記者の目

2024/1/10

飲食事業者の苦境をデータから探る

 2023年9月29日に(株)帝国データバンクが発表した23年度上半期までの新型コロナウイルス関連倒産件数は、計6,761件。業種別の1位は飲食業者で1,006件に及びました。また同年11月9日には、(株)東京商工リサーチが23年1月から10月までの「人手不足倒産」件数を公表しましたが、計128件(前年同期比2.4倍)のうち、業種別ではやはり飲食業を含むサービス業が第1位となりました。
 事業用不動産のテナントとして数が非常に多いことから、不動産業とも密接な関わりを持つ飲食業界ですが、現在、どのような状況で、どんなことが起きているのでしょうか。月刊不動産流通で「不動産事業者と地域金融機関のWin-Winな関係に向けて」を連載中で、飲食業界の専門誌にも分析記事連載している佐々木城夛氏に話を聞きました。

◆苦境が続く飲食業界

 ‐‐このところ、飲食業界の苦境がニュース等で伝えられています。

 「利益率の低下やアルバイトをはじめとする人材確保の苦労など、さまざまな報道がなされていますね。
 データを紹介しましょう。飲食店を開業するには保健所からの営業許可証が必要で、その許認可件数を厚生労働省が公表しています。それによると「一般食堂・レストラン等」のカテゴリーでは、2020年度末から21年度末までの1年間に、北海道と山梨・長野・徳島・香川・長崎・熊本・沖縄県の1道7県を除く39都府県で減少し、総数は6,743施設となりました。全国トータルでの減少率は-0.86%ですが、ワーストの鳥取県では-7.65%、他の5県でも-2%超を記録しています(図表1参照)」

図表1 一般食堂・レストラン等施設数推移(単位:施設、%)

 ‐‐つまり、閉店した店舗が多かったということでしょうか。

 「説明が不十分でしたが、必ずしもそういうことではありません。
 先に紹介した減少率のデータは、『営業許可を受領している施設の数』と、その『動き』を表したものです。施設の増加要因には、例えば新規開業や店舗の追加出店など挙げられますし、減少要因には、同じく倒産や廃業などが挙げられます。そんな中で、結果として前年より施設数が減少したということは、倒産や廃業した数が、開業や追加出店した数を上回ったということになります。営業許可証はとりあえずそのまま保持し続ける事業者も少なくないと思われますので、休業や閉店などといった『隠れ倒産』を含めた実質的な施設の減少数は、先に挙げた6,743という数字を大きく上回っているはずです」

「隠れ倒産」を含む実質的な飲食施設の減少数は、表に出ている数字よりはるかに多いことが予想される(写真はイメージ)

 ‐‐ 飲食業に限ってなぜそんなに減少しているのでしょうか。コロナ禍の影響があったとはいえ、宅配需要などは伸びたのでは? 

 「倒産や廃業などに至った理由はそれぞれですが、もし共通する事情を挙げよと言われれば、まずは飲食業における『利益率の低さ』が挙げられるでしょう。この特性により、外部環境の変化に対応できないと、収支がすぐに赤字になってしまうのです」

 ‐‐テレビやネットなどでは、飲食業界で成功した方の話が取り上げられることも多いですが…。

 「利益率の低さを裏付ける指標として、(公財)日本生産性本部が23年3月に公表した数値がありますが、それによれば、中小規模の飲食業の“あるべき姿”として『売り上げの10%の利益を確保するよう指導することが望ましい』とされています(図表2参照)。

図表2:中小飲食業のあるべき利益

 ちなみに、(公財)不動産流通推進センターが公表した、21年度の不動産業者の売上高営業利益率は11.1%でした。こうしたデータからも、飲食業、特に中小規模の飲食業の利益率が『低いと言わざるを得ない』のは、ほぼ間違いないのではないでしょうか」

 ‐‐飲食業は、もともと利益率が1割に満たないところが多い、というわけですね。

 「はい。そうしたウイークポイントを抱えていたところに、昨今の物価高が押し寄せてきて、対応に難儀している事業者の方が多いということかと思います。
 現在の消費者物価指数は2020年を100として調査・公表されています。23年9月の時点ですでに、魚介・野菜・果物などの生鮮食品では119.0、それ以外の食品では114.3に達しています。この2つの指数を単純平均すると116.65になりますが、仮に材料費率が30%であったとすれば、『30%×116.65%=34.995%』となります。

 計算上では、この材料費上昇分だけで売上高の5%程度に達し、その分がもともと売上高の10%程度だった利益を消し去ります。言ってみれば、すでに『利益の半分が食われてしまっている』わけです。これは大変なことだとお分かりいただけるのではないでしょうか」

 ‐‐物価上昇の影響は、飲食業界にとってはより深刻なものなのですね。

 「加えて、人件費の増大が重くのし掛かってきています。
 ご存じの通り、中小の飲食業者の雇用は、パートやアルバイトなどといった時間給の労働者を中心に支えられています。その時給ですが、政府が推進する最低賃金の引き上げを受けて、23年9月実績で22年比4.82%、21年比12.16%と上昇傾向にあります(図表3参照)。

図表3:パートタイム労働者 月間現金給与額推移(単位:円)

 ところが飲食業界には中小を中心に、このトレンドを引き受けて賃上げを行なうだけの体力を持ち合わせていない、そんな業者も少なくないのです。

 一例を挙げると、『人手不足倒産』という言葉をニュース等で耳にしたこともあるかと思います。この人手不足倒産ですが、飲食業の場合には単純に『働き手が集まらない』ことが理由で倒産に至るというケースだけでなく、『賃上げができないため、オーナーなり店長がアルバイトの分まで働かざるを得なくなった結果、最終的に行き詰まる』というケースも、かなりの数に及ぶと推察されています」

働き手が集まらないことに加え、オーナーや店長がその分をカバーしようと頑張るも、最終的に行き詰まるというケースも多いようだ(写真はイメージ)

◆生き残り策は?

 ‐‐厳しい状況がうかがえますね。飲食業者は、どのように生き残りを図っていけば良いのでしょうか。併せて、店舗を仲介する不動産事業者としては、どのようなことに注意していくべきでしょうか。

 「ごく単純な試算では、20年に売上高比で10%の利益を確保していたとしても、昨今の材料費と人件費の上昇分だけで利益が吹き飛びかねない、というのが目下の状況です。実際には、電気やガスなどのエネルギーコストも上昇しています。となりますと、顧客への提供価格を相応に引き上げなければ、利益は出せないものと思われます。

 見方を変えれば、飲食業の変動費はもともと30%程度しかありません。それゆえに値上げだけでなく、この変動費をいかに抑えつつ、新規顧客やリピーターを確保していくかがカギになります。他のテナントとの関係もおありでしょうが、不動産事業者、物件オーナーに店舗の宣伝などでテナントに協力できる余地がおありならば、それらを実施してあげることも一案と思います。

 改めて言うまでもなく、倒産によって賃料が受け取れなくなれば、原状回復に敷金を上回る費用が掛かる可能性もあります。従って、テナントの営業状況も注視しながら、滞納発生時には平時以上に督促を迅速に行われた方が良いかと思います」

 ◇ ◇ ◇

 魅力的な飲食店は、まちににぎわいをもたらすし、そのまちの人たちの生活を潤してくれる。そんな重要な産業である飲食店が、実はこのように大きな課題を抱えていることがよくわかった取材であった。まちに飲食店があるかないかで、そのまちの魅力は大きく変わる。営業を継続してもらうためにも、佐々木氏が語っているように店舗の宣伝など、できるサポートを個人、個社、地域それぞれで実施していくことが重要であると感じた。(NO) 

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