記者の目

2012/12/20

空きスペースをレンタルキッチンに!

立地、物件特性を生かし、アイディアルなリノベーション

ビルやマンションのオーナー、あるいは賃貸管理を営む企業の最大の悩みが「空室」。 供給過剰、景気の低迷が続くなか、賃貸市場は相変わらず厳しい情勢だ。賃貸物件のオーナー、管理会社は、いかに空室を出さないか、埋めるかに心血を注いでいる。 そんな中、不動産仲介・管理を手掛ける(株)四谷恒産(東京都新宿区、代表取締役:柴田 宏太郎氏)では、ガレージとして使用していたマンションの1階を大改装。「レンタルキッチン」として運用を開始したというので、さっそく取材してみた。

11階建ての分譲マンションの1階にオープンした「Garden Kitchen」。前を通る人が興味深げにのぞいていく
11階建ての分譲マンションの1階にオープンした「Garden Kitchen」。前を通る人が興味深げにのぞいていく
ロッジ風のファサード。避暑地のレストランを思わせる
ロッジ風のファサード。避暑地のレストランを思わせる
内装はホワイトと淡いグリーンですっきりとしたデザイン。スペースもゆったりつくってあり、着席なら20人、立食なら30人でのパーティーが可能
内装はホワイトと淡いグリーンですっきりとしたデザイン。スペースもゆったりつくってあり、着席なら20人、立食なら30人でのパーティーが可能
飾り付け次第でいろいろな雰囲気作りも…
飾り付け次第でいろいろな雰囲気作りも…
業務用の食器洗い洗浄機も備え付けてある
業務用の食器洗い洗浄機も備え付けてある
調理器具も一通り備えられており、利用者は食材を持ち込むだけでOK
調理器具も一通り備えられており、利用者は食材を持ち込むだけでOK
浄水器もついたシンク
浄水器もついたシンク
食器類も30人分完備
食器類も30人分完備
「初めての取り組みなので、不安も大きいです。利用者の皆さまのご意見を参考に改善を重ねて行きたい。同業者の方も是非見に来てください」と語る柴田社長
「初めての取り組みなので、不安も大きいです。利用者の皆さまのご意見を参考に改善を重ねて行きたい。同業者の方も是非見に来てください」と語る柴田社長

ガレージだった1階部分をサブリース

東京メトロ丸の内線「新宿御苑前」駅から徒歩1分。新宿御苑の広大な緑を目前に立つ築20年の分譲マンション「YKBマイクガーデン」。11階建て、各フロア2区画の計22区画からなり、事務所と住居が入居している。ワンフロアの床面積は約45坪。
同社では、17年前、同マンションの管理組合が設立されたのを機に一括管理を任された。
同マンション1階の表通りに面した1区画・約20坪は、当時は区分所有者が自己所有の車を置くガレージとして利用していた。普通乗用車3台分のスペースがあったが、その後、オーナーが車を処分、また、賃貸していたスペースに空き状況が続くなどの状況になったことから、オーナーから同社に相談があり、2007年、同社は月額30万円でサブリース契約を結び同スペースの運営を任されることに…。第三者には貸したくないというオーナーの意向が強かったこともあり、同社はそこでトランクルーム事業をスタート。当初は順調に稼働していたが、近年は供給過剰で稼働率が低下、柴田社長は頭を悩ませていた。

「もっと有効なスペース利用法があるはずだ」

「トランクルームはもう飽和状態だ。なにか手を打たなくては…。立地の良さや、地域のイメージを考えても、あの場所ならもっと何か有効な利用法があるはずだ」と、起死回生の策を考えていた柴田氏だったが、ある時、知人から勧められて購読を始めた『月刊不動産流通』のある記事に目を留める。
同誌2012年8月号『消費者の目』というコーナーに、『空き店舗の転用で、新しいレンタルサービスを』とタイトルのついた記事が掲載されていた。埼玉県在住の女性からの投稿で、投稿者の友人が、クッキングスクールの仲間と一緒に、ときどき「レンタルキッチン」を借りてパンづくりや料理の試食会をしているというもので、そういうスペースが身近にあれば自分も是非利用してみたい、ついては、空き店舗等を転用してそのような場所を提供するビジネスがもっとあってもいいのでは…という内容であった。

「レンタルキッチン」…。

なるほど、と柴田氏は考えた。同物件が所在する場所は、新宿という大商業エリアを徒歩圏に控え、三越、伊勢丹、高島屋といったデパートも至近、女性や若者を呼び込みやすいエリアだ。最寄駅徒歩1分という立地ながら、ビルの目の前には新宿御苑の広大な緑が広がり、車の騒音のような大通の喧騒にまみれた騒がしさはない。主婦やOL、学生等がちょっとした集まりに利用する場所としては悪くない条件だ。
料理教室や、ちょっとしたパーティーなどにスペースを貸し出すというビジネスには格好の場所かもしれない。「よし、これだ!」(同氏)。

しかし、同氏はもちろんのこと、同社としてもそうしたビジネスは未経験。管理部門の社員の中には新しいビジネスにチャレンジすることに不安を持ち、「トランクルームのままでもいいのでは」という消極的な声もあったが、女性社員たちからは賛成の声が多かったそうだ。「面白そうですね。大変かもしれないけど夢がある。やってみては?」という言葉に勇気づけられたという。

