記者の目

2016/3/2

「サービスコミュニティ」のまちづくり

まちを「守り」「育てる」

 プライバシーの確保を重視するあまり、軽視されがちだった“コミュニティ”。しかしここ最近は、「価値観」「趣味」「子育て」などをキーワードとしたコミュニティづくりに取り組む不動産会社も増えてきた。コミュニティへの関心が高まりつつある中、「サービスコミュニティ」という新たな方法でまちづくりに取り組んでいるのが、愛知県で不動産業・介護事業等を手掛ける(株)依佐美(よさみ、愛知県刈谷市、代表取締役:加藤榮一氏)。同社はどのようにコミュニティの輪を広げていこうとしているのか。また、「サービスコミュニティ」のまちづくりとは? その取り組みについてレポートしてみた。

黄色と白の外観が目をひく「ヨサミスクエア」。四季の花がきれいに咲く「ミササガパーク」も隣接しており、緑豊かな周辺環境が好評
黄色と白の外観が目をひく「ヨサミスクエア」。四季の花がきれいに咲く「ミササガパーク」も隣接しており、緑豊かな周辺環境が好評
賃貸マンション「シャトーヨサミ」1階にあるマクロビオティックの料理教室。全10テナントが軒を連ねている
賃貸マンション「シャトーヨサミ」1階にあるマクロビオティックの料理教室。全10テナントが軒を連ねている
まるでホテルのようなロビーラウンジ。近隣住民も自由に来られるカフェバーもある(ウェルネス)
まるでホテルのようなロビーラウンジ。近隣住民も自由に来られるカフェバーもある(ウェルネス)
入居者や近隣住民の作品を展示しているウェルネスの一角。見てもらえる張り合いができ、喜ばれているそう
入居者や近隣住民の作品を展示しているウェルネスの一角。見てもらえる張り合いができ、喜ばれているそう
出張販売の様子。普段はあまり買い物に出かけられないとあって、販売会はいつもにぎわいをみせる
出張販売の様子。普段はあまり買い物に出かけられないとあって、販売会はいつもにぎわいをみせる
食堂で行なわれた「寿司バイキング」の様子。職人さんがその場で握ってくれるとあって、大いに盛り上がった
食堂で行なわれた「寿司バイキング」の様子。職人さんがその場で握ってくれるとあって、大いに盛り上がった
マンション1階にあるバレエ教室に通う子供たちが、高齢者の前で踊りをお披露目することも
マンション1階にあるバレエ教室に通う子供たちが、高齢者の前で踊りをお披露目することも

◆まずは小さなコミュニティづくりから

 ただ住まいを提供するだけでなく、「人と人とのつながりを生み出すコミュニティづくり」をキーワードとしている同社。中でも、2003年12月竣工の賃貸マンション「シャトーヨサミ」(愛知県刈谷市、総戸数76戸、以下「ヨサミ」)では、共有スペースや「カフェ」「リラクゼーション」などのショップ(1階部分に10のテナント)を充実させ、入居者同士の交流を促している。

 コミュニティに対する意識がより一層強まったのは、同社が管理する物件に住んでいた老夫婦2人の言葉がきっかけだったという。
 「お2人が、『若い人たちとふれあうと元気が出る』『この場所でずっと住み続けたい』とおっしゃったのを聞いて、高齢者がいつまでもイキイキと生活できて、多世代で交流できる住宅をつくりたいと思ったんです」(同社専務取締役・加藤一憲氏)。

 こうしてできたのが、サービス付き高齢者住宅の「シャトーヨサミ ウェルネス」(愛知県刈谷市、総戸数105戸、以下「ウェルネス」)。ヨサミの入居者とのつながりを意識し、ウェルネスはヨサミの同敷地内に建設した(2つをまとめて「ヨサミスクエア」と呼んでいる)。
 「地方からの転勤族や単身者、ファミリー層が多いヨサミの入居者と、ウェルネスに住まう高齢者との交流を促し、まずはヨサミスクエア内でのコミュニティづくりから始めようと考えました」(同氏)。

