記者の目

2016/7/29

「日本一のまち」にすることが最高の恩返し

宮城・東松島の復興まちづくり

 東日本大震災から5年余が経過し、各自治体による復興まちづくりも徐々に進んでいる。市街地の65%が浸水し、1,000人以上の死者を出した宮城県東松島市では、「環境未来都市構想」を掲げ、木の持つ自然回復力を生かした「木化」を柱の一つとして、包括連携協定を結んだ住宅メーカーの住友林業(株)からのアドバイスや、住民の声を計画に生かした復興まちづくりを進めている。今回、580世帯が住むことになる市内最大の集団移転団地「あおい地区」のまちづくりに焦点を当てて取材した。

あおい地区の災害公営住宅
あおい地区の災害公営住宅
平屋住戸も多いのがあおい地区の特徴。2階建て、長屋など、住民の意見を参考にさまざまな住戸を建てた
平屋住戸も多いのがあおい地区の特徴。2階建て、長屋など、住民の意見を参考にさまざまな住戸を建てた
あおい地区の全体計画図。上部の網掛け部分が災害公営住宅となる(東松島市ホームページより抜粋)
あおい地区の全体計画図。上部の網掛け部分が災害公営住宅となる(東松島市ホームページより抜粋)
「日本一のまちにすることが全国からの支援に対する恩返し」と語る小野氏
「日本一のまちにすることが全国からの支援に対する恩返し」と語る小野氏

市街地の65%が津波で浸水

 仙台市のやや北に所在する東松島市は、震災に伴う津波により、市街地の約65%が浸水。これは、津波被害を受けた全国の市町村の中でも最大の割合だ。関連死も含め、全住民の約3%に当たる1,100人以上の市民が命を落とし、家屋被害は全世帯の約73%が半壊以上。震災後、約2,000世帯が市外へ転居した。震災前に約4万3,000人だった人口は、2016年4月1日時点で約4万人に減少している。

 同市は復興まちづくりに当たり、「環境未来都市構想」を掲げ、「木化都市」と「環境配慮のまちづくり」を2本柱に据えた。環境にやさしい木材資源を有効活用するだけでなく、木の持つ精神的な“癒し”の力に注目し、災害公営住宅などに積極的に木材資源を活用。復興まちづくりに関する包括連携協定を結んだ住友林業のアドバイスを受けながら、環境配慮型のまちづくりに取り組んでいる。

 市内全体で1,110戸の整備を計画している災害公営住宅のうち、約65%を戸建て、そのうちの7割程度を木造住宅で整備している。他の自治体では、鉄筋コンクリート造の集合住宅が約半数程度・戸建ても鉄骨造が多いと言われる中では、特筆できる割合だ。

 加えて、太陽光発電や発電機、蓄電池の整備により、地域内で病院など公共施設も含めた消費エネルギーの大部分をまかなうことができるマイクログリッドのまち「東松島スマート防災エコタウン」など、先進的な取り組みも行なっている。

 16年3月末時点で、集団移転の戸建計画地717区画のうち、528区画の整備が完了。完成率は73.6%で、被災3県自治体の平均43.4%を大きく上回る進捗となっている。また、災害公営住宅については、計画1,110戸のうち、今年3月末までに644戸が完成、入居率も98%と高水準だ。

◆産官学“民”のまちづくり

 こうした数値を見ると、被災地全体の中でも同市の計画がスムーズに進んでいる印象を受ける。東松島市長の阿部秀保氏は、同市の防災まちづくり計画について「地域住民の声を積極的に取り入れ、産官学そして『民』の連携により策定した。住民との意識のズレによって、計画の見直しが必要になったことはない」と語る。これが復興をスムーズにできている要因だ。

 東松島市はもともと、市内各地域の市民センターを管理する目的で、住民による自治協議会を09年に設立し、日常的な地域の課題などについて協議会との会合や意見交換を通じて、「地域住民の声」を集め、施策に反映してきた。震災直後、市役所も被災して混乱を極める中、この協議会が被災者の救助などで活躍したという。

 災害公営住宅や集団移転団地など、新しいまちづくりに関しても、この自治協議会を窓口として住民の声を反映している。今回取材したあおい地区(東矢本駅北団地【あおい地区】防災集団移転促進事業)は、市内の災害危険区域に指定された地域からの集団移転事業によって新たにつくられるまちだ。元農地だった土地約22万平方メートルに、災害公営住宅307戸、防災集団移転用地273区画が整備され、全体で580世帯・計画人口1,800人が住む、市内最大の集団移転団地となる。

◆住民主導の協議会が移住計画策定。戸建て中心のまちづくり

 計画の策定には、同地区へ移転を希望している世帯を組織化して12年に設立した「東矢本駅北地区(現:あおい地区)まちづくり整備協議会」と市が協議を進めてきた。協議会は、38人の役員で構成。具体的なまちづくりの内容については、協議会内部で「区画計画」「公共施設」など、少人数の専門部会で検討。各部会での検討内容を役員に諮り、ワークショップ等で意見を募り、最終的に総会で決定する体制を組んだ。年間90~120回もの会合があったという。

