記者の目 / 開発・分譲

2007/7/17

「風」を自在に操るマンション

リブラン、「エコミックスデザイン」の集大成「鶴瀬」を発表

 自然の力を巧みに取り入れた快適な生活をめざす、「エコミックスデザイン」によるマンション作りで実績のある(株)リブラン(東京都板橋区、代表取締役社長:鈴木雄二氏)。その23番目の物件にして、集大成となるマンション「エコヴィレッジ鶴瀬」(埼玉県入間郡)が、近く分譲される。今回、同物件がテーマにしたのは「風」。これまでのマンションでは考えられなかった、縦横無尽に風が行き交う住空間を創造することで、ほぼ一年中エアコンなしの快適な暮らしを実現できるという。その驚きの工夫の数々を紹介したい。

「エコヴィレッジ鶴瀬」完成予想図。「緑のカーテン」による壁面緑化、屋上緑化などが施される。最大の熱源である駐車場を建物から最大18メートル離し、その間を中庭として常緑樹を植え、建物への冷気だまりとしている
「エコヴィレッジ鶴瀬」完成予想図。「緑のカーテン」による壁面緑化、屋上緑化などが施される。最大の熱源である駐車場を建物から最大18メートル離し、その間を中庭として常緑樹を植え、建物への冷気だまりとしている
「田の字プラン」の間取りでは、風の通り抜け経路が少ない。LDと廊下を仕切る扉部分に経路が集中するため、この扉を閉め切ると風が抜けない。また、バルコニー側窓を開けたまま玄関や開放廊下側の窓を開けると、扉が勢いよく閉まり危険だ
「田の字プラン」の間取りでは、風の通り抜け経路が少ない。LDと廊下を仕切る扉部分に経路が集中するため、この扉を閉め切ると風が抜けない。また、バルコニー側窓を開けたまま玄関や開放廊下側の窓を開けると、扉が勢いよく閉まり危険だ
「エコヴィレッジ鶴瀬」の代表的な間取り。南北に抜ける「風の通り道」が幾本も作られて、住戸内を自在に風が通り抜ける
「エコヴィレッジ鶴瀬」の代表的な間取り。南北に抜ける「風の通り道」が幾本も作られて、住戸内を自在に風が通り抜ける
モデルルームのリビング。居室扉は全て引き戸としており、わずかに開けておけば、風が流れる。無垢フローリングや竹炭クロスをはじめ、天然素材をふんだんに使用している
モデルルームのリビング。居室扉は全て引き戸としており、わずかに開けておけば、風が流れる。無垢フローリングや竹炭クロスをはじめ、天然素材をふんだんに使用している
居室同士をクローゼットでつなぎ、風の経路とした「ウインドスルークローゼット」。収納する衣服や寝具にもやさしい
居室同士をクローゼットでつなぎ、風の経路とした「ウインドスルークローゼット」。収納する衣服や寝具にもやさしい
玄関からキッチンを経由して、バルコニーへと通じる「風の経路」。風の経路はまた、住む人にとっても優れた動線となる
玄関からキッチンを経由して、バルコニーへと通じる「風の経路」。風の経路はまた、住む人にとっても優れた動線となる
玄関を閉めたまま風を抜くための小窓を設置
玄関を閉めたまま風を抜くための小窓を設置
玄関たたきは「洗い出し」。水をまいておくとひんやりする(する人は少ないと思うが…)
玄関たたきは「洗い出し」。水をまいておくとひんやりする(する人は少ないと思うが…)
「エコミックスデザイン」のコンセプトをユーザーに十分理解してもらうため、モデルルームに設けられている展示。同シリーズに「決め打ち」してくるユーザーは、非常に多い
「エコミックスデザイン」のコンセプトをユーザーに十分理解してもらうため、モデルルームに設けられている展示。同シリーズに「決め打ち」してくるユーザーは、非常に多い

