記者の目

2011/1/26

渋谷に新たなスポットが誕生

東急文化会館跡地が新たな商業施設「Shibuya Hikarie」に

 「渋谷」といえば、“若者のまち”として知られ、次々にファッションやカルチャーの流行を作り出してきたまちである。とはいえ、こうした看板を背負うようになったのは、1970年代に入ってからだ。  渋谷初の大型商業施設の開業は56年の東京急行電鉄(株)による「東急文化会館」で、その後、渋谷公会堂(65年、現:渋谷C.C.Lemonホール)や東急本店(67年)、西武百貨店(68年)などが続いた。   さらに73年に「渋谷パルコ」(73年)、79年に「SHIBUYA 109」などが誕生したことで若者が集まるようになり、現在の渋谷のイメージが定着することになった。  まちの基礎を築いた「東急文化会館」は2003年に老朽化により閉館したが、12年の春には複合施設「Shibuya Hikarie(渋谷ヒカリエ)」として生まれ変わることになった。

「Shibuya Hikarie」外観。オフィスや劇場、エキシビジョンホールなどのほか、地下3~地上5階には店舗、6~7階にはカフェやダイニングが入居する
「Shibuya Hikarie」外観。オフィスや劇場、エキシビジョンホールなどのほか、地下3~地上5階には店舗、6~7階にはカフェやダイニングが入居する
施設を断面からみた様子。低層階では地下鉄や周辺のエリアと接続し、吹き抜け空間「アーバンコア」を設置することで、開放感を創出する
施設を断面からみた様子。低層階では地下鉄や周辺のエリアと接続し、吹き抜け空間「アーバンコア」を設置することで、開放感を創出する
中核施設となる劇場「Tokyu Theatre Orb」の劇場内部。3層3階席まで設けた2
中核施設となる劇場「Tokyu Theatre Orb」の劇場内部。3層3階席まで設けた2
000席を有する
000席を有する

副都心線の開通などで、変わる渋谷

 渋谷駅周辺地区開発が具体的に動き出したのは、2005年12月。都市再生緊急整備地域としての指定を受け、08年には渋谷新文化街区として「都市再生特別地区都市計画」が決定した。

 「Shibuya Hikarie(渋谷ヒカリエ)」は、同計画に基づき「渋谷」駅東口の旧東急文化会館の跡地にオフィス、文化施設、商業施設からなる複合ビルを建設するもの。敷地面積は約9,640平方メートル、延床面積は約14万4,000平方メートル。地上34階地下4階建てで高さ182.5mとなる。
 17~34階を占めるオフィスフロアの層貸床面積は3万8,000平方メートルで、低層階の基準階面積は2,200平方メートルと、多様なワークスタイルに対応が可能となっている。
 環境配慮に対する取組みとして、敷地面積の約30%を緑化するなど、先進の環境性能も備えた物件となる。

 「渋谷」は、その名が表すとおり、まわりを坂道に囲まれた谷である。こうした立地を生かすため同物件は、明治通りや、JR駅、宮益坂方面や青山方面と低層階で接続する形を取っている。
 また、2012年に相互運転を開始する予定の東京メトロ副都心線・東急東横線と接続するほか、将来は東京メトロ銀座線の改札を建物内に設置する計画だ。
 さらに地下3階から地上4階をまたぐ吹き抜けの空間(アーバンコア)を形成し、シャトルエレベーターを設置するなど、建物内における縦方向の移動も容易とし、快適な歩行者ネットワークを形成していくこととしている。


“発信の場”である渋谷を活性化

 再開発に当たって、複合施設の建設によりまちを活性化させるという取組みは、よくみられるケースだ。

 そうしたなか、「Shibuya Hikarie」において最も特徴的な点は、従前の「東急文化会館」が担った役割を継承しているところだろう。
 「東急文化会館」は、映画館や美容院といった斬新な各種の文化施設を提供することで、グローバルな情報などを通じ、戦後の人々のライフスタイルを提示した。また、女性に対してファッションなどの新たなライフスタイルを提案してきた。「Hikarie」ではこうしたDNAを引継ぎ、“新しい価値を創造、発信していくプラットフォーム”をコンセプトとしたさまざまな施設を企画している。

 中核をなすのが、11~16階を利用して作られるミュージカル劇場「東急シアターオーブ」だ。「オーブ」は、天体や球体を表す言葉で、同劇場は近未来的な形で、宇宙に浮かぶ劇場を表現している。
 同劇場は、約2,000席の客席を用意する大規模なもので、客席と舞台の一体感に加え、多様な演出や表現が可能となるフレキシビリティにこだわった空間を実現。国内外第一級のライブエンタテインメントを上演していく。また、入口から劇場に入るまでの広間は地上70mの高さを有するため、渋谷のまちの夜景が楽しめるなど、非日常の華やぎを演出する効果もある。

 さらに9~10階には、新商品発表会やファッションショー、展示会など、プレゼンテーションの場となるべく「エキシビジョンホール」を創設。1,000平方メートルと300平方メートルの2つのホールを設置することで、発信の場を提供していく。


若手の可能性広げる「ハコ」を

 現在、「渋谷」駅界隈に所在する事務所の傾向をみてみると、アニメや映画・ビデオ・写真、テレビ・ラジオ、音楽といったクリエイティブ系事業は周辺の渋谷区や港区に集積している。特に23区内の駅別にみると、いずれの分野に関しても「渋谷」駅への集積度が極めて高い。

 さらに歩いてみるとわかるが、東口・西口でそのエリアによって細かくテイストが異なっており、さまざまな人が集まったクリエイティビティおよびチャンスにあふれたまちだということが分かる。

 こうした特徴からも渋谷という地域が、ジャンルを超えたコラボレーションやビジネスチャンスの多い場所だといえよう。
 「Shibuya Hikarie」では、こうした渋谷の集客力と情報発信力を生かして、文化創造の担い手を成長させ、輩出すべく、若手アーティストやクリエイターの表現の場としての「クリエイティブラボ」を8階に設置。作品を“見せる”場を提供することで、クリエイティブな才能を社会へと繋ぐスペースとしている。


トレンドを発信し続けるまちへ

 まちの再開発において、人を呼び込むこと、環境を整えることは重要な課題かもしれない。しかし、「渋谷」はすでに人で溢れている。  
 08年の東京都統計年鑑によると、「渋谷」駅の1日平均乗車人員は約154万人にも上り、この5年間で10万人以上増加した。また、この数字は都心では新宿、池袋に次ぐものであり、08年の副都心線の開通で利用者はさらに増加傾向にある。

 このように来街者の人数には恵まれている「渋谷」だが、まちの特色を決定づけるのは、人の“数”ではなく“特質”だろう。
 渋谷では大通りに面した商業施設の隙間にあるような小さなスペースにさまざまな特質を持った人が集まり、そこから派生したトレンドを流行させる土壌が整っている。
 こうした環境の中で、人材を育てる機能を有した「Shibuya Hikarie」から誕生する才能に注目するとともに、大型施設の開業による新たなスペースからトレンドが発信されることに期待したい。(中)

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