記者の目 / 開発・分譲

2010/11/16

待ったなし、業界各社「環境」への取組み(2)

野村不動産の場合

 マンションディベロッパーにとって、「環境」というキーワードは、必ずしもセールスポイントとなりえない。なぜなら、いくら環境にやさしいマンションを作っても、ユーザーにとって具体的なメリットに乏しければ、コンセプトや商品が支持されないからだ。  そうしたなか、「住まう方のメリットを第一に」をキーワードに、環境親和性の高いマンション供給に力を入れているのが、野村不動産(株)。今回は、同社の環境コンセプト「プラウドエコビジョン」と、同コンセプトによる最新鋭物件「プラウドシティ赤羽」(東京都北区、総戸数285戸)を紹介したい。

「プラウドシティ赤羽」完成予想図。全戸南向きの大規模マンション
「プラウドシティ赤羽」完成予想図。全戸南向きの大規模マンション
同物件の縮小模型。住戸はすべて南面。南側前方の建物とも10m以上の間隔があるため、中層階以上で充分な採光が期待できる
同物件の縮小模型。住戸はすべて南面。南側前方の建物とも10m以上の間隔があるため、中層階以上で充分な採光が期待できる
同マンションに導入される「一括受電」概念図。高圧電流を一括購入し、各住戸に分配することで、電力コストを約5%削減。エネルギー変換ロスの減る分CO2も削減される
同マンションに導入される「一括受電」概念図。高圧電流を一括購入し、各住戸に分配することで、電力コストを約5%削減。エネルギー変換ロスの減る分CO2も削減される
「マルチランプダウンライト」は、省エネ効果の高い蛍光ランプやLED電球などさまざまな種類の電球に対応するソケット
「マルチランプダウンライト」は、省エネ効果の高い蛍光ランプやLED電球などさまざまな種類の電球に対応するソケット
太陽光発電パネルは10kw設置。晴天の昼間であれば、共用部の消費電力のほとんどを賄う
太陽光発電パネルは10kw設置。晴天の昼間であれば、共用部の消費電力のほとんどを賄う
モデルルーム内部。同エリア待望のファミリー層をターゲットとした住戸が8割を占めている
モデルルーム内部。同エリア待望のファミリー層をターゲットとした住戸が8割を占めている
水回りにはユーザーアンケートをもとにデザインと収容力を磨いた「ラクモア」仕様を採用。キッチンはタオルかけや大容量吊戸棚などが備わる
水回りにはユーザーアンケートをもとにデザインと収容力を磨いた「ラクモア」仕様を採用。キッチンはタオルかけや大容量吊戸棚などが備わる
キッチンに標準装着される吊戸棚。下部が昇降式の小物入れになっており、収納力は高い
キッチンに標準装着される吊戸棚。下部が昇降式の小物入れになっており、収納力は高い
全戸が南面バルコニーで採光は充分。また建物は、コストのかかった逆梁工法を採用
全戸が南面バルコニーで採光は充分。また建物は、コストのかかった逆梁工法を採用
建設地を北側(アーケード側)からみる。写真手前側にスーパーマーケットが開業する。敷地周囲はすべて道路で、商業地にありがちな息苦しさを感じない
建設地を北側(アーケード側)からみる。写真手前側にスーパーマーケットが開業する。敷地周囲はすべて道路で、商業地にありがちな息苦しさを感じない

「エコ」はどれだけ得なのか??

 近年のエコブームの中、ユーザーの多くが「エコってどれだけ“得”なの?」という疑問を感じている。

 地球環境にやさしい商品をチョイスしなければいけないのはわかっているが、はたしてそれが自分たちの生活をどれだけ「豊か」にしてくれるのか?具体的にどのようなメリットがあるのか(ペットボトル○本分のCO2が削減されます、と言われて納得するユーザーなどごくわずかだ)が具体的に示されない限り、「エコ」は付加価値になりえない(まして、付加価値としての価格上昇など認められまい)。ユーザーの手にする商品のうちもっとも高額で、かつ生活全般のCO2削減にもっとも関わりの深いマンションともなれば、「エコのメリット」をより具体的に示す必要がある。

 そこで、野村不動産が2009年11月に打ち出したのが、環境コンセプト「プラウドエコビジョン」だ。

 同ビジョンでは、「ユーザーが身近な暮らしの中できちんと“実
感”できるエコ」を基本観とし、多様な省エネ技術と省エネ設計を
標準化していこうというもの。そのエコ思想は、「へらす」「つくる」
「いかす」という3つの視点から追求されている。

