記者の目 / 開発・分譲

2011/11/18

分譲のノウハウ生かした、1棟まるごとリノベーション

第1弾「スマータス 幕張本郷」、地域と調和し、環境に配慮した低価格マンションが誕生

 オフィスやマンションなどの開発を手がける(株)サンケイビル(東京都千代田区、代表取締役社長:日竎(ひび)秀行氏)は、2011年よりリノベーション事業に進出した。11年8月には、第1弾となる「スマータス 幕張本郷」(千葉市花見川区、総戸数59戸)が竣工、9月より販売を開始している。大手企業の社宅を生かして1棟まるごとリノベーションを行ない、外観や共用施設を魅力あるデザインに刷新。まちの景観にも調和するよう配慮した同物件は、値頃感があり、DINKSやファミリー層を中心に人気を集めている。同社初のリノベーション物件について、レポートする。

「スマータス幕張本郷」外観。歩行者の安全を確保するため、木製の長いプランター置き場を設置。人と車が同じ動線にならないように区切るほか、花などを植えて季節感を演出する効果も
「スマータス幕張本郷」外観。歩行者の安全を確保するため、木製の長いプランター置き場を設置。人と車が同じ動線にならないように区切るほか、花などを植えて季節感を演出する効果も
エントランス周辺にあるウッドデッキとベンチ。照明も設置してあり、夜にはライトアップされる
エントランス周辺にあるウッドデッキとベンチ。照明も設置してあり、夜にはライトアップされる
コモンスペース。アイランド型キッチンがあるほか、壁には子供が自由に落書きできるスタイリッシュなホワイトボードが置かれている
コモンスペース。アイランド型キッチンがあるほか、壁には子供が自由に落書きできるスタイリッシュなホワイトボードが置かれている
1階の共用廊下には、防犯のために、新しくフェンスが設置された
1階の共用廊下には、防犯のために、新しくフェンスが設置された
和室の襖は、開放感を演出するために、天井まで高さを伸ばしている
和室の襖は、開放感を演出するために、天井まで高さを伸ばしている
廊下と室内の間には段差があるが、気にする顧客はいないという
廊下と室内の間には段差があるが、気にする顧客はいないという
キッチンは浄水器一体型水栓やIHクッキングヒーターを採用。洗面所との間には段差が生じている
キッチンは浄水器一体型水栓やIHクッキングヒーターを採用。洗面所との間には段差が生じている
1階のすべての住戸にある専用庭。駐輪場スペースを改装したもの
1階のすべての住戸にある専用庭。駐輪場スペースを改装したもの

既存建物を生かして価値を高める

 サンケイビルは、ビル事業や、資産開発事業をはじめ、さまざまな事業を手がけている。住宅事業では、2005年に分譲マンション事業に参入。「ルフォン」シリーズを展開し、後発事業者ながらも販売は好調で、実績を積み上げた。
 「ルフォン」では、地域に調和するようにプランを計画、住む人だけでなく、周囲の人々からも受け入れられる物件の開発を心掛けているという。立地は、駅から徒歩10分圏内で、都心へアクセスしやすい場所を選び、ニーズに合った面積、間取り、環境に配慮した設備などを提案。価格は、実需層をターゲットに4,000万~6,000万円に設定するなど、他社との差別化を図っている。
 そんな同社では、少子高齢化による新築住宅需要の減少や、不動産ストックの老朽化、環境負荷低減など、不動産市場の変化を捉えて、10年、新たにリノベーション事業や、シニア事業に取り組んでいくことを経営目標として掲げた。

 企業理念の一つに「環境との共生」を掲げる同社では、リノベーション事業は、「スクラップ&ビルド」ではなく、資産を生かすとともに、投資額を抑えて資金の短期回収を図れる将来有望な事業であると考え、参入に至った。シリーズ名を「スマータス」に決定し、今年3月から本格的に参入している。

 サンケイビル住宅事業部調査役補・稲村邦彦氏は、「当社では、リノベーション物件においても、ルフォンシリーズの開発条件と同じように、『環境との共生』『地域との共存』を追求しています。スマータス幕張本郷においても、既存の建物をできるだけ生かして、まちの景観に調和することを心掛けました。今後も、ルフォンシリーズで培ってきたデザイン性や細部のつくり込みなどのノウハウを生かして、新築同様の住戸を値頃感のある価格で提供していきたい」と話す。

デザインや機能性が大幅に向上

 「スマータス幕張本郷」は、鉄筋コンクリート造地上5階建て、敷地面積2,438.11平方メートル、延床面積4,291.12平方メートルの分譲マンション。
 幕張新都心への玄関口となっているJR総武線、京成千葉線「幕張本郷」駅から徒歩13分の立地。戸建住宅や低層マンションが立ち並ぶ静かな高台で、近隣には公園もあり、子育てしやすい環境となっている。

