記者の目

2012/11/19

シェアハウスで健康に?

 アウトドア、ワイン、猫…。一見、関連性の無さそうなこれらの単語だが、実はいずれもシェアハウスのコンセプトとして実際に採用されているもの。シェアハウスの入居希望者の中には、割安な家賃で支出を抑えるという目的もさることながら、性別・年齢・職業・国籍の違うさまざまな価値観と触れ合ったり、同じ目的を持つ者同士が切磋琢磨できるなどの付加価値を求める人が多い。そのため、都心を中心に増加傾向にあるシェアハウスの中には冒頭のようなテーマやコンセプトを掲げているものも少なくない。  今回取材した「健康」をテーマにした女性限定シェアハウス「しぇあこ門前仲町」もその一つだ。

しぇあこ門前仲町の外観。1階右手に見えるのがコインランドリー。室内からはつながっておらず、一度外に出てから入る。周辺は閑静な住宅街で騒音はほとんど気にならない
しぇあこ門前仲町の外観。1階右手に見えるのがコインランドリー。室内からはつながっておらず、一度外に出てから入る。周辺は閑静な住宅街で騒音はほとんど気にならない
4階のリビングルーム。バランスボールが置かれ、テレビを見たり、ほかの住人と会話しながら運動することができる。リビング内は無線LAN完備
4階のリビングルーム。バランスボールが置かれ、テレビを見たり、ほかの住人と会話しながら運動することができる。リビング内は無線LAN完備
4階リビングルーム内のキッチン。スペースがある程度確保されているため、両側で同時に調理することも可能
4階リビングルーム内のキッチン。スペースがある程度確保されているため、両側で同時に調理することも可能
503号室。抜けの良い眺望というところまではいかないが、建物が近接していないため、圧迫感は感じられない
503号室。抜けの良い眺望というところまではいかないが、建物が近接していないため、圧迫感は感じられない
303号室。個室にはベッド、テーブル、椅子、引出式収納ケースが全室に用意される。インターネットは有線LANで全室に完備
303号室。個室にはベッド、テーブル、椅子、引出式収納ケースが全室に用意される。インターネットは有線LANで全室に完備
2階の浴室。浴室を含めた共用部の清掃は提携業者が週2回行なう
2階の浴室。浴室を含めた共用部の清掃は提携業者が週2回行なう
2階間取り図
2階間取り図

コンセプトは「健康をみんなでシェア」

 同物件は、東京メトロ・都営地下鉄「門前仲町」駅徒歩3分に位置し、鉄筋コンクリート造地上5階建て。1978年に竣工した住宅・オフィス複合ビルを現在の個人オーナーが取得。資産の有効活用を図るためにシェアハウスへのコンバージョンを実施し、今年10月に竣工したもの。

 「健康」をコンセプトにしたのは、同物件の間取り図を見ると円形のホールを中心に部屋が放射状に区切られており、「上から見るとレモンやグレープフルーツを切ったような形に見える。果物は健康をイメージさせることもあり、『それならば』と採用した」((株)コプラス企画開発部PMグループチーフ・露木 圭氏)とのこと。実際に室内を見学してみると、健康や運動を意識した設備、配慮がされており、随所にその意図を感じることができる。

 1階には、元々入っていたコインランドリーが残り、隣地との境界に面し、居室として利用できないスペースはフィットネスルームにつくりかえた。室内サイクルやヨガマット(各居室にも1枚ずつ用意されている)、バランスボールが用意され、入居者は気軽に運動することができる。
 
 2、3階には、居室とトイレ、洗面化粧室、浴室(2階)、シャワー(3階)、脱衣室が配置されている。205、305号の両部屋は建築基準法上、居室として扱えないため、隣室との間を引き戸として開放し、一つの居室としても使えるように確認申請を行なった。そのため、この区画はほかの部屋に比べて家賃が安くなっている。
 
 4階は、居住者が共有して使用できる38平方メートルのリビングルーム。テーブルやカウチ、TVなどに加え、バランスボールや体脂肪測定付体重計が用意されており、雑談しながら運動したり、ダイエット効果のチェックができる。室内中央にはアイランドキッチンがあり、炊飯器や電子レンジ、オーブンなどの一般家電に加え、ジューサーや浄水器など「健康」を意識した設備も用意されている。「一人だと挫折してしまうことも大勢でやればできるかもしれない。健康をシェアするという発想」(同氏)と言うように、居住者が集まるスペースならではの工夫がされている。また、洗濯機(無料)も設置されているが、乾燥機は置かれていない。状況に応じて1階のコインランドリー(有料)との使い分けが必要になる。
 
 5階には、最上階ということもあり、眺望が一番良く明るい室内の居室が並ぶ。バルコニーもスペースが確保されており、日光浴を楽しんだり、洗濯物を干すことができる。建物内の移動は階段のみのため、普通に生活しているだけで運動になるだろう。
 
 物件の周辺は、都心に近いエリアでありながら下町の風情も感じられ、にぎやかな商店街も徒歩圏内にある暮らしやすい環境。近くの隅田川沿いのランニングコースは、ランナーの間では有名で、スカイツリーを眺めながら走ることができるポイントもある。
 
 各居室の専有面積は、7.16~10.83平方メートルで、賃料は4万5,000~6万7,000円(別途共益費1万5,000円)。募集住戸は14室で、竣工時点で7件の申し込みが入っているという。
 
距離感が近いが故のトラブルも

 テーマやコンセプトのあるシェアハウスは、趣味や価値観の近い人々が集まる。とはいえ、基本的には赤の他人。公私を明確に線引きすることが難しい環境で、トラブルが起こるケースもあるという。同物件も女性限定とはいえ、風呂やトイレなどを他人同士で共有するのは気を遣う部分だろう。この点については、「当初は一定のルールを提案する」(同氏)、「同居しているうちにお互いの生活のリズムが分かるようになるので、気遣いができるようになる」(同社管理部PMグループ・久保有美氏)と話していた。距離感が近くなりやすい環境だからこそ、適度な距離を保つ気遣いが重要になりそうだ。

さらに多様化するコンセプト。今後は?

 空きスペースを有効活用する手段の一つとしてシェアハウスに取り組むケースは最近増えており、今後も都心を中心に競合が続いていくとみられる。借り手側にとっても、多様なコンセプト、例えば「健康」をきっかけに集った人々と新しい人間関係やコミュニケーションが生まれるのであれば有意義なことだろう(実際に健康になれるかどうかは別として…)。今後コンセプトや規模などで差別化が図られ、誰も予想だにしないようなコンセプトのシェアハウスが登場してくることを期待したい。(T)

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【関連ニュース】
複合ビルを「健康」がテーマのシェアハウスへコンバージョン/コプラス(2012/10/24)

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編集部レポート「官民連携で進む 空き家対策Ⅳ 特措法改正でどう変わる」では、2023年12月施行の「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」を国土交通省担当者が解説。

あわせて、二人三脚で空き家対策に取り組む各地の団体と自治体を取材しました。「滋賀県東近江市」「和歌山県橋本市」「新潟県三条市」「東京都調布市」が登場します!空き家の軒数も異なり、取り組みもさまざま。ぜひ、最新の取り組み事例をご覧ください。