記者の目 / 開発・分譲

2014/12/15

「四角」を極め、住みごこちを究める

コスモスイニシアが「武蔵新城」に込めた想い

 マンションという住まいのデザインのベースは、言うまでもなく「四角」である。外観や居室内が円形や四角形以外の多角形のマンションなどは使い勝手が悪いだろうし、精神的にも落ち着かない。ならば、その「シカク」をとことん極めることで、空間デザインや、使い勝手をさらに高めてようと考えたマンションが登場した。(株)コスモスイニシアが11月に販売した「イニシア武蔵新城ハウス」(川崎市中原区、総戸数124戸)だ。

「イニシア武蔵新城ハウス」完成予想図。とにかく「四角い」。外観はエッジの効いた四角で、北側住戸は滑り出し窓を奥まらせることで、袖壁の四角を際立たせている
「イニシア武蔵新城ハウス」完成予想図。とにかく「四角い」。外観はエッジの効いた四角で、北側住戸は滑り出し窓を奥まらせることで、袖壁の四角を際立たせている
エントランスホールも四角い!あまりにも四角ばかりだと無機質感が強調され過ぎるので、左官コテ仕上げで雰囲気を和らげている
エントランスホールも四角い!あまりにも四角ばかりだと無機質感が強調され過ぎるので、左官コテ仕上げで雰囲気を和らげている
標準的な住戸のリビングモデル。梁と柱がなく、すっきりとした空間。天井もフラット。サッシは間隔を寄せ、1枚の大きな四角い窓に見せている。スライドウォールも天井いっぱいの高さで凹凸がない
標準的な住戸のリビングモデル。梁と柱がなく、すっきりとした空間。天井もフラット。サッシは間隔を寄せ、1枚の大きな四角い窓に見せている。スライドウォールも天井いっぱいの高さで凹凸がない
キッチンは、同社の若手社員の意見をもとに開発した「シーナリーキッチン」。広いカウンターで家族が集まることを意識した造り。天板は全戸アルミ製。シンクはこれまたきれいな四角形!グロエ社の水栓の丸さが際立つ
キッチンは、同社の若手社員の意見をもとに開発した「シーナリーキッチン」。広いカウンターで家族が集まることを意識した造り。天板は全戸アルミ製。シンクはこれまたきれいな四角形!グロエ社の水栓の丸さが際立つ
洗面ももちろん四角。モザイクタイルがさりげなく丸で主張している
洗面ももちろん四角。モザイクタイルがさりげなく丸で主張している
ユニットバスの照明まで「四角」(LEDライン照明)
ユニットバスの照明まで「四角」(LEDライン照明)
業界初となる玄関下に配置した換気窓(外廊下側からみる)。臭気を逃がし、室内に空気を取り込むのに便利
業界初となる玄関下に配置した換気窓(外廊下側からみる)。臭気を逃がし、室内に空気を取り込むのに便利
ベースの間取り
ベースの間取り
クローゼットをシェアするプラン
クローゼットをシェアするプラン
最も特徴的な可動家具プラン。可動家具は標準で2つセットされており、真ん中に配置すると、2部屋に分割できる。端に寄せてウォークインクローゼットのような使い方もできる。スライドウォールも中開きに変更される
最も特徴的な可動家具プラン。可動家具は標準で2つセットされており、真ん中に配置すると、2部屋に分割できる。端に寄せてウォークインクローゼットのような使い方もできる。スライドウォールも中開きに変更される

◆余計な凹凸の無い、フラットな室内

 同物件は、JR南武線「武蔵新城」駅徒歩8分に立地する、地上5階建ての低層マンション。敷地はゴルフ練習場跡地で、イマドキ入手が困難な、きれいな長方形。もしかしたら、「四角」というコンセプトは、この敷地を得たときから浮かんだのかもしれない。

 開発テーマは「やさしいシカク」。四角というカタチを突き詰めていくことで、人にやさしい住まいが実現できるという意味だ。「『やさしい住まい』とはどうあるべきなのかという住まいの原点に立ち返り、住まいの中に 無駄な凹凸をなくし、極力シンプルで美しいカタチをつくること」と、同物件の開発担当者は、四角へこだわる理由を説明する。

 外観デザインは、まさに「四角」。3棟構成の建物は外廊下を内側に寄せ、中庭を取り囲むように配置。外側からは、スクエアで直線的なフォルムしか目に入らない。それだけでは、温かみがないため、エントランスを左官コテ仕上げの土壁としているほか、豊かな植栽で包み込んでいる。

 建物は、ボイドスラブ工法を採用し、スラブの厚さを増すことで耐力を高めて、居室内に張り出す梁をなくしている。行政の高さ規制、二重床・二重天井の採用もあり、基準天井高は2,400mmと一般的だが、室内には柱や梁が一切なく、コーナーから天井・壁に至るまで凹凸がまるでない。そのため、視覚的な広がりがあり、(有効面積が広く)使い勝手もいい。