 同協議会の会長を務める小野竹一氏は「あおい地区に住む人の7割はもともと市内の大曲浜(おおまがりはま)地区に住んでいた人たち。ほかの地区から移転してくる方も、必ず協議会に参加してもらいました。大曲浜地区の住民だけではない方の話を聞くことで、新しいまちをつくるための参考にできました」と語る。

 協議会では、建設する住宅について、戸建てを中心にするように要望。災害公営住宅307戸の内訳は、戸建て160戸・共同住宅77戸・2戸1棟の長屋70戸となった。「災害公営住宅は鉄筋コンクリートの集合住宅が多くなるそうですが、東松島市は高齢者が多い地域なので、平屋建てを市に要望しました。それを受け入れてもらえ、ほかの自治体とは少し違う災害公営住宅のまちができています」(小野氏)と語る。

 一般的に、災害公営住宅は共同住宅と戸建住宅がほぼ半々の割合となる場合が多いが、東松島市では、他の地区でもあおい地区同様に戸建ての要望が強いことから、戸建て・長屋を中心とした構成にしている。市全体の計画では戸建て約65%

◆平屋、2階建て、長屋をバランスよく配置

 配棟計画も、高齢者が単身で住む1Kの平屋が集中しないように平屋・2階建て・長屋をそれぞれバランスよく配置。「1Kの平屋の周囲には必ず3LDKのファミリー向け住戸を配置します。そうすることで、住民間による自然な高齢者の見守りができるように配慮しています」(同氏)。

 ゆとりあるまち並みづくりのため、建築ルールに関しても細かく設定。隣地境界線と建物の間隔を、建築基準法の規定よりも広い1.5mに設定したほか、外構の柵の高さ1.2m以下、道路から1mのスペースはセミパブリックスペースとして、植栽・緑化に努めることなどをルール化。外構を「壁」ではなく「柵」としたのは、住民がお互いに顔を合わせながら生活できるようにしたかったためだ。これらのルールの実効性を確保するため、市と連携して条例化も実現した。

 公共施設のあり方についても、大規模団地にありがちな、“似たような機能を持つ似たような公共施設”を複数つくるのではなく、それぞれの用途を想定し、使い分けができるような施設を整備した。「地域内の4つの公園には、それぞれ役割を持たせました。子供を安心して遊ばせられる公園、冬にイルミネーションを施して住民の憩いの場にする公園など、それぞれ用途に応じて住民が使えるようにしています」(同氏)。

◆コミュニティづくりのため、ペット飼育も可能に

 ハードだけではなく、人同士のコミュニティづくりに向け、交流会や暮らしやすいまちづくりに向けてのさまざまな住民勉強会なども実施。千葉ニュータウンのまちづくりを実践した千葉県印西市の前市長や、まち並みづくりに知見を持つ(一財)住宅生産振興財団を講師として招いた。災害公営住宅では原則認められないペット飼育についても、コミュニティ形成への積極的な協力や、子供の登下校時の見守りなどに協力してもらうことを前提に、一代限りではあるが飼えるようにした。

 現在は、ほとんどの住宅が入居を終え、今後のまちの運営は各自治会に委ねられる。そこで、16年4月には、あおい1~3丁目それぞれの自治会の連合会として、「あおい地区会」を設立。高齢者や子供への日常的な見守りや、子供会など地域住民の親睦を深めるための組織運営など、地区全体で取り組んでいく。

◆「亡くなった方がお盆に戻ってこられる“ふるさと”を」

 小野氏は、「震災後に、われわれは全国から多くの支援をいただきました。新しいまちづくりを進め、いつか“日本一のまち”と呼ばれるようにすることが、全国の皆さんへの最大の恩返しです。また、私たちのもともと住んでいた地域は、災害避難区域に指定され、戻ることができなくなりました。津波で亡くなった方が、お盆に戻ってこられる“ふるさと”をつくらなければなりません。そのために、住民と市が力を合わせていきたい」と話す。

◆◆◆

 全国の分譲地などにおいて、こうした住民(自治会)主導によるまちづくりが行なわれているが、ネックになるのは、高齢化等による活動の担い手不足。コミュニティが活発で“居心地の良い”まちほど、定住率が高くなり、その傾向は強くなる。

 あおい地区では、30歳代の役員の採用や、こども会の活動を通じて、若い世代がまちづくりに参画、永続的に多世代が共助し続けるサスティナブルなまちづくりを目指している。災害復興のまちに限らず、こうした取り組みは地域活性化・地域コミュニティの維持の参考になるのではないだろうか。(晋)

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宮城・東松島の復興まちづくり、“木化”で支援/住友林業(2016/7/4)

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