風が通わない「田の字プラン」への挑戦状

 同物件は、東武東上線「鶴瀬」駅徒歩12分に立地する、地上15階建て・総戸数219戸のマンション。同社が手がけるものとしては、かなり大型の物件である。

 同社マンションのアイディンティティである「エコミックスデザイン」は、「陽の光」「自然の緑」などをうまく生活に取り入れることで、人工的に作り上げられた「快適さ」に頼らない「自然の心地よさ」を実現しようというもの。たとえば「サンシェード」や「緑のカーテン(蔓を伸ばす植物による自然のカーテン)」を使った太陽光と輻射熱のコントロール、建物周囲の緑化や建物への「緑のカーテン」施工、風取り窓や浴室への窓設置といった通風性の向上などである。
 これらの工夫が施された「エコヴィレッジ」では、真夏でもほとんどエアコンの要らない生活が実現できるという。

 今回の「鶴瀬」では、従来の「エコミックスデザイン」はもちろん、これまでにない工夫を盛り込んだ。そのテーマは「風」。これまでにない「風の通り道」をふんだんに設けたマンションをつくる、という意味である。同社は、そのコンセプトについて、「日本のマンションへの挑戦状」とまで言い切っている。

 高温多湿の日本では、古来、人々は「風」をうまく生活に取り入れた暮らしをしていた。古い日本家屋が夏でも「ひんやり」するのは、そうした工夫の表れだ。しかし、半世紀にわたる歴史を持ち、日本人の生活に定着してきたはずのマンションは、「風通し」についてほとんど省みてこなかったからだ。

 日本のマンション住戸の半数以上は、「田の字プラン」と呼ばれる間取りである。北側玄関からまっすぐ伸びる廊下に分断され、手前左右に一室ずつ、奥にLDと和室というパターンが一般的。間取り図を上から見ると、まるで「田の字」に見えるこの間取りは、風の通り道が極端に少ない。なぜなら、南北を直線に結ぶ風の通り道は、玄関(共用廊下)~廊下~南面バルコニーのただ一本であり、南北へ抜ける風を、LDと廊下を仕切る扉が寸断しているのだ。
 その証拠となる現象を、われわれは良く経験している。南を向いたリビング窓を開け放っているとき、玄関や北側の窓を開けると、LD入口のドアが「物凄い勢い」で閉まることがある。これは、田の字プランにおける風の通り道が、LDドア一点に集中している、つまり、風の通り道がほとんどない、という証左でもある現象なのだ。

「見えない風」を視覚化する「BL」「VL」値

 「風を抜く」ためには、「風の入口」と「出口」を直線で結ぶ必要がある。その組み合わせが多ければ多いほど、住戸内に風が行き渡る。よって、まずバルコニー側と共用廊下側それぞれの窓の数を増やす。さらに、各居室間に風を抜くための通り道をつくる。「鶴瀬」では、こうした工夫により一直線に風が抜ける通り道を何通りも作った。

 しかし、「風の通り道」は、「目に見えない」ことから、それがどれだけ良いものであっても、ユーザーへの訴求力に欠ける。そこで、同社は、「通風性能を評価」するため、2つの数値「BL(Breeze Line)」「VL(Ventilation Level)」を設定。全間取りで、通風シミュレーションを実施した。

 「BL」は、「共用廊下側窓の数」×「住戸内部開口部の数」×「バルコニー側窓の数」で計算される「通風経路」に、それぞれの窓や開口部の評価を加味したもの。この数値が大きければ大きいほど、通風経路が多いということになる。
 一方の「VL」は、通風シミュレーションプログラムを利用して、住まいの総面積に対して通風領域がどれくらいの割合にあたるかを図面上に示したもの。通風量が多ければ多いほど、図面上では濃い色で示される。

 一般的な「田の字プラン」の住戸では、BL値はわずか「5」である。ところが、「鶴瀬」の標準的な間取りでは「21~40」、3面採光の住戸なら「60」以上となる。「VL」でみても、「田の字プラン」では、LD扉を中心とした「X字」ラインにしか風が通わないことがわかるが、「鶴瀬」ではほぼ全居室にまんべんなく風が行き交う様子が視認できる。

全居室引き戸を採用 風が抜ける押入れも開発

 では、「風の通り道」をつくるための、具体的な工夫を見て行きたい。
 まず、前提条件としての「ワイドスパン」がある。「鶴瀬」の住戸最低面積は66平方メートルだが、その住戸でさえ、7,200mmのスパンを確保している。標準的な70平方メートル台ともなれば、8,000~8,500mmである。ワイドスパンであれば、それだけ窓の数を増やせ、(通風上も)無駄な廊下面積が減らせる。さらに、1フロア4戸とすることで、両面バルコニー付き住戸を全住戸の半数以上に設定している。

