記者の目

2015/5/18

“大きな家族”のようなまちを目指して

約1万5,000人が暮らす「若葉台団地」の場合

 1973年に神奈川県住宅供給公社が造成を開始した「若葉台団地」(横浜市旭区、賃貸住宅7棟792戸、分譲住宅66棟5,186戸)。現在、約90万平方メートルという広大な敷地内には、自然環境と都市機能がバランス良く融合した団地が形成されている。しかし、全国の郊外型団地と同様、人口減少や子供世代の流出などにより団地内の人口は減る一方。高齢化率も39.5%と進んでいることから、同公社は本格的な団地再生プロジェクトに乗り出した。  「コミュニティ」を核とした同団地の取り組みを紹介しよう。

約90万平方メートルの広大な敷地に賃貸住宅7棟792戸、分譲住宅66棟5
約90万平方メートルの広大な敷地に賃貸住宅7棟792戸、分譲住宅66棟5
186戸を有する「若葉台団地」(写真は賃貸住宅棟)
186戸を有する「若葉台団地」(写真は賃貸住宅棟)
大型スーパーや専門店が軒を連ねる「ショッピングタウンわかば」を中心に、賃貸住宅棟(ピンク色の部分)が取り囲む
大型スーパーや専門店が軒を連ねる「ショッピングタウンわかば」を中心に、賃貸住宅棟(ピンク色の部分)が取り囲む
今から30余年前、横浜市北西部の自然豊かな丘陵で開発を始めた
今から30余年前、横浜市北西部の自然豊かな丘陵で開発を始めた
約40の専門店からなる「ショッピングタウンわかば」。ブティックから青果店、メガネ店、飲食店までさまざま
約40の専門店からなる「ショッピングタウンわかば」。ブティックから青果店、メガネ店、飲食店までさまざま
天気のいい日は、団地や近所に住む主婦たちの憩いの場となる広場
天気のいい日は、団地や近所に住む主婦たちの憩いの場となる広場
広場では四季折々のイベントを開催。特に夏祭りは近隣からも人が集まり盛況となるそう。団地住民の楽しみの一つ
広場では四季折々のイベントを開催。特に夏祭りは近隣からも人が集まり盛況となるそう。団地住民の楽しみの一つ
「職」と「食」をテーマとした多世代交流拠点「コミュニティオフィス春(Haru)」で開催されたお茶の講座
「職」と「食」をテーマとした多世代交流拠点「コミュニティオフィス春(Haru)」で開催されたお茶の講座
「わかば親と子のひろば そらまめ」では、親子だけでなくおじいちゃん・おばあちゃんも一緒になって過ごす
「わかば親と子のひろば そらまめ」では、親子だけでなくおじいちゃん・おばあちゃんも一緒になって過ごす

団地に求められる「コミュニティ」と「世代循環」

 「若葉台団地」は、敷地内に保育園・幼稚園のほか小・中学校などの教育施設が充実しており、病院や文化・福祉施設も団地内外に隣接するという利便性の高さが特長。そのほか、10の公園と5つの散歩コースがあるなど環境面にも優れ、テニスコートやプールなどのスポーツ施設も備わっている。また、団地の中心部には、大型スーパー・銀行・郵便局を含めた約40の専門店とふれあい広場(イベントスペース等)からなる「ショッピングタウンわかば」があり、団地住民や周辺住民の憩いの場となっている。

 しかし、かつては活気にあふれた同団地も、92年に人口のピークを迎え(2万人以上)、以降は人口減少や少子高齢化、子供世代の流出などにより人口は減り続けており、今年(2月末時点)には1万5,000人を切ってしまった。

 「人口の減少、高齢化は今後加速する一方。現時点での賃貸稼働率は約93%、分譲の空き家率は2%程度といったところだが、ここで手を打っておかないと取り返しがつかなくなる」(同公社団地再生事業部事業企画課主幹・江川智子氏)と危機感を募らせた同公社では、2013年度に創設された国土交通省の団地再生補助事業(「住宅団地型既存住宅流通促進モデル事業」)に名乗りをあげ、団地再生に向けた取り組みを本格化した。

 まず、今後の取り組みを推進していくための基礎資料とするため、空き家を除く団地内全世帯(5,945戸)を対象にアンケートを実施。調査期間は14年1月8~15日で、2,620票の回答が集まった(回収率44.1%)。
 空き店舗や空き地を商店以外に活用するにはどうしたらいいか、の問いには、年齢が高い層では「高齢者や福祉サービスの拠点」、年齢が低い層では「託児所など乳幼児のための施設」などの回答が上位に。また、年齢が高くなるほど「気楽に誰でも集まって話ができる場所」を望んでいることも分かった。
 また、「空き家の活用方法」としては「若い家族世帯の住宅」が最多だった。

