記者の目 / 仲介・管理

2012/4/23

個性異なる2つの「シェア」

首都圏最大級、「シェアリーフ千歳烏山」をみる

 ここ数年、すっかりブームとなっている「シェアハウス」。新しい形態の住まいとして徐々に市民権を得るのと同時に、さまざまなスタイルのシェアハウスが登場し、市場は揺籃期にある。こうしたなか、シェアハウス事業に新規参入した大手ディベロッパーの日本土地建物(株)は、いきなり全87室という巨大シェアハウス「シェアリーフ千歳烏山」で新たなシェアスタイルを提案した。それは、「濃度」の違う2つのシェアスタイルが、1つの空間を「シェア」するという試みだ。

「シェアリーフ千歳烏山」外観。写真は、既存物件の改修棟、手前側が増築棟となる。外観は、淡い赤土色とベージュの2トーンで南欧風の雰囲気としている
「シェアリーフ千歳烏山」外観。写真は、既存物件の改修棟、手前側が増築棟となる。外観は、淡い赤土色とベージュの2トーンで南欧風の雰囲気としている
既築棟と増築棟の間は、広さ約100平方メートルのオープンテラス。ふんだんに緑化されたテラスは入居者のコミュニティスペースとなる
既築棟と増築棟の間は、広さ約100平方メートルのオープンテラス。ふんだんに緑化されたテラスは入居者のコミュニティスペースとなる
ダイニングのフルオープンサッシュを開け放つと、テラスと一体化。イベント時などに開放する
ダイニングのフルオープンサッシュを開け放つと、テラスと一体化。イベント時などに開放する
再生材の家具などロハスイメージで構成されたリビング
再生材の家具などロハスイメージで構成されたリビング
ライブラリーは、LAN環境完備。他者の気配が気にならなければ、仕事やネットサーフィンにもってこいのスペース
ライブラリーは、LAN環境完備。他者の気配が気にならなければ、仕事やネットサーフィンにもってこいのスペース
最大87名が共同生活を送ることから、共用スペースはどれもスケールが大きい。IHクッキングヒーターとシンクは、全部で4組。棚に仕舞われた食器類の数も膨大だ
最大87名が共同生活を送ることから、共用スペースはどれもスケールが大きい。IHクッキングヒーターとシンクは、全部で4組。棚に仕舞われた食器類の数も膨大だ
炊飯器・電子レンジ・トースターも、家電ショップのように並んでいる。下の棚は、入居者に割り当てられる
炊飯器・電子レンジ・トースターも、家電ショップのように並んでいる。下の棚は、入居者に割り当てられる
ドミトリータイプの個室。約6畳のスペースに、ベッド、机、収納、ミニ冷蔵庫などが備わる。水回りがないため、広さは十分
ドミトリータイプの個室。約6畳のスペースに、ベッド、机、収納、ミニ冷蔵庫などが備わる。水回りがないため、広さは十分
クラスタータイプの個室。1ユニットに3つの個室があり、水回りを共有する。室内のクロスは、玄関のアクセントカラーと統一される
クラスタータイプの個室。1ユニットに3つの個室があり、水回りを共有する。室内のクロスは、玄関のアクセントカラーと統一される
クラスターユニットの玄関。3つの部屋番号が明記されている。アクセントカラーは全4色
クラスターユニットの玄関。3つの部屋番号が明記されている。アクセントカラーは全4色

既存建物と新築建物をミックス

 「フェイストゥフェイスのコミュニケーションが取りづらい世の中で、シェアハウスという住まいを提供する意義は大きい」(同社都市開発部長・阿部 徹氏)、「シェアハウス市場はここ数年で10倍になったと言われているが、東京都でも1万室程度と需要に対して供給はまだまだ少なく、市場は成長余地が大きい。とくに、シェアハウスの7割が戸建てであり、定期的な清掃が入らないなど管理に問題がある物件も少なくない」(都市開発副部長・芳賀厚一氏)――シェアハウス事業に満を持して参入する同社は、その理由をこう話す。

 同社は、2010年6月から、シェアハウス事業参入に向け、勉強を開始していた。ビル事業を柱とする同社は、これまでもオフィスビルのSOHO転用などのコンバージョン事業を手掛けており、既存建物の再生手法として注目されているシェアハウスへの参入にはそれほど問題はなかった。
 しかし、ハードはともかくシェアハウスでのコミュニティ形成を円滑に進めていくには、それなりのノウハウが必要となる。そこで、こうしたソフト部分や集客については、リノベーション・シェアハウスのノウハウが豊富な(株)リビタに委ねることで、早期事業化を図った。
 今後も、開発適地があれば継続的に供給する方針だという。