決断から短期間で事業スタート

「よし!何もしないでいるより、やれることをやってみよう!」と、決断してからの同氏の行動は早かった。
オーナーの同意、同マンション管理組合の理解を得たうえで、水回り、ガス、電気の引き込み工事、空調、照明などの設備工事を実施。レンタルキッチン事業に必要なインフラの準備は早々に整えた。問題は、店舗の室内設計やデザイン、キッチンの設備や調理に関わる器具・食器等の手配だったが、女性社員の意見や要望を取り入れながら、店舗デザイナーやキッチンコーディネーターといった専門家に依頼し、なんと、決断してからほぼ3ヵ月で、工事が完了、事業スタートとなった。

駐車場として使用していれば、月々の収入はせいぜい10万円程度という事情も考慮してもらい、オーナーと交渉の上、サブリース賃料を20万円に値下げしてもらったが、改装工事費約1,300万円はすべて同社持ち。
「ガレージからの転用ということで、ガス、電気、水道などの引き込み工事が必要だったこと、初めての取り組みだったので、専門家のコンサルティングを仰いだり、デザインにも凝ったため高くつきましたが、やり方次第では800万円くらいでできると思います。いろいろ勉強になりました」と同氏。

おしゃれなレストランを思わせるデザイン

「Garden Kitchen」と名付けた「レンタルキッチン」は、ファサードは木とガラス窓でロッジ風に、内部はホワイトとグリーンを基調にした内装で、避暑地の庭を思わせるような明るくさわやかな雰囲気のスペースだ。
記者が取材中も、前を通る女性たちが足を止め、中をのぞいていく。「レストランができるんですか?」と聞かれたこともあるという。

同レンタルキッチンは、同社が特注で製作した、表面が人工大理石のキッチンカウンター(3,000mm×900mm)が中央に置かれ、利用者がその周りのスペースを自由に活用しながら料理やパーティーができるつくりになっている。シンク2ヵ所、三口ガスコンロが2ヵ所、ガスオーブンレンジ、業務用食器洗い洗浄機、大型冷蔵庫、アイスボックスも取り付けられており、調理器具も包丁、まな板、鍋、等‥、数人がキッチンで作業しても大丈夫なくらいは一通りそろっている。テーブルウェアは30人分のセットを用意、利用者は食材と調味料だけ持参すればいい。
ふきんや食器洗いスポンジは、新しいものでないと気持ちが悪いだろうと、利用者ごとに取り換え、使用後はそのまま差し上げているそうだ。
白くペイントされたテーブル、チェアは利用者のニーズに応じてさまざまに配置が可能。余計なデコレーションや家具などもないシンプルな空間で、利用者が花や絵を持ちこんで思い思いに飾り付けることもできる。着席なら20人、立食なら30人くらいでの利用が可能だという。

利用は10時~15時、あるいは17時~22時の5時間制で、各2万円。10時~22時まで12時間利用も可能(4万円)だ。
利用者には、同スペースで自由に時間を楽しんでもらいたいとの意向から、鍵を渡すときに身分証を預かり、片付け、簡単な掃除、ゴミと火の始末、戸締りまで責任もってやってもらうというシステムで、原則として利用者の自主管理に任せる形をとっている。
希望があれば、ケータリング業者の紹介もするという。

自由に楽しめるのが魅力、とリピーターも

2012年11月中旬に「Garden Kitchen」のインターネットサイトをオープン。ホームページと電話で予約の受け付けを始めたところ、すぐに申し込みが入り始め、スタートから1ヵ月後の12月時点で稼働率は30%。中には13年4月の予約まで入れてきたユーザーもいると聞いた。
同社管理部仲介チームリーダーの程岡 睦氏によれば、「ご利用になられる方は30歳代、40歳代の女性が主流です。都心近郊にお住まいの方で、大勢をお招きできるスペースがないため、こうした場所を探している人たちが多いのでは」と話す。「勤務先がGarden Kitchenの近くで、通りがかりに見つけてサイトをチェック、予約を入れている方もいるのでは…」(同氏)とも。
使い方もさまざまで、6~7人くらいで料理を楽しんだりするグループもあれば、デパートや近所のスーパーで食料品や飲み物を買ってきて、20人くらいでパーティーをする若者たちもいるそうだ。
「レストランで食事をするのに比べ、費用の安さはもちろんのこと、他のお客さんを気にすることなく、自由に動いたり喋ったりして楽しめますし、好きな時に好きな料理やドリンクを自分で作って食べたり飲んだりもできます。そういう自由さがいいと言ってくださる方も多いですね」(柴田社長)。
一度利用したグループが、リピートするケースも出てきていると聞いた。

利用者の声を生かし日々改善。稼働率アップへ

「まだまだ船出したばかりで、やってみるといろいろな課題も見えてきました。ご利用になられた方のご意見等を参考に、走りながらいろいろと改善していきたい。レンタルキッチンへのニーズは高いと思います。地域のミニコミ誌、女性向けの雑誌、チラシなどでも積極的にPRし、13年春くらいには5割稼働くらいに持っていきたい」と柴田社長は意気込む。
また、「ここが軌道に乗ってきたら、次は、少し高層階の眺めの良いマンション等をリノベーションして、レンタルキッチン事業に本腰を入れていきたい」とも。

「その5時間、あなたがオーナーです」をキャッチフレーズにスタートしたレンタルキッチン「Garden Kitchen」。
スペースの有効活用手法として、またユーザーニーズをとらえた新事業として、今後どう展開していくのか、注目していきたい。(yn)

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