





色とりどりの野菜から工芸品まで、賑わう土曜の朝市
朝市には、ミシガン州やウィスコンシン州など中西部の農場から運ばれた新鮮な野菜や果物が並ぶ。毎週土曜日の早朝7時にはすでに店開きして買い物客も続々とやってくる。週に1度、早朝から昼までの産地直送朝市である。 野菜、果物、花、植木、ゴートチーズや何年も熟成させたチェダーチーズ、瓶詰めのジャムやマーマレード、マッシュルームなどのピクルス、焼きたてのパン、手作りのクッキーやケーキ、包丁研ぎのサービス、手染めのスカーフや地元で焼かれた陶器など工芸品もみかける。普段は超高級レストランでしか見られないような変わった野菜もここでは見られる。ベーゼル(バジル)は束にして300円位で売られ、ペストソースを作ろうか、花もまじえた何種類かのレタスで山盛りのサラダを作ろうか、思い描くだけでも楽しい。プロかアマチュアかわからないが、ギターを弾いて歌う人もいていっそう賑やかな雰囲気を盛り立てる。市が主催。35年の歴史を持つ
この朝市はシカゴ市から北、ミシガン湖沿いにあるエバンストン市が主催している。他にも朝市はエバンストン市内で合計3カ所、それぞれ異なる曜日と時間で開かれているが、シカゴの冬は激寒なのでいずれも夏の間だけ。市中心部に一番近いこの朝市が最も規模が大きく、すでに35年の歴史がある。 場所は普段は雑多なものが置かれている広い空き地で、市の所有地である。買い物客にとって魅力なのは、この朝市の場所が市の駐車場ビルに隣接しており、車を停めた目の前が朝市。さらに朝市に訪れる客には駐車料金が無料になることであろう(駐車場も市の経営)。 もしも持ちきれないほどの桃やブルーベリー、植木まで買い込んだら、ボランティアの高校生が駐車場の車まで荷物を運ぶのを手伝ってくれるに違いない。近郊の農場などから、家族でトラックをとばして…
野菜や果物を売る人々は近郊の農場からやってくるのだが、シカゴの町で見かける人々の顔とはちょっと違うようだ。日に焼けているだけでなくミルクとバターで育ったのだろうか?こせこせしていなくてゆったり、身体もぐーんと大きい。 彼等は早朝に起きてトラックをとばし、毎週土曜の朝市のためにやってくる。去年はまだ子供子供していたのに1年ぶりで初夏にみかけるその子はぐんと背がのび、子供から少年に成長しているのに驚いたり…。たいがい家族で来ていて子供達も手伝っているのだが、毎年成長していく子供達を眺めるのは楽しい。買い物客も「今年は奥さん見かけないけど、元気?」とか「息子さんどうした?あ、軍隊に入ったの?」など会話をかわしている。 日本では八百屋、乾物屋、魚屋などの小売店が多いからよく見かける光景だろうが、アメリカでは巨大なスーパーマーケットで普段買い物するから店の人と口をきくことはまずない。手にとった果物がいつどこで作られたかわからないし、一年中手に入るのを当然と思い込んでいる。一方、ここ朝市では野菜や果物に「旬(しゅん)」や「初物(はつもの)」があるのを再発見!商品価格は高めだが、市や客の支援・理解に支えられて
しかし、これら産地直送品の値段が高いのは買い物の手を鈍らせずにはおかない。ほとんどの品が有機自然食品で注意深く吟味して作られてはいるのだが、不況下の現在、多くの人々のふところが厳しいのは現実。 農場側からすれば、トラックでミシガン州やウィスコンシン州から運べばガソリン代が結構かかる。この日午前中だけの店開きで、余ったら持って帰るか破棄するか、結構農産物の無駄も多い。また、嵐や大雨で朝市が中止になるリスクも伴う。だから、多少高くても巨大なスーパーマーケットで買うよりは、それらの事情を理解し、良心的な農場主達をサポートしたいと思う人々が納得して買うわけである。もちろん、エバンストン市が支援しているわけだが…。 ところで、この朝市には八百屋だけでも6つか7つ店開きしている。当然競争が激しく、新鮮でなかったり、おいしくなければ客は次の土曜日には買わないだろう。農場主に文句を言うかもしれない。よい品を作って売る責任が農場主にあるし、そういった品を正当に評価する客がいてこそこの朝市は成り立ってゆく。地域振興プログラムもしっかり進行中
朝市開催中、2つのプログラムがエバンストン市により進行中。一つは「地元のアーティストの作品展示販売」。エバンストン市に在住かスタジオがあることが条件で、作品については審査がある。審査に通ると1回の場所代6,000円で展示ができる、テントは供給されるが、飾り付けは本人で行なう。アーティストは音楽にしろ工芸にしろ、作品を売って生活していくのは厳しいのだが、このプログラムは地元のアーティスト達を援助するために始まったものだ。 もう一つは “料理の真っ最中”(Now We're cookin') と銘打った料理の実演。エバンストン市にある商業物件貸スペースの紹介なのだが、オーナーがそのスペースをモダンなキッチンに改造してレンタル。料理教室やキッチンのショールームをも兼ね、改造の相談にものる。ブースでは人々の目を引くためか、“ブルーにまとめた夏料理”(ブルーチーズ、ブルーベリーなど使用のサラダ等)を実演したりして、この貸スペースの紹介をしている。エバンストン市では “グリーン化” を目指しているから、ヘルシーな料理紹介はこの朝市の主旨に合っているのだろう。(www.cityofevanston.org/evanston-life/farmers-market/)
コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。