 「へらす」は、エネルギーを効率よく使うことで、環境と家計の負
担を減らす設計。断熱性と遮熱性の強化、高効率給湯器やマルチランプダウンライト(電球型蛍光ランプやLED照明に対応したダウンライト)、エネルギー消費量を表示するリモコンなどの採用があたる。
 「つくる」は、自然の力でエネルギーを作る工夫。太陽光発電による共用部への電力供給、風力発電、雨水の再利用など。
 「いかす」は、日射や通風をコントロールすることで快適性を高め省エネにつなげる、いわゆる「パッシブデザイン」と、カーシェアリングやレンタルサイクルなどマンションのスケールメリットを生かした省エネサービスなどを用意する。

 同社は、この設計思想を、10年2月から販売を開始した「プラウドシティ池袋本町」(東京都豊島区、総戸数785戸)を皮切りに、これまで4物件に導入。最新鋭マンション「プラウドシティ赤羽」では、さらにコンセプトが明解になっている。

「太陽光発電」と「一括受電」を組合せ

 同物件は、JR埼京線「赤羽」駅徒歩4分、駅前アーケードに隣接するスーパーマーケット跡地に建設される、地上24階建てのマンション。後述するようにセールスポイントはいくつもあるが、「エコ」も大きなセールスポイントになっている。その最大のウリが、「太陽光発電」と「一括受電」というプラウド初の組合せだ。

 「一括受電」とは、各戸が低圧電力を個別に購入せず、サービス会社から高圧電流を一括購入。各住戸に配電するというもの。これにより、供給コストが下がる分電気料金を安くできる(約5%)ほか、エネルギー変換ロスを抑えることでCO2削減につながる。太陽光発電パネルは、10kw分配置。晴天であれば、昼間の共用部電力のほぼすべてを賄えるという。

 「私は(プラウドエコビジョン第1弾の)『池袋本町』の販売も担当しましたが、購入を検討されているお客さまの多くから『地球にやさしいのはわかるけど、じゃあどれだけメリットがあるの』という声をいただきました。共用部の電気を賄う程度の太陽光発電では、アピールポイントとしては弱かったのです。今回の一括受電と太陽光発電の組合せは、長期間にわたりランニングコストを低減することができるためお客さまにも好評ですね」と話すのは、同物件の販売を担当する、同社住宅カンパニー住宅販売部住宅販売課の武内裕一氏。

 このほか、(1)全窓への複層ガラス、エコジョーズ(高効率給湯器)、ディスポーザ、節水便器、保温バスなど、光熱費や環境負荷を「へらすエコ」、(2)風力と太陽光のハイブリッド街灯、雨水利用システムなどの「つくるエコ」、(3)壁面緑化・屋上緑化、電気自動車充電設備、電動自転車レンタルなどの「いかすエコ」も満載。これらは、物件パンフレットとは別の冊子で購入検討者に解説。物件の差別化ポイントとして、大いにアピールしている。

エコの魅力と物件の魅力がかみあう

 「エコ」というセールスポイントを除いたとしても、同物件のアピールポイントは多い。
 まず、ロケーション。赤羽駅エリア(徒歩10分以内)では、過去10年間総戸数100戸以上のファミリーマンション(専有面積70平方メートル台中心)が供給された実績がほとんどない。その一方で、東京・新宿からほぼ10キロ圏であり、公共、教育、生活利便施設も豊富な赤羽はサラリーマン世帯のニーズは強い。いわば、買いたいユーザーが「マグマのように溜まっている」状態だ。

 建物仕様もいい。大林組施工の建物は、近年コスト高のため採用が少ない逆梁工法で、南面が2,150ミリのハイサッシュとなり開放感が出る。基準天井高2,530ミリ、スラブ厚250ミリの二重床・二重天井も水準以上。オーダーメイド対応にも積極的だ。

 住戸は、専有面積58~100平方メートル、ファミリー向けの3LDK・4LDKが8割を超える。共用廊下側窓へのルーバー面格子設置、ユーザーアンケートをもとにデザインと収容力を磨いた「ラクモア」収納(キッチン、洗面所、玄関)、オートクロージャー付き収納など、コストをかけるところはかけ、利便性を高めている。建物周囲への遊歩道設置やガーデンテラスなど、ランドプランもこだわりを見せている。
 「建物やエコ関連設備に充分なコストを割きながら、販売価格も抑えることができました」(武内氏)

 価格はどうか。

 1期の販売価格は、専有面積70平方メートル台の3LDKで5,000万円台が中心となる予定。赤羽の一等地としてのプレミアム、駅近ファミリーマンションとしての希少性に加え、都心との距離で競合する豊洲、大井町、大崎、練馬の物件と比較しても割安なこともあり、文字通り反響が「殺到」している。
 「モデルルームオープン時までの、事前反響で4,000件。北区と周辺エリアのお客さまが過半数ですが、大崎や大井町などの都心エリアや隣接する埼玉県川口市のユーザーの反響も多いですね」(武内氏)

 この好反響を受け、第1期は11月下旬より販売予定。物件そのものの魅力と「エコ」の付加価値とがうまくかみ合った人気物件となりそうだ。(J)

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待ったなし、業界各社「環境」への取組み(1)

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