記者の目

2014/3/7

ゼロから築いたシェアハウス(1)

名古屋のシェアハウス市場を開拓、市内で4棟運営

 2013年のシェアハウス市場は、「違法貸しルーム」問題で大きく揺らいだ。国土交通省が同年9月に「シェアハウスは寄宿舎に該当する」と示したことで、戸建住宅、ビルなどを改装してシェアハウス運営をしていた事業者、オーナーの中には動揺した人も少なくない。  そのような中、当初より「適法」物件を提供することで、業界内の“揺れ”にも関係なく好調な稼働を続けているシェアハウスが名古屋にある。賃貸オーナーである奥村秀喜氏((有)デクーン代表取締役、名古屋市昭和区)にシェアハウス運営開始の経緯から、物件づくりへのこだわり、運営上の工夫などを聞いた。2回にわたり連載する。

第1号物件「シェアハウス桜山」外観。白の塗装で仕上げ、明るい雰囲気(写真提供:奥村氏、以下同)
第1号物件「シェアハウス桜山」外観。白の塗装で仕上げ、明るい雰囲気(写真提供:奥村氏、以下同)
「シェアハウス桜山」の窓側はアトリエスペースとしている
「シェアハウス桜山」の窓側はアトリエスペースとしている
「シェアハウス滝子」のコワーキングスペース。人の気配を感じながらも一人で作業したいときなど重宝しそうだ
「シェアハウス滝子」のコワーキングスペース。人の気配を感じながらも一人で作業したいときなど重宝しそうだ
「シェアハウス東山公園」のLDK。同物件は100平方メートル以下のため、本来は用途変更の必要はないが、天井までの界壁を立ち上げ、壁も寄宿舎基準で改装している
「シェアハウス東山公園」のLDK。同物件は100平方メートル以下のため、本来は用途変更の必要はないが、天井までの界壁を立ち上げ、壁も寄宿舎基準で改装している
集客のメインはホームページ。ブログでは日頃の運営情報やイベントの様子などを掲載している
集客のメインはホームページ。ブログでは日頃の運営情報やイベントの様子などを掲載している
安心なシェアハウスであることを示すため、建築基準法の用途変更による「確認済証」をホームページで掲示
安心なシェアハウスであることを示すため、建築基準法の用途変更による「確認済証」をホームページで掲示

◆右も左もわからず…、だからこそ「合法」に

 05年より賃貸オーナー業を始めていた奥村氏は、少しずつ登場し始めた「シェアハウス」に注目していた。そんな中、「親から相続した自宅をせっかくだから名古屋にはほぼなかったシェアハウスとして活用できたならおもしろいのではないかと考えました」(同氏)と話す。
 そこで東京のシェアハウス事業者にヒアリングしながら、3年ほど事業化を掛けあったが、「名古屋には需要がないと断られ続けました」(同氏)。

 その間、自身もシェアハウスに関する知識も深まり、自ら事業を推進していくことを決意。役所に何度も出向き、住宅をシェアハウスに改装するにはどういった点をクリアしていく必要があるのか確認を取りながら進めていった。「今思うと、そこで何度も確認したことで、今問題になっている『寄宿舎』の基準をクリアした物件をつくることができたのです」(同氏)。

◆空室リスクよりも災害リスクに危機感を

 同氏が手掛けたシェアハウスの3棟目までは中古物件で、いずれも「寄宿舎」に該当するように改修している。「シェアハウスへの転用は、専用住宅と事務所ビルが最も大変だと思います。住宅だと天井まで界壁を設けなければいけません。事務所ビルは建物間の隙間がないため、採光や避難経路がとれないことが多い。そこを見極めて事業化していかなければなりません」(同氏)。

 「寄宿舎」騒動に対して、同氏は「当初からシェハウスの棟数が増えてくれば、国交省が示すことは予想していた」と話す。「雑居ビルや老人ホームなどと同じで、例えば、消防署から是正勧告が来ていたのにそのままにして火事が起き、焼死者を出せば、翌日には逮捕される。シェアハウス運営者は入居リスクよりもそういったリスクを抱えることへの危機意識を持つことが重要と認識しながら運営してきました」(同氏)。安心・安全な物件づくりにこだわったことが今日の安心感につながっている。

