「防犯」ウリにした総合地所、「成田ニュータウン」
「新価格市場」の本格スタートで、首都圏の新築マンション市場は大きなターニングポイントに差し掛かっている。土地仕入れ価格、建築費の高騰で販売価格は上げざるを得ないが、むやみな価格上昇はユーザーの理解を得られるわけではない。難しい市場で人気を得るには、それなりの差別化戦略が必要になる。とくに、マーケットの大きくない郊外ではなおさらだ。そうした中、「防犯」を差別化戦略の柱にしたのが、総合地所の「ルネ・マーク・プレミア成田ニュータウン」(千葉県成田市)。その実力を探ってみた。
日本初の「防犯優良マンション」登録物件に
同物件は、JR総武本線「成田」駅からバス5分「ニュータウン中央」バス停徒歩6分に立地する、地上10階地下1階建て、総戸数201戸のマンション。設計・施工は(株)長谷工コーポレーション、販売は長谷工OBが立ち上げた販売会社(株)ジーアンドユーが行なう。
「成田ニュータウン」は、成田国際空港から約8km西に位置する、広さ487ha、現在の人口約3万3,000人のまち。空港関連就業者のためのニュータウンとして、千葉県企業庁などにより1968年から整備が進められており、まちとしてはすでに成熟期に入っている。大阪「千里ニュータウン」や東京「多摩ニュータウン」同様に、ロンドン郊外のニュータウンを範にした近代的まちづくりがなされており、網の目状に張り巡らされた歩行者専用道路と車道とが立体交差する「歩車分離」で、居住者にやさしいまちになっている。今回のマンション建設地は日本航空の社宅跡で、業務系施設が集中するニュータウンの中心部にあたる絶好のロケーションだ。
総武線快速を使っても東京まで1時間以上かかるうえ、その快速も日中は1時間に1本しかない(隣接する京成線「成田」駅からの特急を合わせても、都心方面への速達電車は1時間に4本程度)ので、都心や近隣他県からユーザーを引っ張るのは難しいが、ニュータウンのよさを知る地元ユーザーには人気になりそうな立地である。
今回、同マンション最大のウリとなる「防犯優良マンション登録制度」は、2005年6月に国、警察庁、地方自治体などが参加して行なわれた「犯罪対策閣僚会議」でその骨子がまとめられたもの。これまで、各都道府県が独自の認定を行なっていた「防犯マンション」について、その基準を全国で一元化するのが狙いで、千葉県防犯協会が全国に先駆けて新設した。
照明計画、防犯カメラの設置数など、防犯関連の設備に関して60項目以上の審査基準を設置。これらのうち、一定基準をクリアしたマンションのみを「防犯優良マンション」として認定する。審査は、設計段階と竣工段階の2回に分け行なわれ、同物件は4月9日、設計段階審査を通過。全国初となる適合証の交付を受けた。さらに、竣工後の審査を通過することで、全国初の「防犯優良認定マンション」となる見込み。
「外堀」は照明計画と赤外線カメラ
さて、その「防犯」仕様だが、主として「泥棒が入りづらい環境づくり」と「入ることが困難なハード」とに分けて展開している。
前者はセキュリティのいわば「外堀」と言えるもので、敷地全体の照明計画が核となっている。敷地内全てで、監視カメラの機能する照度を確保しており、たとえば自走式・平置き駐車場のある建物の裏側では、24時間いかなるときでも、床面の水平照度を「5ルクス以上」としている。これはどのくらいの明るさかといえば、一般家庭の「(照明の付いた)玄関前」とほぼ同じである。全ての出入り口では、監視カメラにより「人物の特徴がわかる明るさ」に、エレベータ内では「バストショットで人物の目鼻まで確認できる」明るさ=床面で50ルクス以上を確保している。こうした配慮により、敷地内から「暗闇」による死角を徹底的に排除した。敷地全体が常に「明るい」ということは、それだけで泥棒が敬遠する材料となる。
監視カメラの数と性能もすごい。敷地内に張り巡らされた監視カメラの数、実に40ヵ所。カメラは全て録画機能が付いているほか、照度が落ちたときは自動的に「赤外線カメラ」に切り替わる機能や、被写体に応じて広角撮影が可能な機能も持たせている。撮影可能距離は、50mというから驚きである。
ICカードロックとマンション版「集中ドアロック」
