記者の目

2015/1/9

クリエイティビティがまちを救う(2)

空き家、公的不動産…、既存ストックを生かした提案

 前回に続いてクリエイティビティをテーマとした物件づくりやまちづくりを通じて地域活性化等に取り組む、リノベーションを得意とする各社の事例を紹介しよう。

「あしたの郊外」プロジェクトキックオフシンポジウムの様子。当日は、公募内容のモデルケースとなるような提案が実行メンバーから発表された
「あしたの郊外」プロジェクトキックオフシンポジウムの様子。当日は、公募内容のモデルケースとなるような提案が実行メンバーから発表された
「あしたの郊外」プロジェクトサイトでは公募内容が続々と掲載されている
「あしたの郊外」プロジェクトサイトでは公募内容が続々と掲載されている
「取手アート不動産」サイトではTAPが発掘してきた物件を掲載
「取手アート不動産」サイトではTAPが発掘してきた物件を掲載
「BUKATSUDO」が入るのは造船ドック跡地を活用した商業施設の一画。アプローチ動線がわかりづらい、視認性が低いという一般的な事務所や店舗では使いづらい区画を秘密基地のようなサードプレイスに仕上げることで、デメリットをメリットに変えた
「BUKATSUDO」が入るのは造船ドック跡地を活用した商業施設の一画。アプローチ動線がわかりづらい、視認性が低いという一般的な事務所や店舗では使いづらい区画を秘密基地のようなサードプレイスに仕上げることで、デメリットをメリットに変えた
「BUKATSUDO」全体マップ(画像提供:(株)リビタ)
「BUKATSUDO」全体マップ(画像提供:(株)リビタ)
玄関近くのコーヒースタンドは誰でも入れるスペース。気軽に多くの人が足を運ぶことを目指している(写真提供:(株)リビタ)
玄関近くのコーヒースタンドは誰でも入れるスペース。気軽に多くの人が足を運ぶことを目指している(写真提供:(株)リビタ)
「BUSHITSU」前のアトリエスペースで行なわれたワークショップの様子(写真提供:(株)リビタ)
「BUSHITSU」前のアトリエスペースで行なわれたワークショップの様子(写真提供:(株)リビタ)

◆郊外の空き家をアートの力で再生

 (株)オープン・エー(東京都中央区、代表:馬場正尊氏)が取手アートプロジェクト(TAP)とともに手掛けるのが茨城県取手市の空き家を舞台とした「あしたの郊外」という企画。TAPとは、1999年に東京藝術大学先端芸術表現科が立ち上げた行政、市民と共同で進めている団体。TAPは、若いアーティストたちの創作発表活動を支援し、市民に広く芸術と触れ合う機会を提供。取手が文化都市として発展していくことを目指してきた。
 これまで取手の団地を舞台にしたアート活動や空き家のアーティスト・イン・レジデンス化などが行なわれてきた。

 取手は高度経済成長期の住宅需要を支え、東京のベッドタウンとして発展した郊外住宅地。人口減少や均質な風景、第1世代の高齢化に伴う地域コミュニティの崩壊、都市への回帰傾向等が原因でゴースト化していくことが予想されている。

 「あしたの郊外」は、これから郊外に増えていく空き家や空き地にアートが介入することによって、新しい変化を誘発する実験的プログラム。アーティストや建築家による空き家を舞台としたアイディアやデザインを公募し、馬場氏ら6人の実行メンバーがプラン内容を検証する。選定プランを物件オーナーや住み手、投資家などへ提案。「東京R不動産」と共同で物件マッチングサイト「取手アート不動産」(http://torideartestate.jp)も2014年10月下旬に公開しており、対象物件の集積が図られている。同サイトを通じ「あしたの郊外」に集まったアイディア、空き家、住み手のマッチングを行なっていく予定だ。

 現在、郊外の「空き家」に対するアイディア・プランを募集している段階で、同プロジェクトサイトには応募者から続々と案が集まっている。例えば、通り側に最も近い和室を店舗として改装して地域に開放する提案、地域拠点となるシェアオフィスへの改修提案などが挙がっている。
 15年1月末で公募を締め切り、対象物件のオープンハウス、オンラインディスカッションなどを経て、2月下旬にはオーナーや住み手の前で選定プランの発表会を開催する予定だ。そこで買い手および借り手が付いた案件から実行していく方針。

◆公的不動産をリノベ、さまざまな人を集めるハブに

 リノベーション事業やシェアハウス運営などを手掛ける(株)リビタが横浜市等と共同で開発したのが、まちのシェアスペース「BUKATSUDO(ぶかつどう)」(横浜市西区)。住民や周辺のビジネスパーソンなどが日常を豊かにする趣味の活動やまちを豊かに変える活動(部活)を行なう拠点として提案している。

 場所はみなとみらい線「みなとみらい」駅徒歩3分に位置する、造船ドック跡地を利用した建物「ドックヤードガーデン」の一画。同社は施工だけでなく、シェアハウス事業等で培ったコミュニティ醸成の企画力や運営ノウハウを活かし、コンテンツディレクションやデザイン各社とともに企画・プロデュース・運営を担っていく。

 同スペースは、右マップのように誰でも出入りが可能な「コーヒースタンド」、会員制の「ワークラウンジ」「BUSHITSU(部室)」、レンタルスペースの「キッチン」「ミーティングルーム」「スタジオ」等がある。例えば、ワークラウンジは就業後の自習スペース、BUSHITSUは部活動の活動拠点や荷物置き場、レンタルスペースは仲間での貸し切りや教室の開催、といった利用方法を想定している。

 14年6月のプレオープンから10月のグランドオープンにかけて、同スペースの活用方法を検討するワークショップを開催したところ、100案が生まれ、30人の部長候補が誕生したという。
 11月から本格利用を開始したBUSHITSUはそのほとんどが埋まっている状況。レンタルスペース利用も徐々に増えてきた。また、セミナールーム等ではビジネスパーソンに人気の高い市民大学「丸の内朝大学」の講座の一部を特別開催するなど、さらに場の魅力アップに努めたほか、随時ワークショップ等を開催し、多くの人を呼び込んでいる。

◆一般ユーザーを巻き込む仕掛けを

 上記で紹介した以外にも、リノベーションを主とする不動産会社等が関わるさまざまなクリエイティブ活動が各地で起きている。クリエイティブと聞くと、一部のアーティストやクリエイターを対象としているような印象を受けるが、いずれの取り組みも一般ユーザーが参加できる、しやすい環境をつくっていることがポイントだ。また、より発展的に取り組むためには産官学民連携で展開できることが理想だろう。
 そして地場に根付く不動産会社こそ、地域活性化に貢献する意義は大きいはずだ。社会・経済が大きな節目にあり、成熟社会を迎えた日本では従来のビジネスモデルでは立ち行かなくなるのは間違いない。まちをよく知り、ユーザーとオーナーの橋渡しができる不動産会社にこそ“クリエテイティビティ”のある発想が今、求められている。(umi)

 <<(1)へ

***
【関連ニュース】
茨城・取手で、アートによる空き家活用プロジェクト始動/オープン・エー他(2014/10/21)
MM21のシェアスペース、グランドオープン。「BUSHITSU」入居者の募集開始/リビタ(2014/10/23)

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/4/5

「月刊不動産流通2024年5月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年5月号」の発売を開始しました。

さまざまな事情を抱える人々が、安定的な生活を送るために、不動産事業者ができることとはなんでしょうか?今回の特集「『賃貸仲介・管理業の未来』Part 7 住宅弱者を支える 」では、部屋探しのみならず、日々の暮らしの支援まで取り組む事業者を紹介します。