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「観光」以外でも集客するホテル

ステイケーション、ビジネスなど、多様なニーズ取り込みへ

 コロナ禍で集客に苦戦しているホテル事業。観光だけでなく、コロナ禍でもワークスペースなどの新たな需要を取り込むことが重要になっている。今回は、開業時からワーケーションや二地域居住(長期滞在)、ステイケーションなどを見越したプランやサービス等を設定することで、人気を集めている事例を紹介する。

◆観光客のみから発想を転換

 5月に開業した「YANAKA SOW(ヤナカ ソウ)」(東京都台東区、客室数13室、事業主:積水ハウス不動産東京(株)、敷地面積403平方メートル、延床面積608平方メートル、重量鉄骨造地上3階建て)は、JR京浜東北線「日暮里」駅より徒歩8分、観光地としても注目が高まっている「谷根千エリア」に立地する。

 当初、同社は観光客の集客のみを想定し事業を進めていた。しかし、予想外のコロナウイルスの蔓延により、観光以外にも視野を広げ、コロナ禍で新たに生まれたワーケションやステイケーション、二地域居住などの利用にも対応する客室や共用部、サービス等を用意することにした。

当初はインバウンド客をターゲットに事業展開する予定だった「YANAKA SOW」外観

◆長期滞在等に対応した家具・家電

 客室は、37平方メートル(定員4人と6人の2タイプ)と47平方メートル(定員6人、コンセプトルーム(1室)のみ定員4人)があるが、長期滞在にも対応できるよう、大型冷蔵庫や、調理器具、食器等を備えたキッチンを各部屋に設置。ワーケーション利用者向けに、デスクやローテーブルも用意した。畳を採用するなど和モダンで居心地の良い空間づくりを行なっている。部屋ごとに異なる谷根千エリアをテーマとしたアート作品や本を配置し、ステイケーションユーザーが非日常を楽しめる仕掛けも施した。

47平方メートルのコンセプトルーム
ワーケーション利用を想定したテーブルとイスを設置

 もともとロビー・ラウンジとする予定だった共用部には、長期滞在者が快適に過ごせるように、無料で利用できるコインランドリースペースを確保。洗濯を待っている間、楽しく過ごせるように、あえてレトロ感あるカセットテープとラジカセを用意している。

共用部には長期滞在者向けのランドリースペースを設置
洗濯時間を楽しめるように、懐かしのラジカセとカセットテープを用意

 共用ラウンジでは、まちを案内する専門スタッフが、チェックイン開始から3時間常駐。希望者に対してスタッフ自らまちを散策して得た情報を、谷根千エリアマップを用いて説明する。観光客がまちを楽しむきっかけづくりとしてはもちろん、ステイケーションユーザーが、まちの魅力を新たに発見できる場にもしたい考えだ。

共用ラウンジでは、専門スタッフによるマップを用いたまち案内を行なう

 また、地元店によるオリジナルブレンドのコーヒー・紅茶をセルフ形式で提供するほか、まちの観光情報や地図などを掲載したオリジナル冊子、ポストなどを設置。チェックインの際に利用客に渡すオリジナルポストカードに、「まちのおすすめスポット」「まちに対する感想」などを書いてもらい投函する仕組み。カードの内容を参考にまち案内情報をさらに充実させていく予定だ。

共用ラウンジのキッチンには地元店によるオリジナルブレンドのコーヒー・紅茶を設置
「おすすめスポット」などを記載したハガキを投函できるポスト

◆マンスリー・年間契約にも対応

 宿泊料金は37平方メートルタイプで1泊1室1万6,000円、47平方メートルタイプで2万円(税別、別途清掃料)。そのほか、特別にマンスリーや年間契約プランも用意している。6月時点の集客状況は、緊急事態宣言下ということもあり、都内在住者によるステイケーションユースがほとんどだったという。客室内での飲食のニーズも高く、「キッチンが付いていたのでこの部屋を選んだ」という顧客もいたとか。通常の観光客が見込めない中でも、一定の集客ができている状況だ。7月に入ってから週末はほぼ満室稼働状態だという。

ステイケーション利用客に好評だった客室のキッチン
大型冷蔵庫も設置している

◆◆◆

 同ホテルではあらかじめ観光での利用以外も見据え、幅広い用途に対応できる仕様、プラン、サービスを提供することで、コロナ禍でも一定の集客を実現した。ステイケーションやワーケーションなどのニーズはコロナ禍だけの事象ではなく、今後も一定需要はあるだろう。アフターコロナにおいても、独自性を出しながら多様化するニーズを受け止めるホテル提案が求められそうだ。(umi)

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