記者の目

2014/10/29

闘病生活を支える“親子のための家”

不動産業界にも広がる支援の輪

 自分の子どもが重い病気にかかったとき、必要なものは何か? 最先端の医療技術、治療費や交通費…などさまざまあるが、遠方から大きな病院へ通う場合、付き添い家族が長期間宿泊できる場所も探さなくてはならない。ほとんどの基準看護の病院では、付き添い家族は病院に泊まれないことになっているからだ。こうした闘病生活を余儀なくされた子どもやその家族を支援するために活動を始めたのが、認定NPO法人ファミリーハウス。現在、その支援の輪は不動産業界にも広がっている。

(株)エイブルとエイブル保証(株)が4室を提供している「ひつじさんのおうち」(東京都世田谷区)の1室。パッチワークのベッドカバーであたたかい家庭的な雰囲気に
(株)エイブルとエイブル保証(株)が4室を提供している「ひつじさんのおうち」(東京都世田谷区)の1室。パッチワークのベッドカバーであたたかい家庭的な雰囲気に
ボランティアの手づくりによるハンガー、ランチョンマットなど。手づくりの品が病気の子どもや付き添い家族の心を和ませている
ボランティアの手づくりによるハンガー、ランチョンマットなど。手づくりの品が病気の子どもや付き添い家族の心を和ませている
スタッフとボランティアがベッドカバーを手づくりしている様子。登録ボランティア302名の力がハウス運営の大きな支えとなっている
スタッフとボランティアがベッドカバーを手づくりしている様子。登録ボランティア302名の力がハウス運営の大きな支えとなっている
特に気を遣っているのが衛生面。常に清潔な寝具を保ち、子どもたちが手にするおもちゃや本などの除菌作業は定期的に行なっている。季節ごとの大掃除にはチームで参加する企業も
特に気を遣っているのが衛生面。常に清潔な寝具を保ち、子どもたちが手にするおもちゃや本などの除菌作業は定期的に行なっている。季節ごとの大掃除にはチームで参加する企業も
定期的に通う園芸ボランティアが、追肥や草取りの手入れなどを行ない、ベランダ菜園や植栽、受付に飾る季節の花など、緑のある環境を整えている
定期的に通う園芸ボランティアが、追肥や草取りの手入れなどを行ない、ベランダ菜園や植栽、受付に飾る季節の花など、緑のある環境を整えている
乾汽船(株)が所有物件の2室を提供している「かちどき橋のおうち」(東京都中央区)の1室。1LDK・50平米の居室は家族でゆっくりと過ごせる空間となっている。部屋の窓からは勝どき橋や東京タワーも見える
乾汽船(株)が所有物件の2室を提供している「かちどき橋のおうち」(東京都中央区)の1室。1LDK・50平米の居室は家族でゆっくりと過ごせる空間となっている。部屋の窓からは勝どき橋や東京タワーも見える

◆家族の精神的・肉体的な不安を軽減

 ファミリーハウス(東京都千代田区、理事長:江口 八千代氏〈元(独)国立病院機構相模原病院看護部長〉)は、1991年に活動を開始。そのきっかけは、国立がんセンター中央病院(当時)小児病棟で闘病生活をしている子どもの母親たちに対し、入院生活などについてのアンケートを行なったところ、子供が入院中の滞在施設を母親らが強く要望しているという事実が明らかになったことだった。ファミリーハウス前理事長で、当時の国立がんセンター中央病院小児科医長だった大平睦郎氏は、「病気の子どもと付き添い家族のための宿泊施設を確保しなければ」と立ち上がり、医療従事者や市民らが協力、ファミリーハウス設立に至る。

 資金集めや施設運営の基盤が整った93年3月、息子を病気で亡くしたある夫妻が総工費を個人で負担し、日本初となる滞在施設「かんがるーの家」(東京都調布市)が竣工、運営が始まった。
 現在、運営している都内の宿泊施設は、11施設・57部屋となっている。

 施設の運営は、資金協力、物品寄付、ボランティア活動協力の3つの支援から成り立っており、現在、公的な補助金はない。個人や企業、団体などからの会費と寄付、各種助成金申請を行なうことで、水道・光熱費などのランニングコストを賄っている。

 病気の子どもや家族が、施設に着いたそのときから暮らせるよう、寝具、台所、風呂など生活に必要な設備を用意。利用料は付き添い家族が1泊1,000円、病気の子どもは無料で宿泊できる。地元との二重生活を負うことになった家族にとっては、経済的負担が軽減できるのが大きなメリットだ。

 病気を宣告された家族には、子どもが病気になったという大きなショックや不安、慣れない土地での看病生活による孤独感など、精神的・肉体的な不安が襲いかかる。「そうした一番つらい時期を、少しでも快適に過ごしてもらいたい」(ファミリーハウス理事・事務局長・植田洋子氏)との思いが、活動の原点となっている。