 第1弾として3月末完成した「シェアリーフ千歳烏山」は、京王線「千歳烏山」駅徒歩23分に立地する、築18年・3階建ての賃貸マンションを取得し、リノベーションしたもの。総面積約1,500平方メートルの敷地建物は、もともと戸建住宅開発用地として取得していたが、建物がしっかりしていたこともあり、シェアハウスの材料として転用することにした。

 さらに、余剰容積を活用し、従前の駐車場部分にRC造3階建て建物を増築。2つの棟を約100平方メートルのオープンテラスと中庭、渡り廊下でつなげ、まるで学生寮のような巨大シェアハウスに仕立て上げている。

「シェアハウス」内の「シェアハウス」

 同物件では、タイプの違う2つのシェアハウスが用意され、共用部分でのコミュニケーションに加え、“濃度”の違うシェアスタイルを選択できる。

 まず、新たに増築棟の2階・3階に用意されるのが、全24室の「個室」タイプの住戸。約6畳大の個室は、水回りこそ備わっていないが、扉を閉めてしまえば完全なプライベート空間となる。1人利用だが、学生寮の延長のような雰囲気のため、同社では「ドミトリータイプ」と呼称している。室内にはベッド、机、収納、ミニ冷蔵庫のほか、部屋干し用の洗濯ポールも備わる。各フロアに、男女別に分かれたシャワールームとトイレが備わる。

 シェアハウスを志向する人は基本的に他者とのコミュニケーションを楽しむだろうが、生活コスト優先でシェアハウスを選択するような人にとっては、ドミトリータイプは格好の提案となろう。実際、入居者のなかには「ワンルームマンションを探したが、家賃が高い割に汚かった。社員寮もあるが、私生活が見張られているようで落ち着かない」と、“ゆるい”シェアライフと生活コストの低さを評価する声があったという。

 もう一つのシェアタイプが、既存建物をリノベーションした21ユニット・63室。こちらは、既存の2LDKの住戸(約50平方メートル)を3個室のユニットとして改装したもの。つまり、ドミトリータイプとは違い、同じユニットの3人が、玄関、ミニキッチン、シャワー、トイレなどを共用する「シェアハウス内のシェアハウス生活」を送ることになる。そうした形態が「ブドウの房」のようであることから、同社では「クラスタータイプ」と呼称している。

 記者は、個人的に、このクラスタータイプは、なかなかコミュニティ形成が難しいと感じる。
 個室内のプライバシーは一緒だが、ドミトリータイプと違い、同じユニットの3人は接する機会が格段に多くなる。3人の波長が合えば抜群に楽しい生活が送れるだろうが、その逆であれば苦痛で仕方がないだろう。初回入居者のなかには、「仲良し3人組」で同室を希望したケースがあったそうだ。シェアハウスの常として、今後、入居者が入れ替わっていく中で良好なコミュニティをどう維持していくか。入居者管理を行なうリビタの腕が試される。

 なお、クラスタータイプでは、男女が同じユニットには入居できない決まりだ。念のため…。

若い社会人に人気。ゆるいつながりを好感

 また、同物件では、巨大な空間を利用して、入居者全体のコミュニティが図れるよう、さまざまなスペースが用意されている。増築棟の1階には、16畳のリビング、LAN環境が整ったライブラリー、そして33畳という巨大なダイニングキッチンがある。ダイニングキッチンに面したテラスは、幅5.5メートル、長さ18メートルで、ふんだんに緑化されている。ダイニングのサッシュを開け放つことで一体となり、さまざまなイベントに活用が可能となっている。

 立ち上がりも、なかなか好調のようだ。
 全個室は、リビタがマスターリースし、入居者募集を行なっている。賃料は、月額4万~5万8,000円で、他に共益費(光熱費、週5日の清掃費、ネット接続費込)1万 5,000円。1年の定期借家契約で、再契約時に3万円の手数料が掛かる。11年12月に専用ページを開設。12年2月から週末にモデルルームをオープンし、現在68室が契約済み。60名が入居している。
 男女比は男性6:女性4。周辺に大学は多いものの、学生比率は2割と低い。生活コストが低いというメリットに加え、一人暮らしの孤独から解放されたいという若い社会人が、意外に多いのかも知れない。ほどよい距離で異性も含めた他者が近くに居る生活というのは、やはり落ち着くのだろうか。

 また、ドミトリータイプの住民とクラスタータイプの住民とでは、シェアライフに関する意識が相当違うようで、この両者の巨大なコミュニティ(80名以上が押し掛ける朝のキッチンなどを想像してほしい)がどうなっていくかは、継続してウォッチしていきたい。(J)

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サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

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