 次に、南北間にどれだけ風の抜ける直線経路を作るか。「鶴瀬」では、どの間取りでも、その経路が3本用意されている。「田の字プラン」ではほとんど風の通わないキッチンも、玄関と南面洋室をつなぐ風の経路となっている。

 また、北面居室と南面居室とを「ウインドスルークローゼット」でつなぎ、風の通り道としている。さらに面白い工夫が、収納に用意されている。「鶴瀬」の和室天袋は、風通しを良くするために、襖扉から「ガラリ戸」へ替えることができる。その反対側にある洋室収納上部を、吊り上げて開く「蔀度(しとみど)」にすることで、2つの部屋をつなぐ「風の通り道」を作っているのだ。収納に風が通るということは、衣類にとっても重要なことである。

 全居室が「引き戸」になっているのも、住戸に風を通わせるための工夫の1つである。通常の開き戸では、締め切ってしまえば風が通らない。だが、引き戸であれば、わずかな隙間を開けておくだけで風が通る。しかもこの引き戸、衝撃吸収装置(オートクロージャー)付きなので、子供でも安心して開閉できる。また、開放廊下側の窓には、ルーバー面格子が付き、防犯性を確保しながら窓を開けておけるほか、浴室やトイレ、キッチンにも可能な限り換気用窓が付く。

「風」との相乗効果高める「エコミックスデザイン」

 同社の専売特許である「エコミックスデザイン」も、「風の通り道」との相乗効果をなしている。無垢フローリング、竹炭ケナフクロス、エコカラット、リノリウム床材など、随所に自然素材、調湿効果のある素材を使用。バルコニーには、「緑のカーテン」を作るためのスペースを設置するほか、陽避けシェード、打ち水効果のあるバルコニータイル「トレクール」も用意する。

 一箇所5万円程度のオプション設定となるが、「ハニカムサーモスクリーン」は効果が高い。二重のハニカム構造を持った断熱性の高い布製のブラインドで、これを下しておくと、夏は熱気、冬は冷気をカットしてくれるスグレモノである。「エコ」とはあまり関係ないが、玄関のたたきが、現地施工の「洗い出し」になっているのには、ちょっとした感動を覚えた。
 建物外部も「エコ」の塊である。「緑のカーテン」による壁面緑化、屋上緑化に加え、最大の熱源である駐車場を建物から最大18メートル離し、その間を中庭として常緑樹を植え、建物への冷気だまりとしている。
 こうした工夫により、夏は熱気を逃がし陽射しを遮り、逆に冬は陽射しを導き部屋を暖めることができる。

「環境」を選択するユーザー

 この「鶴瀬」、現在予約制でモデルルーム見学を受け付けている。販売価格も調整中だが、おそらく坪単価170万円以上と、周辺物件よりやや割高になるだろう。
 現在、マンション市場は急激に高騰しているが、「鶴瀬」の場合は、やはり「エコミックスデザイン」への投資が価格に反映されてしまう。たとえば、無垢のフローリングは、合板のものと比べ、それ単体では倍近い価格がするし、竹炭のクロスは「珪藻土」のそれよりもさらに高価だ。建具や、収納のしつらえも贅沢品ではないが、「よいもの」を使っているのがわかる。
 もちろん、コストダウンの努力もしている。最近のマンションでは珍しく、「ウォシュレット」はオプションだし、キッチンの引き出しプルモーション(オートクロージャー)や防汚パネルなどもオプションである。つまりは、「かけるべき場所にはたっぷりコストをかけ、そうでない部分はユーザーの嗜好に任せる」という考えだ。

 同社は、「エコミックスデザイン」の考えに共鳴したユーザーで編成される会員組織がある。イマドキの言葉を借りれば「LOHAS的生き方をめざすユーザー」とでもいうべきか。この会員のほとんどが、エコミックスデザインのマンション「しか」選択肢にないそうだ。「環境」という付加価値をきちんと認識しているということだ。誕生して6年、いよいよ「エコミックスデザイン」が、真価を発揮する時代がやってきたようだ(J)。

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