 この結果を受け、同公社は団地再生の方向性を「元気なシニア世代の生きがいの創出」「団地内への若年・子育て世代の流入」に決定。「コミュニティ」と「世代循環」を目的に、多様な施策を推進していくこととした。

「多世代交流」「子育て支援」施設がオープン

 早速、団地内のイベントやコミュニティ活動の中心を担っている若葉台連合自治会、住宅管理組合協議会へ協力を要請。高齢者支援や子育て支援に携わっている地元NPO法人にも、同公社が目指す団地再生の取り組みに加わってもらうこととした。

 その一つの施策として、14年4月、「ショッピングタウンわかば」の中心部に、「職」と「食」をテーマとした多世代交流拠点「コミュニティ・オフィス&ダイニング春(Haru)」がオープン。各種情報発信や地域課題に関する取り組みを支援する場としてスタートを切った。

 コミュニティオフィスは、インターネット環境を整備したWi-Fi空間で、プロジェクターやスクリーン、レンタルPC等の利用も可能。若者から高齢者まで幅広い年代の住民が利用し、多様な情報や人材が交流することにより活性化も推進する場所となることを目指している。利用料金は、カウンター席が1時間につき100円、ミーティングスペースが1時間につき300円(要予約)。
 コミュニティダイニングでは、神奈川県が提唱する「健康寿命を延ばす」「未病を治す」といったことを踏まえ、健康増進に留意したメニューを提供。カジュアルなフランス料理や洋食、手づくりケーキなど、団地や周辺地域に対して「食」の情報を発信している。

 オープンして約1年が経過、その間にお茶の講座やコンサート、展示会などが開かれており、ときには「○○させてほしい」という飛び込みの依頼もあるという。「イベントの告知は、主に団地内に配るチラシやホームページで行なっていますが、最近は口コミ効果もあって認知度は少しずつアップしています。『いきなりカルチャー教室を開くのは不安』という方がチャレンジ的に講座を開いたり、市民サークルの活動の場に利用していただく機会も増えてきました」(江川氏)。

 一方、14年5月にはNPO法人若葉台が運営事業者となり、子育て支援施設「わかば親と子のひろば そらまめ」を開設。子育ての負担感、不安感を軽減することを狙いとし、主に0~3歳の未就学児の親子が気軽に集まれて自由に過ごせる広場としている。利用するためには登録が必要で、利用料金は1日100円(別途年会費500円)。

 「昨年度の登録世帯数は150を超えました。40組くらいの登録世帯数があれば運営を継続していくことが可能と考えていたので、嬉しい誤算だと運営スタッフから聞いています」と江川氏。また最近、「若い人を団地に呼び込みたい!」という思いから、そらまめを利用するお母さんたちが中心となり「若葉台子育て母の会」を発足。フリーマーケットに出店したり、これまでなかった子供服を売る店を誘致したりと、盛んな交流が行なわれているという。
 
 世の中には、母1人で子育てをしている孤独なシングルマザーも少なくない。それを考えると、同世代のお母さんたちと話せる場所があること、集える場所が近くにあることは心強いのではないか。団地に限らず、こうした母親同士のコミュニティの場がもっと増えれば、子育ても楽しくなるに違いない。

若者を団地に呼び込もう!

 また、同公社は若年層や子育て世帯の団地への流入促進を目的に、団地の宿泊体験ができる「体験入居室」を4月11日にオープンした。
 のびのびとした環境で子育てをしたいと願う若年・子育て世代に、「緑豊かな郊外型団地」生活を体験してもらうことで、同団地への流入促進につなげることが目的。また、同団地を巣立った30~40歳代の子供世代の団地回帰をサポートするのも狙いの一つだ。現在、分譲世帯に住む親世代には、団地中央に位置する利便性の高い賃貸住宅に住み替えてもらい、子供世代に分譲住宅を譲るなど、多世代によるコミュニティ活性化を目指す。
 「団地暮らしの良さを分かってもらうには、実際に住んでいただくことが一番。体験者からさまざまなニーズを聞き出し、近々開始する予定の既存賃貸住宅のリフォーム提案などにも活かしていきたいと考えています」(同氏)。

 さらに今年度中に、地元NPO法人が高齢者支援施設を「ショッピングタウンわかば」内に開所する予定。地域包括ケアの役割を担うとともに、多世代交流スペースとしても機能させていきたい考えだ。

 3ヵ年に及ぶ団地再生事業の補助は今年度で終了するが、「これまで実施してきた取り組みを来年度以降も継続して活動していける基盤づくりをするのが今年度の課題」(同氏)と位置付けている。

 巨大団地の高齢化が進むと、周辺地域一帯も衰退化する恐れがある。同団地での「コミュニティ」と「世代循環」に向けた取り組みが実を結び、高齢者世帯も若者世帯も一つの“大きな家族”のようなまちになること、そしてその活気が周辺地域にも広がっていくことを願いたい。(I)

***
【関連ニュース】
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