記者の目

2012/7/23

「おとり広告、不当表示…、その広告は大丈夫?」

「賃貸住宅」「インターネット広告」の最新違反事例を紹介

 5月に改正された「不動産の表示に関する公正競争規約」(以下、表示規約)。その詳細は当誌7月号(「解説:5月31日から不動産広告のルールが変更 中古住宅の「二重価格表示」が可能に」)をご覧いただくとして、今回は、年々増加傾向にあるインターネット広告の表示規約違反について取り上げたい。  先般行なわれた改正表示規約に関する研修会(主催:不動産情報サイト事業者連絡協議会、講演:(公社)首都圏不動産公正取引協議会(公取協))によると、「重大な違反」の大半を占めているのが賃貸物件のインターネット広告で、大半が「おとり広告」「不当表示」だという。  本稿では参考までに研修会で取り上げられた最近の「おとり広告」「不当表示」の事例についていくつか紹介しよう。

インターネットは容易に情報発信できる分、表示規約順守への意識が低いという傾向もあるようだ
インターネットは容易に情報発信できる分、表示規約順守への意識が低いという傾向もあるようだ
不動産広告のうち、調査対象物件の約7割が賃貸住宅であることがわかる<資料:(公社)首都圏不動産公正取引協議会の資料をもとに編集部作成(以下同)>
不動産広告のうち、調査対象物件の約7割が賃貸住宅であることがわかる<資料:(公社)首都圏不動産公正取引協議会の資料をもとに編集部作成(以下同)>
処理した事案の中で、大半がインターネット広告
処理した事案の中で、大半がインターネット広告
厳重警告以上の措置にうち、インターネットが占める割合が20年度に急増。以降高水準で推移、ゆるやかに右肩上がりだ
厳重警告以上の措置にうち、インターネットが占める割合が20年度に急増。以降高水準で推移、ゆるやかに右肩上がりだ

「厳重警告・違約金」の75%がインターネット広告。 違反内容の大半は「おとり広告」「不当表示」

 事例に入る前に、公取協が発表している2011年度の規約違反件数などを紹介しよう。

 違反の疑いがあるとして公取協に寄せられた2,387物件の不動産広告のうちインターネット広告は677件で全体の30%に満たないが、賃貸住宅(777物件)に限ってみると516物件・66.4%と、その割合が大幅に増加する(表1参照)。

 同協議会が11年度に違反であると処理した事案件数は208件。そのうち、重大な規約違反を行なった事業者に対して、「厳重警告」もしくは「違約金を賦課する措置」を講じた件数は48件で、その75%(36件)がインターネット広告によるもの(表2参照)。インターネット広告における表示規約違反は年々増加しており、厳重警告以上の措置を講じた事案をみると、07年度までネット以外の媒体(チラシ広告など)が大半を占めていたが、08年度よりインターネット広告が一気に逆転し、同年度以降70%以上で推移している(表3参照)。

 そして、その大半が契約済みで取引できないなどの「おとり広告」か、賃料等を本来の額より安く表示したり、面積を広く表示するなどの重大な「不当表示」だという。
 ちなみに対象はポータルサイトに限らず、不動産会社の自社サイトにおいても増えているそうだ。

 では、賃貸住宅のインターネット広告で「おとり広告」「不当表示」に該当した事例を紹介していく(事例部分は公取協資料を参考に執筆)。

◆「おとり広告」の事例

<事例> A社が不動産情報サイトに掲載していた賃貸住宅17物件に対し、同協議会が広告時点の翌日に元付情報図面などの資料提出を求めた。 ↓ A社は17物件の資料を保有しておらず、特定することもできなかった。

 この事例では、同協議会が資料を請求したところ、請求日から2~3日して不動産会社から「提出できない」と答えが返ってきたため、広告公開日から数日しか経っていないにも関わらず、資料が出せないのは「そもそも資料が存在しなかった」と判断し、存在しない架空物件と認められた。

◆「不当表示」の事例

<事例1> 「築年数1年」「築年月 2011年9月」と表示していた。 ↓ 実際には1962年5月築で、2011年9月にリノベーションされたマンションだった。

 最近、リノベーションや大幅なリフォーム工事を実施した賃貸物件が増加していることに起因するという。事業者側としては、せっかく「おしゃれに改装したのに築年数で切られてしまうのはもったいない」と考えて、施工した年を記載している例が多いという。

<事例2>
「賃料2万5,000円 間取り(内訳) ワンルーム(洋8.8) 専有面積14.30平方メートル」と表示するとともに間取り図を掲載し、8.8畳の部屋を一人の入居者が使用できるかのように表示していた。

実際には6名でルームシェアする物件で、賃料も表示賃料×6(15万円)だった。

 同協会では、「広くて安い物件」であるとの誤認が発生するので、ルームシェアである旨の表示が必要としている。

<事例3>
「賃料5万7,000円 礼金1ヵ月 敷金1ヵ月 仲介」などとともに「現在賃料3ヵ月半額キャンペーン実施中」と記載、すべての入居者を対象に3ヵ月間の賃料が表示賃料の半額(2万8,500円)になるかのように表示していた。

実際には一定の期日までに申し込みをした入居者のみ適用される割り引きだったうえ、表示賃料はすでに割引後の額で、そもそもの賃料は11万4,000円であった(4ヵ月目以降はこの額が適用)。また礼金・敷金の算定に用いられる賃料も表示賃料の5万7,000円ではなく、11万4,000円であった。

 キャンペーン自体には問題ないものの、広告する際には減額前の正規の賃料を表示し、減額後の賃料はあくまで補足情報として「備考」欄などにあるべきとしている。最近では、フリーレントなども注目されており、導入物件も増えているが、注意が必要だ。

消費者に向けた メディア・リテラシーの発信を

 このような違反のほか、従来からよくある「契約済み物件の表示」(おとり広告)や「専有面積や駅からの徒歩所要時間の改ざん」(不当表示)などもいまだ相当数発生しているようだ。
 確かに不動産情報サイトなどを改めて見ていると、明らかに同じ物件にも関わらず、「間取り」「駅からの徒歩所要時間」などが異なっている情報も見受けられる。しかし、これを見て情報の正当性を判断できるユーザーは一体どれほどいるのだろうか…。大半のユーザーは単純に条件の良い物件を選んでしまうだろう。つまりはユーザーが魅力と感じて問い合わせ数を伸ばすことだけを重視し、自らに有利な条件に改ざんした物件情報を掲載している事業者が得をしているということだ。

 「まじめな事業者が損をする」世界をつくらないためにも、また、消費者にとって必要な情報の整備を推進していくためにも、事業者自らが情報への責任の重さを知ったうえで自らを律し、業界の違反行為自体を減少させていくことが重要だ。それとともに違反事例や、不動産情報に対する“メディア・リテラシー”を不動産会社や情報会社、業界団体は、消費者に対して積極的に発信する必要があるのではないだろうか。(umi)

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【関連ニュース】
5月31日から不動産広告のルールが変更/不動産公取協連合会(2012/6/1)

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