記者の目

2013/2/22

地域・社会貢献を目指すCRE戦略

 企業不動産の管理、運用を通じて経営資源の最適化を目指すCRE戦略。遊休不動産の売却益による本業の強化などがその一例だが、今回取材した高齢者向け優良賃貸住宅(以下、高優賃)「こもれび神田紺屋町」(東京都千代田区)は、日本土地建物(株)(以下、日土地)が建築金物の総合メーカー(株)ベスト(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:太田哲郎氏)に提案したもので、(株)ベストの利益はもちろんのこと、地域への社会貢献を踏まえたソリューションとなった。CRE戦略支援に力を入れている日土地が、高優賃のコンサルから施工までを初めて総合的にマネジメントした同物件を紹介する。

「こもれび神田紺屋町」の外観。周辺はオフィス街だが、古い住宅も点在し、高齢者が多く居住していることがうかがえる
「こもれび神田紺屋町」の外観。周辺はオフィス街だが、古い住宅も点在し、高齢者が多く居住していることがうかがえる
3階のコミュニティホール。居住者同士のイベントやサークル活動での使用を想定した
3階のコミュニティホール。居住者同士のイベントやサークル活動での使用を想定した
403号室。段差のないフラットフロア、スイッチやコンセントを従来よりも低い位置に配したユニバーサルデザインの採用など、高齢者に優しい設計になっている
403号室。段差のないフラットフロア、スイッチやコンセントを従来よりも低い位置に配したユニバーサルデザインの採用など、高齢者に優しい設計になっている
IHクッキングヒーター。火を使わないため安全で、夏場でも涼しく調理ができる
IHクッキングヒーター。火を使わないため安全で、夏場でも涼しく調理ができる
緊急お知らせボタン。ボタンを押すと受信センターのオペレーターがインターホンを通じて対応する
緊急お知らせボタン。ボタンを押すと受信センターのオペレーターがインターホンを通じて対応する
トイレには、介助や車椅子での使用に配慮したスペースを確保。手すりは(株)ベスト社製品を採用
トイレには、介助や車椅子での使用に配慮したスペースを確保。手すりは(株)ベスト社製品を採用
ウォールインチェア。靴の着脱時に便利な椅子を設置。使用しないときは収納することができる
ウォールインチェア。靴の着脱時に便利な椅子を設置。使用しないときは収納することができる

遊休地を高齢者住宅に活用

 (株)ベストは01年、道路を挟んだ向かい側のビルに本社機能を移転。その跡地に隣地と一体でオフィスビルを建設する計画があったそうだが、周辺のオフィスは空室率が高く、賃料収入が見込めないため頓挫し、遊休地化していた。そこで、相談を受けた日土地は10年、千代田区が募集する高優賃の建設に応募することを同社に提案。建設費の一部を行政からの補助金でまかなうことができ、高齢者の多い地域に高優賃を建設することで、同社の地域・社会貢献という企業理念が実現できることなどを決め手に、計画の承認を取り付けた。

 日土地担当者が千代田区にプレゼンしたところ、高さ制限の緩和、容積割増などの優遇を受けることができ、工事費約5億9,000万円のうち約20%を補助金でまかなったという。

高齢者の安心・安全に配慮した仕様

  同住宅は、東京メトロ銀座線・JR各線「神田」駅徒歩4分、都営新宿線「岩本町」駅徒歩6分に位置し、鉄筋コンクリート造一部鉄骨造地上13階建て。敷地面積208平方メートル、延床面積2,019.33平方メートル。

 1階はエントランスと車寄せ・駐車場で、そのうち1台分は車椅子用。2階は(株)ベストの会議室とした。3階には、居住者用のコミュニティホールを用意。室内は南向きで明るく、約55平方メートルの広々とした空間が広がる。キッチンが併設されており、簡単な調理なども可能なため、居住者同士もしくは来客時の接客スペースとしても使いやすい。取材時には、まだ家具などは配置されていなかったが、高齢者がお茶を飲みながら憩う場所にもなるだろう。ホールに隣接する管理室には、ヘルパー有資格者が毎日10~17時常駐し、健康面のサポートや見守りサービスなどを行なう。

 専有部は3階~12階。居室内は、火を使わないオール電化を採用、緊急通報用の非常ボタンの設置はもとより、水道の使用状況と、在・不在状況を組み合わせ、水の使用が無い場合や、長時間使用し続けた場合などに異常と判断し、緊急通報するシステムを採用するなど、高齢者の安心・安全への配慮を感じることができる。窓には2.2mのハイサッシを採用していることもあり、南向きの室内は明るく、開放感がある。周辺はオフィス街のため、騒音はあまりなく、静かで快適な時間を過ごすことができる空間に仕上がっている。

 住戸は、1K~1LDK、専有面積25~43平方メートル。賃料は月10万2,400円~15万1,500円(別途共益費9,500円、サービス費は間取りのタイプ別に1万3,300円~1万6,000円)。所得に応じて家賃補助が上限4万円まで受けられる。募集住戸数は28戸で、そのうち約9割の物件に申し込みがあり、現在入居者の審査を行なっているという。12年12月26日に竣工済み、入居開始は4月1日の予定。

なぜ高優賃だったのか

 今回のCRE戦略提案にあたって、遊休地の売却やオフィスビル・賃貸マンションの建設などは選択肢になかったのだろうか。日土地のCREソリューション本部CRE推進部プロジェクトマネジメントチーム課長の今井教江氏は、「売るだけ、建てるだけの提案では、われわれが目指す事業主との長い付き合いは実現しない」と話す。神田には、古くから住む高齢者の方が多く、そういった人々の大半は、年齢を重ね、体が不自由になってもこの地域を離れたがらないという。今回の募集でも、近隣住民からの引き合いが多かったそうだ。賃貸オフィス・マンションよりも高優賃の方が空室や利回りのリスクは小さく、長期的な事業の成功を見込めるという判断が今回の提案につながったようだ。

今後のCRE戦略は?

 11年10月、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」が改正され、それまでの「高齢者円滑入居賃貸住宅」、「高齢者専用賃貸住宅」は高優賃と共に廃止となり、「サービス付き高齢者住宅」制度が創設された。しかし、高優賃を含めたこれまでの高齢者向け住宅に比べ、家賃補助、建設補助の金額が少ないケースが多いという。それでも、日土地の今後のCRE戦略支援に関して同氏は、「高齢者住宅は補助金を活用することで、顧客の負担を減らすことができるため提案しやすい。行政の募集の有無次第ではあるが、今後もCRE戦略の有効な選択肢の一つとして高齢者住宅を提案していきたい」と語る。人口構成が変化し、高齢者人口が増加する中で、土地活用もその時代のニーズを汲み取り、必要とされるものでなければならない。同社の今後のCRE戦略提案に引き続き注目していきたい。(T)

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【関連ニュース】
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