◆人のぬくもりを感じることができる家

 運営は、ハウスオーナー、スタッフ、ボランティアたちがサポート。中でも重要となるのが、ボランティア活動協力だ。安全・安心な施設運営のためには、多くの人の手が必要となる。週末の空いた時間を活動に充てる会社員や、企業の社会貢献活動の一環としてファミリーハウスを知り、個人的にボランティア活動を続けている人も増えているという。登録しているボランティアは302名、2013年度はスポット的な協力として延べ309名が活動に加わった。

 特に気を遣っているのが衛生面で、子どもたちが手にするおもちゃや本などの除菌作業は定期的に行ない、季節ごとの大掃除にはチームで参加する企業もある。また、できるだけ「人のぬくもりを感じることができる家」を目指し、ベッドカバーやハンガーなどはボランティアたちが手づくりしているそうだ。
 「付き添いのご家族は、病院で医師や看護師、同じ病室の方々に見えない神経を遣っていて、施設に戻ってきたときはもうぐったり。部屋に帰ったとき、手づくりで家庭的なものを目にしてホッとした、という声も届いています」(植田氏)。

 ファミリーハウスが活動を開始してからの利用者は、全施設合わせ、延べ1万4,469家族、利用日数は延べ13万2,269日(14年3月末現在)。また、支援の輪は個人や企業、団体へと広がっている。

◆不動産業界にも支援の輪が…

 支援の輪は、不動産業界にも広がっている。

 (株)エイブルとエイブル保証(株)は05年に3室、08年に1室、合計4室のワンルームマンションを無償提供し、「ひつじさんのおうち」(東京都世田谷区)の運営を開始。ファミリーハウスの活動に賛同し、賃貸仲介を中止、住戸を提供した経緯がある。

 高度な先進医療を求め、全国からたくさんの小児病患者が集まる(独)国立成育医療研究センターから徒歩3分に位置。病気の子どもや付き添い家族にとっては絶好の立地だが、もともと敷地内で運営していた「ドナルド・マクドナルド・ハウスせたがや」(21室)の部屋数だけではまったく足りず、病院から歩いて行ける施設を増やすことが課題だった。エイブルの無償提供は、それに応える形となった。病院から近いということで、利用希望者が非常に多く、4室に対して常時約10家族からの申し込みがあるという。

 住戸には、洗濯機や調理器具など家財道具を完備。ボランティアやスタッフに混じり、両社社員もハウスの大掃除などの活動に参加している。

 「遠方から通うご家族の中には、賃貸物件を借りて暮らすという選択をされる方がいます。そのときに、病院近くの店舗スタッフが物件探しをサポートし、賃貸契約成立の場合には、企業の社会貢献として仲介手数料を免除してくださっています。土地勘のないところで物件探しをしなくてはならないという不安が解消されると、ご家族の方に喜んでいただいています」(植田氏)。

 エイブルと同様に、乾汽船(株)(旧イヌイ倉庫)もファミリーハウスの活動に賛同。今年4月、国立がん研究センター中央病院と聖路加国際病院から徒歩圏内に、同社所有物件の2室を提供した「かちどき橋のおうち」(東京都中央区)がオープンした。

◆活動に立ちはだかる不安材料も

 しかし、活動には不安材料もあるという。
 「マンションを棟で所有するオーナーからの提供であれば問題にならないのですが、区分所有のオーナーからの提供の場合、マンションの管理組合に支援のお願いに行くと、『不特定多数が出入りすることになると入居者が敬遠する』『総会で賛成多数を得るのは難しい』といった対応で、なかなか部屋を確保するまでに至らないことが少なくありません。区分所有マンションは難しい問題が多いですね」(植田氏)。

 病気の子どもや付き添い家族が宿泊施設不足で困っているという問題を、恥ずかしながら取材を通して初めて知った。物品寄付、ボランティア活動、居室提供、どんな形であれ支援に加わることは、不動産会社にとって意義のある取り組みになるのではないだろうか。記者自身も何ができるのか、考えてみたい。(I)

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お知らせ

2024/3/7

「海外トピックス」を更新しました。

飲食店の食べ残しがSC内の工場で肥料に!【マレーシア】」配信しました。

マレーシアの、持続可能な未来に向けた取り組みを紹介。同国では、新しくビルを建設したり、土地開発をする際には環境に配慮した建築計画が求められます。一方で、既存のショッピングセンターの中でも、太陽光発電やリサイクルセンターを設置し食品ロスの削減や肥料の再生などに注力する取り組みが見られます。今回は、「ワンウタマショッピングセンター」の例を見ていきましょう。