地域密着で仕事をし、時には利益度外視で、まちのため、地域のために汗を流すこともある「まちの不動産屋さん」。当コーナーでは以前、そんな取り組み事例として、ある不動産会社が地域へ溶け込み、地元の商店街を盛り上げようと2021年にオープンした「不動産の相談もできるカフェ」を紹介した。今回記者は約5年ぶりにそのカフェを再訪し、いささか僭越ではあるが「5年間の通信簿」を付けてみた。
5年前とは様変わり、主婦やシニアでにぎわう店内
夏のある日の午後、地下鉄の駅を降りて、旧中山道由来の「板橋宿不動通り商店街」(東京都板橋区)を歩く。隣り合う「中宿商店街」ほどではないが、平日の昼間でも、人や自転車の往来は結構ある。数分歩くと、見覚えのある店構えが見えてくる。5年ぶりの再訪だが、店頭の様子はほとんど変わりがない(実は若干変わっていたのだが、それはあとで紹介する)。だが、特徴ある木製の折れ戸を開けると、コロナ禍中の5年前とはまるで違う光景が目に飛び込んできた。
数組も入ればいっぱいの店内は、地元のシニアや主婦とおぼしき人たちで満席、あちこちから、賑やかな声が聞こえてくる。「すみません、いま満席でして…」カウンターから出てきたスタッフの方に謝られてしまったのだが、取材であること、店主と待ち合わせていることを説明している間に、その「店主」である価値住宅(株)(東京都渋谷区)の高橋正典社長が登場。無事に取材がスタートした。
詳細は、前回の記事を読んでいただきたいが、「不動産の相談もできるカフェ」の開業経緯を簡単に紹介しておくことにする。
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もともとこのカフェは2018年、不動通り商店街の空き店舗増加や賑わいの喪失に危機感を覚えた高橋社長らが立ち上げたまちづくり会社が、空き家だった牛乳店を借り上げ、シェアオフィス兼カフェとしてオープンしたもの。21年からは、板橋が「創業の地」である価値住宅が、営業を引き受けている。調理師免許を持つ同社の従業員が、スタッフとして勤務。ドリンクや軽食を提供している。
不動産会社が経営しているが、「不動産営業」は一切しない。スタッフとの雑談で、何か不動産に関する相談等を受けた時だけ、同社の板橋支店スタッフが来店して説明などを行なう。あくまでも、まちに人を呼び込むための飲食店、まちに根差して営業してきた同社からまちへの利益還元が主目的であり、営業経費には板橋支店の仲介手数料の一部を充て、地元住民にコーヒーが無料で飲めるボトルを配布したり、ハロウィンなど地域のイベントに積極的に参加したりと、利益度外視で5年間運営してきた。
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メニュー充実、クチコミ効果で来店者は3倍増
「商店街は相変わらず空き店舗は多いですし、飲食店も少ないのでただ通り抜けていく人が多いですが、それでも、まち(商店街)を歩く人は、多少は増えたような気がしますね」と話す高橋氏。営業開始がコロナ禍の真っただ中で比較はできないが、当初1日10組前後だった来店者が、今では平日でも30組ほどにまで増えたという。営業時間も1時間延ばし(週4日、10~17時)、家族連れからシニアまで世代を問わず来店がある。「板橋支店のスタッフがたまには商談で使おうと来店しても、席が埋まっていることも増えましたね」(高橋氏)。今では晴れた日には、店頭にも椅子を並べている。
ドリンクは10種類以上、食べ物もケーキ3種類に焼き菓子など、スタッフの努力もありメニューのバリエーションは大幅に増えた。もとより「カフェで利益を出すつもりはない」がコンセプトだが、まちに賑わいをもたらすため、「不動産会社のやっているカフェ」として注目を浴びることには力を入れており「Googleの口コミなどを通じた認知度向上を図っている」(同氏)とのことだった。口コミのおかげで、周辺住民だけでなく遠方からも、オリジナルのケーキや焼き菓子目当ての来店があるとのこと。
記者も、これほどまでに店が賑わっているとは、思いもしなかった。商店街を歩く人も、記者の感覚値ではあるが増えているようだ。まちでの認知度については、10点中9点あげたい!。
スタッフの「営業なし」でも本業につながる
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次は、本業とのシナジーだ。もともと開業当初から店頭での不動産営業は一切していなかったが、それでも「地上店にも関わらず飛び込み客が皆無」だった板橋支店の売買取引につながっていた。5年経った今はどうか?
「スタッフがセールストークをすることは今でもありませんが、お客様とお店の由来などを雑談しているうちに、不動産に関する相談を頂くことが、月に1回はありますね。そこから、売買につながるのが年に1件程度。とくに、リフォームに関しては、3~6ヵ月に一度は受注につながっています」(同氏)と、なかなかの成果である。
リフォーム受注が増えたのには、理由がある。オープン翌年の22年、カフェに併設していたシェアオフィスが運営を終了し、そのスペースが同社のリフォーム・リノベーション部門である「さがつく」のオフィスとなったためだ。これに伴い、カフェの名称も「さがつくCraft&Cafe」に変更。無論、従来通り営業活動はしていないが、店頭に施工事例をディスプレイするなど、店の内外でそれとなくはアピールしている(笑)。その成果もあるのだろう。また、元冷蔵庫部分は、レンタルスペースとしても貸し出している。
地域貢献を永続するには、適正な利益も必要!。というわけで、10点中7点を差し上げたい。
「まちが元気になったよ」商店街からも喜びの声
地域への貢献と地域への浸透、SDGsへの取り組み等はどうか?
5年前のカフェオープンから、地域住民やイベント来場者を対象に、オリジナルのボトルを配布。ボトル持参者には、無料でコーヒーを提供してきた。ボトルは2,000本の配布を完了。来店のきっかけとなっているという。
商店街や町内会のイベントには、積極的に参加している。代表的なものは、秋のハロウィンパーティ。開業1年、3年、5年時には、それぞれ周年記念イベントも開いてきた。イベントを通じてカフェの認知度が高まり、「まちの賑わいに多少は貢献できている」という手ごたえを、高橋社長は感じているという。「最近は商店街の方々からも『おかげで街も元気になったよ』と言っていただけるようになりました」(同氏)。
また、カフェで提供するコーヒーの豆については、地元板橋区にある「小茂根福祉園」の障がい者の方々が自家焙煎したオリジナルブレンドを使うことにした。25年11月には、商店街の青果店とコラボし、「焼き芋シフォンケーキ」の販売も行なった。「将来的には、障がい者の方をスタッフとして雇用することも検討していきたい」(同氏)。
5年間の努力の成果は、商店街の関係者にもしっかりと伝わっているようだ。文句なしの10点満点だ。
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「いずれは、このカフェの上に、支店を移したいんですよ」と高橋社長。飛び込み客が見込めないのであれば地上店である必要もないし、カフェを通じて築いたブランドイメージと商店街との縁を生かし、今度は「カフェのような不動産店」を目指すようだ。
無論、これまで同様、カフェの独立性は保っていく方針。もっとも、「商店街を盛り上げたい」という同社のこれまで5年間の努力を見ていれば、文句を言う人はいないだろう。カフェの将来にも10点差し上げたい(J)。