 既存の建物は、1992年に竣工し、2009年末まで利用されていた大手企業の社宅。2棟のうち1棟が売却されたものを同社が買い取り、1棟まるごとリノベーションを行なった。
 企画監修と販売代理は数多くのリノベーション物件を手掛ける(株)リビタ(東京都渋谷区)が担当している。

 開発に当たっては、既存建物を第三者機関によって調査・診断し、共用施設や居室内のデザイン、機能性を向上。
 施工前の建物の外観は、白一色であったが、施工後は、階段部分と共用廊下の内側にこげ茶色をアクセントカラーとして採用し、スタイリッシュな印象に変えた。
 また、エントランスまでのアプローチも、植栽を行ない、緑豊かな温かみのある雰囲気に変更。ウッドデッキとベンチも用意し、間接照明も採り入れて、夜にはおしゃれなライトアップも行なわれる。
 さらに、従来はエントランスまで、車と歩行者、自転車が同じ動線だったが、それぞれの出入り口を分離、歩行者の安全を確保した。特にエントランスまでのアプローチにある、木製の長いプランター置き場が特徴的で、これは花などを植えて季節感を出すことを目的としているのかと思いきや、人と車の動線を分離するために考えられたものだという。見た目も美しくなり、一石二鳥のプランとなっていた。

 一方、エントランスに入ったすぐ正面には、コモンスペースが設けられている。既存の集会所を新しくしたもので、IHクッキングヒーター導入のアイランド型キッチンのほか、フローリングには無垢材、壁にはスタイリッシュなホワイトボードが設置されている。子供が自由に寝転がったり、落書きできるように配慮してあるのだという。予約制で、居住者は無料で利用することができる。ママ会やお誕生日会などを開くなど、居住者同士の交流をはかる目的で活用が期待できる。

 各住戸は、自然冷媒ヒートポンプ給湯機やIHクッキングヒーターなどオール電化を標準で採用。専有部は、元の間取りを生かしており、床材、建具、水回り設備などを新しくしたほか、和室の襖や部屋の扉は、開放感を演出するために、天井まで高さを伸ばしていた。モデルルームを見学したところ、扉が高くなった効果か、室内は間取りが変わっていなくても開放感を感じることができた。
 一方で、専有部には、廊下と部屋との間や、水回りの箇所にいくつか段差がある。リノベーション後も配管の関係でバリアフリーにすることはできなかったとのことで、段差はそのまま残っており、つまずく人がいるのではないかと少し気になった。販売担当者の話によると、モデルルームを見学する前に、顧客には段差があることを伝えているせいか、それほど気にする人はいないという。
 また、以前は自転車置き場だったスペースは、1階住戸の専用庭に変更。最大20畳の広さがあり、ガーデニングを楽しんだり、子供の遊び場としても活用できる。上の階のベランダから見下ろしてみると、芝がきれいに生えて美しく、自転車が雑然と並んでいたときよりも、格段に景観が良くなったであろう。

新築よりも手頃な価格が人気に

 11年9月より販売を開始し、すでに8割程の住戸が契約済みとなっている。
 購入者の多くは、周辺エリアに住む人だそうだが、東京や神奈川エリアなどからも契約者がおり、広域からの集客になったという。
 「近隣には分譲マンションが少なく、リノベーション物件はほとんどありません。新築に比べて手頃な価格が人気で、賃貸からランクアップして住む人などDINKSやファミリー層を中心に、好評を得ています」(稲村氏)。
 来場者アンケートでも、魅力を感じたポイントとしては、「価格」や「エリアの住環境」、「利便性」が上位に挙がっているという。購入者の年齢は、20歳代後半~40歳代前半が中心。なかには高齢の夫婦が戸建住宅から移り住むケースもあったそうだ。
 専有面積は58.77~78.76平方メートル、間取りは2LDK~3LDK。価格は1,868万円~ 2,838万円で、周辺の新築相場の7~8割程度に抑えられている。

 同社では、主力のビル事業に加えて、今後も「ルフォン」シリーズを収益の柱として進化・発展させるとともに、新たな住宅事業の間口を広げていく方針だ。
 リノベーション事業第2弾では、12年初春に東京都品川区において、賃貸マンションのリノベーションマンションの販売を予定している。

 中古住宅市場を活性化させる牽引役として、今、注目されているリノベーション物件。新築よりも手頃な価格で購入できることが、最大の魅力となっている。実際に「スマータス幕張本郷」も価格が決め手となり、成約に至った人は多い。まだまだ多くの需要が望めるリノベーション物件を、同社が今後どのような工夫を凝らして展開していくのか注目していきたい。(さ)

***

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