 そういった確実な段階を踏んで、11年7月にシェアハウス1棟目「シェアハウス桜山」(名古屋市瑞穂区、総室数4室)を竣工。何か個性がないと引きがないと考えた同氏は、「人が集まりやすい舞台を作れば、自然に人が集まり、交流が深まる」という考えから、共用部に「アトリエ」を付与した。その結果、シェアハウス市場がほぼなかった名古屋にもかかわらず、ウェブのPRだけで、募集開始からすぐに満室となった。

◆評判を呼び、他オーナーからも依頼が

 1棟目の実績が注目を浴び、2棟目以降はオーナーや不動産会社から依頼を受け、他オーナーの物件をシェアハウス化して運用している。シェアハウス転用の相談はよくくるそうだが、建物や立地条件によって「寄宿舎」に改装することが難しく、頓挫するケースも多いそうだ。「実際に話が進むのが20件中1件くらいのペースです。寄宿舎にしないで電化製品などだけ揃えて家賃収入がほしい…といったご依頼もきますが、そういった方はきっぱりお断りしています」(同氏)。

◆既存物件のポテンシャルを生かした改装を

 2、3棟目は既存物件を借り上げ、シェアハウスとしてリノベーションしたものだ。2棟目の「シェアハウス滝子」(名古屋市昭和区、総室数8室)は、「店舗併用住宅だったため変わった間取り・動線で、通常に賃貸に出したところ借り手がどうしてもつかず、不動産会社さんに相談された物件でした。とはいえ、シェアハウスとしてはおもしろくなる素地を感じました。オーナーが好きなようにしてかまわないという条件を飲んでくださったので、チャレンジすることに」(同氏)。

 同物件は、1階はテナントが入居中の店舗スペースで、2~3階部分のみをシェアハウスに変更することになったのだが、「寄宿舎」に該当するようにするためには建物全体のリノベーションが必要。「1階店舗には休業補償を出して工事を行ないました」(同氏)。同物件も付加価値をつけるため、コワーキングスペースを併設している。

 3棟目の「シェアハウス東山公園」(名古屋市千種区、総室数4室)は、閑静な高級住宅地に立地する築20年の億ションの1戸を活用したもの。「投資家の方からご相談いただいたのですが、リノベーションして貸し出すには家賃が高額になるため、借り手がつかないのではと悩んでいました」(同氏)。1戸で貸し出すのが難しくても、シェアルームとしてならと、1部屋当たり5万8,000~ 5万9,000円で貸し出すことで、すぐに満室となった。優れた立地・仕様の物件でも時代のニーズにマッチしていなければ機能しない。良質なストック活用の手法としてもシェアハウスは注目できるということだ。

◆集客はネットのみ

 そして土地オーナーから依頼があった4棟目は、有名な建築事務所と手を組んだ、初の新築シェアハウス。13年7月に「シェアハウスLT城西」(名古屋市西区、総室数13室)として竣工した。
 同物件の立地は名古屋市中心部に位置するものの「賃貸物件が飽和状態、住宅地としては人気のないエリア」(同氏)で、最寄り駅からも徒歩7~8分の距離。それでも入居開始3ヵ月ほどで満室になった。

 奥村氏の集客方法はインターネットのみ。元々フライフィッシングの釣り具の通信販売を生業としている同氏は「フライフィッシングをする人はごく少数、そういう限られた層への商売にインターネット商法はぴったりです。名古屋におけるシェアハウスも同じで、私にとってシェアハウスは通信販売の1アイテムと捉えています」。自身で想いを込めてつくったものは自分で情報発信したほうがスムーズだと判断したのだ。ホームページは通信販売時代からのノウハウを生かして作成している。

 次回では、運営方法を中心に紹介していく。(umi)

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