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相続で進む、地方から東京圏への資産移動

 三井住友信託銀行(株)は15日、相続で発生する家計資産の地域間移動についての分析を発表した。

 年間の死亡者数は、現在は約144万人。ピークと予想される2040年には約168万人にまで増加すると予測。その9割以上を高齢者が占め、高齢者が死亡すれば、相続という形で、家計資産の移動が発生する。そこで、統計などをもとに試算をした結果、今後約30年の間に相続される金融資産総額は650兆円弱と試算。その2割に該当する125兆円が、相続により地域をまたいで移動すると推測した。

 その理由として、高度経済成長期の人口移動が関係しているとする。1960年代から70年代前半にかけて地方から三大都市圏への大規模な人口移動が発生し、集団就職者を中心に15年間で計1,700万人以上が転入した。1都3県の「東京圏」に至っては、980万人という大量の転入者が発生し、さらに90年頃まで毎年50万人ほどの地方からの人口流入が継続した。これにより、「地方に住む親」と「三大都市圏に住む子」という組み合わせによる家計資産移動が多く発生しているという。60年代後半転入組の2割、70年代前半転入組の4割、70年代後半から80年代後半転入組の7割を今後「地方に住む親の遺産を大都市圏で相続する人」の母集団と考えると、1,200万人弱となり、かなりのボリュームゾーンとなることが分かる。

 相続発生時の家計資産の行き先を分析し、「県外流出率」と「地域外流出率」を軸に、各県の相続発生時の資産流出先を整理すると、「県外流出率が高く、多くは地域外に出ていく県」(青森県、新潟県、福井県、和歌山県など)、「県外流出率は高いが、同一地域内の他県への移動に留まり、三大都市圏など地域外への留出は比較的少ない県」(岩手県、秋田県、岐阜県、佐賀県など)、「県外流出率、地域外流出率とも相対的に低い」(大阪府、北海道、宮城県、愛知県など)、「地域外流出率が極めて低い」(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)といったパターンに分類できる。

 移動金額が把握しやすい「家計金融資産」について、どの地域からどの地域へ、どれくらいの金額が移動するのかを試算したところ、相続の発生に伴い、他地域から東京圏へ約58兆円もの資産が流入するとの試算結果となった。19.7兆円の流出を差し引いても38.1兆円の流入超過となる。一方で、東北、中部・北陸、中国、四国、九州・沖縄の5地域では、相続発生前からの資産の変化が1割以上の減少で、中でも四国は2割に迫る大幅減少となる見込みだという。

 こうした相続に伴う資産の地域間移動について、調査部主任調査役の青木美香氏は、「相続に伴う東京圏への家計資産集中が、今後さらに進むと考えられる」と指摘。さらに、相続で地方から大都市圏に移動した資産が、その後リタイヤ後の地方移住などにより、相続によらない形で他地域に際移動するパターンが出始めている点も指摘した。また、子世代に遺産を残す意向を持たない人が増加している状況にも触れ、「子や孫に引き継がれるはずの資産が、地元の社会貢献活動などに利用される、海外に流出するなどのなどのパターンが出てくるのではないか」とも述べた。


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