記者の目

2011/9/29

こんなときどうする? 不動産トラブル(2)
~近隣住民との騒音トラブル、解決策は?~

『知っておくと役に立つ! 判例で納得 不動産トラブル』より

 発行以来、根強い売行きを見せているトラブル事例対応集『知っておくと役に立つ! 判例で納得 不動産トラブルQ&A』((株)不動産流通研究所発行)。  不動産業界団体・企業等の顧問弁護士として長いキャリアと豊富な実績を持つ高津公子弁護士が、不動産取引にまつわる身近なトラブルについて、過去の判例や法解釈をもとに、その問題点やポイントなどをわかりやすく簡潔に解説しているものです。  本シリーズでは、その中から関心の高い事例を抜粋してお届けします。

『知っておくと役に立つ! 判例で納得 不動産トラブルQ&A』
『知っておくと役に立つ! 判例で納得 不動産トラブルQ&A』

 現在、日本の住宅総数のうち41.7%を占める共同住宅(2008年調査時点)。居住形態としてスタンダードとなり、多くの人が住んでいるが、壁と天井・床を共有して他人同士が生活するため、どうしても気になるのが“騒音”。
 そこで、 『知っておくと役に立つ! 判例で納得 不動産トラブルQ&A』より、入居者から“騒音”にまつわる相談を受けた管理会社からの質問と、高津弁護士の回答をご覧ください(登場人物、建物名などは架空であり、実在する人物等とは関係ありません)。

 Q(相談者からの質問)
 「当社が販売したあけぼのマンションに住む高齢の工藤夫妻から、「最近、真上の部屋に入居した別府さんの子供が、室内で飛び跳ねたり走り回ったりする音に悩まされている」と相談を受けました。
 当社から同マンションの管理組合に相談し、組合から別府さんに注意しましたが効果がありません。何か、効果的な対処策はありませんか?」

●事実関係の確認
高津先生:別府さん宅から発生する騒音の程度は?
相談者:組合から行政に諮り、専門家に測定していただきました。その結果、自治体で定める騒音条例の規制数値を超える騒音が検出されました。

A(回答) 一般社会生活上の受忍限度を超える騒音については、慰謝料請求の対象になります。

【解説】
 入居者間での騒音紛争について、それを認容した事例はそれほど多くありませんが、参考になる判例がありますのでご紹介します。
 X夫妻が区分所有の建物の1階一室を購入。入居して8年後、2階の真上の部屋をY(夫妻と3、4歳の男児)が賃借して入居しました。その直後から、子供が飛んだり跳ねたり走り回ったりする騒音が、昼夜を分かたず発生。
 Xが管理組合に相談したところ、組合は全戸に騒音注意の書面を配布。一方、XもYに配慮を促す手紙を送り、また直接Yを訪ね話し合い、さらに幾度か抗議しました。
 ところがYは「これ以上の努力はできない。文句があるなら建物に言ってくれ」等乱暴な口調で、以後の応対を拒否するに至りました。

 そのためXは、MDプレイヤーを購入、騒音計をリースし、天井から70cm~1mに設置して、騒音を10ヵ月連続で測定。条例による当地(第一種中高層住居専用地域)の時間帯毎の規制値を超えている証拠を収集。騒音差止めと賠償請求調停を提訴しましたが、調停は不成立に終わったため、XはYに対し慰謝料200万円と弁護士費用を求める訴訟を提起しました(Yは訴訟提起直後に移転)。

 裁判所は、この裁判に平成15年の民事訴訟法改正で導入された「専門委員」(民訴法92条の2)の関与を決定。騒音問題の専門家に騒音や建物の重量床衝撃音遮断性能等を検討させました。
 その結果、本件2階の床構造性能はLH-60程度で、日本建築学会の遮音性能基準によれば、集合住宅3級(遮音性能上やや劣る水準)であること、Y入居後の騒音は毎日50~60db程度で長時間連続し、夜7時以降深夜まで及ぶこと等が明らかになりました。

 裁判所は「XのYに対する改善要望は切実であったが、これに対するYの対応は極めて不誠実であったため、X夫妻が騒音計で長期間測定を余儀なくされたり、心身を病む症状を生じたものである。Yの住まい方や対応の不誠実さを考慮すると、本件音は一般社会生活上の受忍限度を超えるもので、Xの苦痛を慰謝するべき慰謝料としては30万円が相当である」とし、弁護士費用6万円との合計36万円の支払いを命じました(東京地裁 平成19年10月3日判決 判例時報1987号)。

 このように、一般社会生活上の受忍限度を超える騒音については、慰謝料請求の対象となりますので、この例を踏まえ、もう一度別府さんに注意してみるとよいと思います。

※※※

【シリーズ記事一覧】
こんなときどうする? 不動産トラブル(1)
~家賃滞納者に明け渡してもらうには~

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