「内堀」となる後者の目玉は2つ。日本初導入となる「ICカードロック」と「防犯センサー付き集中ロックシステム」だ。
セキュリティ先進国・スイス製のICカードロックは、ICカードを非接触型センサーにかざすことで開錠する仕組み。「鍵穴」が存在しないため、ピッキングやいま問題となっているダンビング(特殊なカギを鍵穴に差し込み、叩く事によってカギのバネを浮き上がらせて開錠する)にも対抗できる。一枚のICカードで、エントランスオートロックと住戸玄関のダブルロックとなるのは、通常のマンションと同じだ。
暗証コードの組み合わせは100億通りと、ディンプルキーの50倍。万が一紛失した場合は、ロック本体にかざすことで新しいコードに切り替わる。電池式なので導入コストも安い。1戸につき5枚のカードが提供される。
一方、防犯センサー付き集中ロックシステムは、住戸の全サッシュに取り付けた防犯センサー付きロックシステムを、リビングに設置したオートロック操作盤で、一斉に開錠・施錠できるというもの。自動車の集中ドアロックのマンション版と考えるとわかりやすい。施錠の際、空いているサッシュがあれば教えてくれるほか、必要に応じて中から開錠できる「在宅モード」もある。もちろん、無理矢理こじ開ければ、大音量の警報が鳴る。
このほか、駐車場にはチェーンゲートを設置。開放廊下側のサッシュには、特殊シートを2枚挟み込んだ防犯ガラスを採用している。近年のマンションは、オートロックの数を増やす事でセキュリティを強化する傾向が強いが、三重・四重とオートロックを増やすうち、まるで「要塞」にようになってしまうケースが多い。それらと比べると、このマンションのように、ピンポイントでセキュリティの精度を上げるという手法は、マンション内のコミュニティを阻害する要因とはなりえず、コストも低く抑えることができる。
泥棒は、侵入に5分以上かかる家は諦めるというデータがあるそうだが、ここまでやられるともうお手上げであろう。
平均専有面積90平方メートル超、戸建てに対抗できる広さ確保
住戸は3LDKと4LDK、専有面積80~113平方メートル。専有面積が100平方メートルを超える住戸は、3割弱にあたる56戸あるため、平均専有面積は92平方メートル。1期20戸については100平方メートルを超える。戸建て居住者が多い成田市の平均居住面積87平方メートルを上回る広さを確保し、戸建てと広さで対抗できるスペックを備えている。
「広さ」の中身も濃い。スパンが7m以下となる住戸は、わずか24戸(6.5m)。ほとんどの住戸が、8m以上のワイドスパンだ。廊下幅は、芯芯で1mを確保。オプション対応で、リビング親子ドアも設置できる幅1.3メートルとすることもできる。6畳を下回る居室はほとんどなく、リビングは最低でも12畳を確保。平均収納率も11%超とした。
近年、コストダウンのあおりで採用率が減っているディスポーザーや浄水器、保温浴槽、清音シンクなどもしっかり採用。驚いたのはキッチンで、静かに閉まる「サイレントレール・ダンパー」が、引き出し収納だけでなく開き戸にもついていた。キッチン自体は日本製だが、サイレントレールはオーストリア製。ちょっとした高級感が味わえる。駐車場100%設置は当たり前だが、車を持たない世帯を対象にしたカーシェアリングシステムも採用している(ここまで郊外にくると、車がないとちょっと厳しい)。
躯体は、長谷工施工のごく標準的な内容だったが、防犯性能を高める必要から、全てのサッシュを複層ガラスとしている。建物は、オフホワイトとブラウンにより建物を不等間隔で分節、ボリューム感を抑えシャープなフォルムとする「レイヤー」と呼ばれる手法を導入。車寄せのケヤキをはじめ、豊かな植栽は、シンプルな外観とのコントラストをなしている。
1期の販売価格は、2,800万円台から4,400万円台を予定。平均坪単価は118万円。近くで競合するマンション(完成在庫)があるが、その販売価格は坪120万円。専有面積が広い分グロス価格が張るため、競合物件よりも単価を引き下げ、勝負に出た。
3月のプレオープンから、180組が来場。地元成田居住、空港関連勤務のファミリー層をメインに集客しているという。成田市は決して「犯罪多発地帯」というわけではないが、「防犯」と「広さ」がユーザーにどれほど訴求するか楽しみだ。(J)