 天井までフルフラットなため、建具も天井高目いっぱいの高さを確保。リビングのサッシは連窓サッシとして、サッシ間の柱を省き、一つの大きなサッシに見えるよう処理している。リビングと洋室を仕切るスライドウォールも、天井高いっぱいの高さ。居室扉は引き戸を標準とし、取っ手の出っ張りを排除したほか、開き戸のレバーハンドルも四角くデザイン、壁ラインからオフセットしている。その他のスイッチ類も廊下壁からはオフセットして配置しており、余計な凹凸のないフラットな廊下壁を実現した。直線基調デザインによる室内のスッキリ感は、機会があったらモデルルームでぜひ確認してほしい。

 とにかく、「四角」へのこだわりは半端ではない。アルミトップのキッチンは、きれいな四角いシンクが存在感を醸し出し、換気扇フードは四角い煙突型。カーテンボックスは天井に埋め込まれ、(丸い形の多い)ペンダント照明を嫌い、LEDスポットライト(これは丸いが)を埋め込んでいる。洗面所は、自社デザインのデスク型で、三面鏡も洗面ボウルももちろん四角。ユニットバスの照明までLEDのライン照明だ。
 ここまで四角いと、逆に数少ない丸いデザインのものが引き立ってくるから不思議だ。

◆田の字プランの中にも随所に工夫

 では、間取りデザインに話を移そう。もちろんテーマは「シカク」だ。
 
 住戸は、2LDK~4LDK、専有面積70~85平方メートル。角住戸やルーフバルコニー付き住戸など一部の例外を除き、専有面積70平方メートルの3LDK、3タイプに集約される。いずれも、スパンは6,100mm、バルコニー側にリビングと1室、玄関側に2室を振り分け、中央に廊下が走る、典型的な「田の字プラン」である。
 ここまで読んで「なんだ」とがっかりすることはない。一見平凡な田の字プランの中にも、ユーザービリティを高めるための工夫は、しっかりと盛り込まれている。

 すべての住戸は、外廊下から2メートルの奥行きのあるポーチを配し、そこから横入りの玄関としている。玄関は、廊下幅を上回る広さを確保。天井高いっぱい取った玄関収納の下には、おそらく業界初と思われる「玄関通風窓」を設置。小さな窓なので開けっぱなしで外出もできるし、エアコン室外機置場に向けてあるので直接外気も吹き込まない。玄関を脱臭し、居室ドアのアンダーカットを介し、居室内に外気を呼び込む。

 居室は壁一面にクロゼットを配置。5畳の居室も正方形で、ベッドや家具の配置に困らない。壁面をフラットにするため、壁にはすべてアンダーボードが仕込まれており、コートフックやピクチャーレールなどが自由に取り付けられる。
 
 このもっともベーシックなプランの変型が、2タイプある。まず、2つの洋室のクローゼットを廃し、リビングに隣接して「ファミリークローゼット」を設置。リビングも広げたプラン。このプランでは、3つの洋室はすべて正方形の5畳となり、部屋の使い勝手が向上する。

 そして、もう一つのプランが、このマンションの白眉と言っていい、「可動収納プラン」だ。リビング横の居室と玄関側洋室のクローゼットを取り去り、居室幅の半分幅で、天井目いっぱいの高さを持つ可動収納を2コ備えた。居室の有効面積は玄関側収納を取った分増え、7.4畳となる。

 可動式収納は、そのまま壁に付けて設置すれば通常の居室と同様に使え、背中合わせに設置すれば、2つの部屋として活用できる。そうした利用を見越して、このプランのスライドウォールは、センター開きとしてある。また、可動収納を買い増すことで、壁一面を収納とすることも可能だ。
 可動収納そのものは古くからある商品だが、マンションは梁や柱が出ているため、そのメリットが活かせなかった。梁と柱が一切出ない、「四角い」マンションだからこそ実現したプランといえよう。

◆同社の「40年のマンションづくり」集大成

 価格と売れ行きはどうだったか?

 プレセールスは、2014年6月から開始しており、すでに反響は1,100件を超えている。モデルルームには、累計350組が来場。11月29日から登録を開始した1期1次60戸は、地元中心に全戸に申し込みが入った。販売価格は4,198万~6,148万円、最多価格帯は4,600万円台(11戸)。坪単価は、約230万円。2つ隣の武蔵小杉駅圏がすでに300万円相場になっていることを考えれば、良心的な値付けといえる。

 最後に。冒頭ではあえて書かなかったが、このマンションは、同社の「40周年記念マンション」と位置付けられている。だからといって、過度にコストがかけられているわけでもなく、「長期優良住宅」や「スマートマンション」でもない。言ってしまえば、ナロースパン、田の字プランの標準的ファミリーマンションだ。

 だが、そこに盛り込まれたコンセプトや工夫は、通常の商品に容易に反映できるものばかりだ。それは、良品廉価のファミリーマンションを今後もしっかり供給していこうという同社の想いと言い換えることもできるだろう。(J)

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【関連ニュース】
・川崎・武蔵新城で創業40周年記念マンション販売/コスモスイニシア(2014/11/21)

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「海外トピックス」を更新しました。

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