記者の目

2015/6/29

住宅だってリサイクル

住宅はいつかゴミになる

 家の建て替えでもしない限り、普段、自分の家がいつかゴミになるとはなかなか考えない。まして、ゴミの分別や一部家電のリサイクルなどはもはや当たり前という時代でも、住宅を解体したときにどれくらいのゴミ(廃棄物)が出るのか、また出たゴミはどう処理されているのかを意識する人はそうそういないのが現状ではないだろうか。

「資源循環センター」作業風景
「資源循環センター」作業風景
分類やリサイクルについての表示
分類やリサイクルについての表示
畳分解分別作業中。畳はそのままだと焼却処分だが、分解分別することによりリサイクル可能となる。取り組み開始当初は解体作業に20分以上かかったが、現在は7分に短縮。労務費削減につながったという
畳分解分別作業中。畳はそのままだと焼却処分だが、分解分別することによりリサイクル可能となる。取り組み開始当初は解体作業に20分以上かかったが、現在は7分に短縮。労務費削減につながったという
ICタグを使った廃棄物の発生量を戸建別に把握できる「次世代型ゼロエミッションシステム」も全国展開。施工現場で発生した廃棄物にICタグを取り付けることで、発生量をタイムリーに把握し、無駄のない資源の利用を促進
ICタグを使った廃棄物の発生量を戸建別に把握できる「次世代型ゼロエミッションシステム」も全国展開。施工現場で発生した廃棄物にICタグを取り付けることで、発生量をタイムリーに把握し、無駄のない資源の利用を促進

◆積水ハウスの「資源循環センター」でリサイクル施設公開

 数ヵ月前、自宅近くで、戸建住宅が解体されている現場を通りかかった。記憶が正しければ2~3年前に建て売りされていた住宅だ。
 もう解体されていることにも驚いたが、建っているときには意識もしなかったその廃材の多さに驚いた。思わず足を止めてじっくりと眺めてしまったほどだ。

 そんな体験をした後、5月19日、積水ハウス(株)が茨城県古河市の関東工場内に同日オープンした「エコ・ファーストパーク」の見学会に参加した。

 「エコ・ファーストパーク」は、もともと同地にあった「資源循環センター」の敷地内に、同社の環境技術を広く一般に公開することを目的に設置された。2006年に東京都国立市で公開した「サステナブルデザインラボラトリー」や、08年の洞爺湖サミットで公開した「ゼロエミッションハウス」など、同社の環境技術の粋ともいえる3棟の実証実験を移築したものだ。

 主役はもちろんこの3棟なのだろうが、事前に偶然、住宅の解体現場を見ていたこともあり、記者の興味は自然と、今回、パーク内で“資源の泉”として公開される「資源循環センター」に向いた。

 同センターは、同社の資源循環への取り組みとして03年に開設、関東一円の同社が関わる建築廃材を集めてリサイクルしている。同社では、同センターを皮切りに全国13ヵ所に資源循環センターを展開し、07年には業界で初めて、生産から新築施工、アフターメンテナンス、リフォームの各4部門の現場でゼロ・エミッション(産業の副産物や廃棄物をリサイクルし、資源を循環させ、自然界への排出をゼロにすること)を達成した。

 つまりこのセンターでは、“住宅をリサイクル”しているのだ。なお、このリサイクルには、元の素材へ再利用するマテリアルリサイクルだけでなく、再加工してボイラーなどの代替燃料として利用するサーマルリサイクルなども含まれる。

◆コンクリート、木材など以外は産業廃棄物として処理

 一般的に住宅はどの程度リサイクルされているのか。
 02年5月に施行された建設リサイクル法(建設工事に係る資材の再資源化に関する法律)では、一定規模の建設工事の際に排出される廃棄物の「分別」と「リサイクル」が義務づけられている。
 対象となる建設工事の規模は、「解体工事では床面積80平方メートル以上」「新築または増築の工事では床面積500平方メートル以上」「修繕・模様替え等の工事では請負代金が1億円以上」「建築物以外の工作物の解体工事または新築工事等では請負代金が500万円以上」。個人住宅の規模では新築工事が適用になることは少ないだろうが、新築する際、あるいは空き家を処分する際などに既存住宅を解体すれば、その解体工事は適用になるケースが多いと考えられる。

 この法律でリサイクルの義務があるのは、コンクリート、アスファルト・コンクリート、木材のみで、それ以外は産業廃棄物として処理(再生、焼却、埋め立て)することとなっている。それゆえ、産業廃棄物として処理するという流れは住宅業界にも浸透していると思われるが、産業廃棄物として処理すること=リサイクルではないので、リサイクルがどの程度進んでいるかとなると正確には把握できないというのが実情だろう。

 参考までに環境省のデータによると、12年度の全国の産業廃棄物の総排出量は約3億7,900万t、うち建設業が約7,412万tと約2割を占め(国交省の建設廃棄物としての統計では7,269万t)、排出量全体の8割を占める5業種の一つとなっている。

◆まだまだ課題が多い住宅リサイクル

 こうしたことから考えると、「資源循環センター」の取り組みは先進的だが、同時に、まだまだ課題が多く、住宅リサイクルとはいかに難しいことなのかも実感する。

 センター見学時に、作業がほぼ手で行なわれていることに驚いた。直前にIT技術や先端技術を導入した同社スマートハウスの原点ともいえる環境実証実験棟を見学していただけに、その“スマートさ”と無縁のアナログさがなおさら強調される。

 手作業なのは、住宅は素材や建築・設計の自由度が幅広く、現場で出る廃棄物にはどのような素材が使われているか分からないことも多いからだという。自社施工ならまだしも、メーカーシェアが低くさまざまな中小企業や事業主が参入している状況では、当然、自社施工以外の家を解体するケースが多い。現状では機械化は現実的ではなく、手作業で仕分けする方が効率がよいとのこと。集められた建築廃材は、各現場でまず27種類に分別、その後センター内で80種類に分別する。かなり手間暇のかかる作業だ。取り組みを始めた当初は、施工現場では、「分別」という概念がなく、分別を徹底するのにも相当な時間がかかったそうだ。

※※※

 住宅はそもそもが簡単に持ち運びできるものではなく、解体・分別も複雑となるため再資源化の難易度が非常に高い。新旧の持ち主が違うことも多く、また廃棄物は新築時ばかりでなく、空き家の処分の際にも出る。当然、高額になるだろうそのリサイクルコストを誰が払うのかということも問題になる。
 実際、このセンターを見学すると、家電や自動車のようにはいかないことが体感的に分かる。
 世の中の流れから考えると、今後ますます住宅のリサイクルは求められてくるのだろうが、メーカー各社が取り組んでいるとはいえ、まだまだ道は長そうだ。中小企業や事業主、解体業者ばかりでなく一般ユーザーの意識づけも必要だろう。そういう意味で、この「資源循環センター」の取り組みを一般に公開することは、企業アピールとして以外にも、住宅リサイクルについての意識喚起を促す場としても意義のあることだと感じた。(meo)

***
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