海外トピックス

2010/6/21

vol.157 「癒し」の環境作り:ガーデニング

鳥小屋や陶器の器などを使って個性的な庭作りを楽しめる(イリノイ州シカゴ市、以下同)
鳥小屋や陶器の器などを使って個性的な庭作りを楽しめる(イリノイ州シカゴ市、以下同)
隣の家と遮断された塀でさえ、椅子や骨董のストーブなど置いて、楽しい空間を作る
隣の家と遮断された塀でさえ、椅子や骨董のストーブなど置いて、楽しい空間を作る
分譲住宅でガーデニングには制限があるが、このように椅子や植木鉢を配すことでゆったりとした時間を過ごす場所が作れる
分譲住宅でガーデニングには制限があるが、このように椅子や植木鉢を配すことでゆったりとした時間を過ごす場所が作れる
シニアハウジング。散歩道を広くとってあり、諸処にベンチが配されている
シニアハウジング。散歩道を広くとってあり、諸処にベンチが配されている
色彩や花の高さをよく考えた正面玄関の花壇。入り口へと訪れる人を招く
色彩や花の高さをよく考えた正面玄関の花壇。入り口へと訪れる人を招く
造園家に依頼したという友人宅。季節毎に美しく花が咲き誇り、色彩も変化に富む。さすがプロの仕事と感心
造園家に依頼したという友人宅。季節毎に美しく花が咲き誇り、色彩も変化に富む。さすがプロの仕事と感心

6月、アメリカが一番美しい季節

自然とふれあう環境は、身体や気持ちの回復に絶大な効果があるといわれる。映画、“タクシードライバー”を例にあげるまでもなく、都会の喧噪は人々の心を痛めつけ、ストレス度を増大させてゆく。かと言って、都会から離れた環境に引っ越すには、仕事や家族を考えるとそれなりの決意を要するに違いない。都会に住む人々にとって、土をいじり、植物とふれあうガーデニング(趣味としての庭仕事)は自然を身近に感じる恰好の折衷案と言えよう。 6月はジューンブライド(6月の花嫁)でおなじみだが、梅雨がないアメリカでは一番美しい季節。家々の窓や庭には花が咲き乱れ、都心でさえもリスやうさぎが走り回り、蝶が飛んで来たり、キツツキやカーディナルがさえずる。夜は蛍が飛び交う。 都会の暮らしは田舎のようには広い土地は望めないし、高層住宅やタウンハウスに住む人々も多いが、それでも心と身体の癒しの効果的な方法としてガーデニングが注目を浴び、さまざまな工夫もなされている。

戸外で多く過ごすお年寄りは、ストレスが激減

「癒しの環境作り」は日々話題になっているが、よい環境、心地よい景観が健康に良いことは証明済み。病院では、病室からの良い眺めは手術後の回復を早めると言われるし、美しい庭園は老人ホームに住むお年寄り達の健康保持に役立つそうである。ある老人ホームが、お年寄り達を、いくつかのプログラムを戸外で活動するグループと、同じプログラムを室内で行なうグループの2つに分けた。その結果、戸外で多く過ごしたグループのストレス度は劇的に減ったそうである。「自然と繋がった感覚、平和な感情を持った」ことがその理由としてあげられる(Chicago Tribune Newspaper 04/23/2006)。 戸外に出たお年寄り達は、実際に花を植えたりするわけではないが、季節毎に変化する木々を眺めたり、池をめぐって散歩したり…、自然と対話する良い機会なのは確かであろう。

「癒しの庭園」をつくったシニア住宅も

ところが、一般的にシニア用の施設は、室内は充分な配慮がなされている一方、戸外での行動には限界があり、行動範囲は室内にのみ限られる所が多い。目が充分行き届かない、という管理や安全面での理由があるだろうが、癒しの環境作りが健康保持と回復に効果的な要素とされる現在、オーナーは建築家共々、戸外へ活動範囲を広げた癒しの環境作りに力を力を注ぐべきだろう。 シカゴ郊外に癒しの庭園をつくったフレンドシップヴィレッジというシニア用の住まいがあるが、放置されていた空間に椅子やテーブルを置き、戸外でシニアがチェスやトランプを楽しめるようにした。散歩道にはおしゃべりができるようにベンチをいくつか配置、これらのベンチは水辺を眺めるよう配置されているため、建物の室内をじろじろ眺めることがない工夫がされている。散歩の道もぐるりと元にもどる輪のようにデザインしたので、記憶の定かでないお年寄りが道に迷うこともなくなったそうである(www.friendshipvillage.com)。

庭の手入れが健康を保つ秘訣、という友人

小さい庭だが、よく手入れをし、夏中ほとんどの時間を戸外で過ごす友人がいる。名はボビィ。春一番に物置の手入れ。ホースや植木鉢などを庭に出して日に当てておく。4月、凍り付いた土が柔らかくなり始めたら土を掘り返し、肥料を足す。庭いじりをしたくて手がむずむずしてくるが、5月の半ばまで我慢をするのはシカゴ育ちなら誰でも知っている。シカゴでは、5月でも霜が降り氷点下の気温になる夜が多く、苗を植えても凍えてしまうのだ。最後の霜が降りたら、いよいよ花の苗を買いにガーデンセンターに駆けつける。 ボビィは自分の手で雑草取りや植物の植え替えをするが、「それが健康を保つ秘訣」と笑う。庭の中心に鳥のえさ箱と水を入れた皿を置き、さまざまな鳥がやってきて餌をついばんだり水浴びするのを揺り椅子に腰かけて見守る。都会には稀にしかやってこないハミングバードのために砂糖水で満たしたビンも吊るしてある。小学校教師のボビィは仕事を忘れて一人で静かな時間を存分に楽しむが、美しく平和な庭は彼女にとって大切な癒しの環境に違いない。

夏、一斉に変わるまちの風景

大多数の人々がボビィのように5月半ばに一斉に花を植えるので、突然舞台の場面が変わったかのように、町のいたる所に花々が一杯に咲き乱れ、その華やかさは劇的だ。ガーデニングが好きでも土を運んだり耕したりするのは大変、という人達には、力仕事のみ業者に頼むという手もある。芝刈りを請け負う業者が器械で耕し、新しく土を加え、肥料まで混ぜてくれるから、「ワシントンのお手植えの桜」ではないが、花々の苗を買って来てすでに用意された苗床に植えるだけですむ。 また、名のある造園デザイナーに庭全体をまかしてしまえばさらに簡単で、手を全く汚さずに美しく仕上がった庭園を優雅に眺めて楽しめるが、これは懐に余程余裕がある人達に限られる。 ガーデニングにどれだけ体力や時間、あるいはお金をかけるか、その辺りは個人の選択。美しく手入れをされた玄関まわりや庭は、通りがかりの人々の目を引かずにはおかない。 あっという間に過ぎる短い夏を、人々は戸外で花を愛で、寛ぎ、陽の光を浴びて精一杯楽しむ。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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