 では、世代の違う入居者同士を、どのようにつなげていったのだろうか。

 加藤氏の自宅では年末になると餅つきを行なうそうで、それを数年前からはウェルネスのバーベキューコーナーでも実施するようになった。ヨサミとウェルネスの入居者にも参加してもらい、恒例のイベントとして定着させたのだ。
 そうした場では、自然と会話が生まれるもの。「いつから入居されているんですか?」といった会話から始まり、ゴルフが共通の趣味だと分かると「今度ゴルフに行きましょう!」という流れになって一気に距離が縮まり、入居者同士でゴルフコンペを開くこともあるそうだ。

 「コミュニティは本来、入居者主導でつくり上げていくのが一番うまくいくものだと考えていますが、知らない者同士でいきなり交流を図れと言われても、それは無理な話です。押し付けがましくならないよう、交流の最初のきっかけはわれわれがつくるようにしています」(同氏)。

 また、ヨサミ1階の「バレエ教室」に通う入居者の子供たちが、ウェルネスの高齢者たちの前でバレエを披露することも。高齢者たちは子供たちが踊るバレエと、踊り終えた後の子供たちや母親らとの会話を楽しみにしているという。

 「ウェルネスでは、出張販売や寿司バイキング、絵手紙教室、季節ごとのイベントなどいろいろな催し物を行なっていますが、中でもお子さんとふれ合う機会を持てるイベントは人気で、入居者様の表情がパッと明るく元気になられます。また、ウェルネスを訪れた方が入居者のための趣味の教室に興味を持ち、その後参加されることも。そうした場でも、会話が弾むようですね」(同氏)。

◆地域全体を網羅する「サービスコミュニティ」

 ヨサミスクエア内でコミュニティが着々と形成されつつある中、加藤氏にはさらに大きな目標がある。ヨサミスクエアを核とした「サービスコミュニティ」のまちづくりを展開していくことだ。

 「サービスコミュニティ」とは、イベントの開催や健康・医療サービスの提供、資産活用の相談などにより、多世代交流の活性化や地域の安心・安全を確保し、ひいては資産価値の維持・向上につなげていこうというもの。同氏はこの「サービスコミュニティ」を、地域に広げていきたいと考えているのだ。

 「例えば、ウェルネスで提供している医療サービスや生活支援サービスを地域の方々にも広めれば、1人暮らしの高齢者や単身者は安心・安全な暮らしができる。そうした利用者向けにイベントなども開催して、多世代交流を促していけばよいのでは」(同氏)という構想だ。

 実際、現在もエリア内の一戸建てに住む老夫婦から訪問介護の依頼がきたり、医療サービスを受けたいといった問い合わせがあり、潜在的なニーズは高いとみている。

 また、「300坪の広い敷地に老夫婦2人で住んでいるため、こまごまとした日常生活サポートが必要」といった相談を受けることも。高齢化が進むエリアにおいては、こうしたサービスを望む人も少なくない。
 「この辺りは田舎でありながら、土地の値段は坪60万円とやや高め。土地を持っている方には、資産活用法の提案なども行なっていきたい。ゆくゆくは、生活全般をサポートできる“地域のよろず屋”のような存在になりたいですね」(同氏)。

 今後高齢化は進む。地方となればなおさらだ。
 1人暮らしの高齢者のみならず、転勤者や単身者の中にも、近所に知り合いがいないという不安を抱えながら生活している人が少なくないだろう。何か起こったとき、生活圏の中に頼れる人がいると、何とも心強いものだ。
 同社の「サービスコミュニティ」に対する考えを聞き、地域にとっての“心の拠り所”となることも、これからの地場不動産会社の役割と言えるのではないかと感じた。

 まだ始まったばかりの「サービスコミュニティ」のまちづくり。どう成熟していくのか、同社の今後の動きに注目したい。(I)

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