに歴史を刻み、これまでに5,000人近くの卒業生を世に送り出してきた日本初のインテリアデザインの専門学校。
 45周年の公開特別講義では、同じく建築家である安藤忠雄氏を、47周年となる今年は隈 研吾氏という大物をゲストに招いた。会場は、前半分の席を学生用に割くなど、あくまでも生徒優先の雰囲気。
 会場はほぼ満席。広い会場内に埋め尽くされた人々の興奮を、最後列席に座りながら感じ、話を聞いた2時間では、隈氏の作品に対する姿勢や、これまでの建築秘話なども伺えた。
 一部を紹介したい。

 隈氏と安藤氏は、日本においてその活動を並んで称されることが多いが、実は隈氏の方が14歳若く、世代も違う。隈氏の活動は、バブル崩壊後に自然と共存するような作品を多く世に出している。今回は、彼の1994年以降の作品を、スライドで見せながらのプレゼンテーションとなった。

■亀老山展望台

(愛媛県今治市)

 最初に紹介されたのが「亀老山展望台」。本州と四国を結ぶ「しまなみ海道」の道中、大島の亀老山の頂上に作った展望台なのだが、山の地中に埋められたように造られているのが特徴だ。これはこれまでの「箱の建築」というイメージを覆す代表的なものとなった。「3年後には緑が出てきて」(隈氏)、建築そのものが、山に一体化されていく。

■Lotus house

(神奈川県)

 2005年に完成した「Lotus house」も、「石というものを新しい造り方で」提案した別荘建築。石をステンレスのワイヤーで吊っているのが特徴。
 これだけでもわかるが、隈氏は、そこにある「環境」にどう影響を及ぼすかを最優先に、建築を進めている。
 やがて、隈氏は「土」から「木」へと興味の枠を広げていく。

■根津美術館

(東京都港区)

 いわずとしれた東京・青山の「根津美術館」は、隈氏の「自然の素材を、まちの中でもぜひ使いたい」という思いから生まれた建築で、これまで主として地方で造ってきた自然素材を取り入れた建築を東京、しかも青山のど真ん中で行なうという大挑戦だった。それには「都会の中で、日本的な空間を作りたかった」(同氏)という思いが込められている。
 例えば、美術館ではありえない?ガラス張り建築は、展示品への負担にならぬよう光ファイバーを使うなど苦労を重ねたという。
 同氏のサイト(http://www.kkaa.co.jp/)にて、作品の写真を見ることができるので、じっくりと見ていただきたいのだが、光溢れる空間の中に広がる緑の美しいこと…。あくまでも主役は「自然」なのだということがまざまざと分かる。緑に命を吹き込んでいるように見え、そこに彼の建築のこだわり、優しさ、自然に向ける愛のようなものすら感じ取れる。

■Great(bamboo)wall

(中国)

 そして、北京オリンピックのCMで、中国で毎日のように流れた映像の背景となったGreat wall。これは、当時北京大学の教授から「中国で面白い建築を作りたい。もっとアジアの文化を発信するものを」という依頼を受けて造ったという。万里の頂上の脇に、山を削らないでいこうと考えて建築した。
 「現地の人には『竹は腐るよ』と言われたが、京都の大工さんからいろいろとアドバイスをもらい、現地の竹を使った」と隈氏。当時勇気ある建築と言われたが、「人気投票をするといつも1番だと伺う」(同氏)というほどの高評価を得て、オリンピックのプロデューサーが、この建築にほれ込む。
 隈氏はここで、「中国の人は意外に自然素材が好きなんだなぁ」と感じたという。

■マルセイユアートセンター

(フランス・マルセイユ)

 隈氏の建築がヨーロッパでも通用した例として紹介されたがの2007年建築の「マルセイユアートセンター」。隈氏がマルセイユで出会えたガラス工房で、「くずガラスが面白い」と感じたのが発端で、造られたのだが、このくずガラスでラップしたような(被膜が付いている)建築が面白い。

 隈氏は、「地元の材料を使った場所を建築する」ことに魅力を感じ、ほかに、ナポリでは火山灰を使い、スペインでは「ザクロ」からヒントを得て「グラナダ」建築を成功させている。ちなみにこれは、この土地がザクロのまちであることから、ザクロの粒のように50人収容ホールを30集めた形式となっている。この発想がなんとも面白いではないか!

■小さいものを実験して空間を作る面白さ

 隈氏は、「小さいもの(空間)」と向き合い、実験していくうちに得た気づきから、建築を生み出していくという。ミラノでは、傘をいくつも重ねた茶室を作り、「傘15個をジッパーで縫い合わせて家ができる!」というその空間の面白さをただ単純に楽しんでいる。
 また、「ヘリウムガスの茶室」を作り、「スーツケースの中に入れて運ぶことができる!」と笑う。
 「小さいものでしかできないもの(技術や空間の質)ができた時は、楽しい。一番面白い」と隈氏。

■隈氏の魅力

 そういえば、小さい頃に、周りにあるものだけで無心に工作をして、とんでもなく素晴らしいものを作っている同級生がいたのを思い出したが、彼の目は光り輝いていた。今回、隈氏の講演を伺って、レベルは違いすぎるが、氏の中にあるそういった優しさ、純粋さ、楽しさのようなものを感じることができて、温かい気持ちになったのも事実だ。あれだけの作品を世界に発信しながらも、小さな空間の大きな発見に喜び、その感動をもって、次の仕事につなげている。素晴らしいではないか。

 今回の講義では、最後にスクール校長の水野誠一氏との対談もあったのだが、「日本の建築、空間というものは、世界性を用うるということ。また、後ろ向きに日本を継承するのではなく、(国境はなくなったと思うので)、日本人の感性はまだまだ通用するので(どんどん頑張っていただきたい)」というエールが送られた。

 この講義を聞いた学生の中から何人の素晴らしい未来の建築家が生まれるのだろう。それが楽しみだ。(yukizo)

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