海外トピックス

2010/8/20

vol.161 フラー博士のサマーハウス(その1)

1時間の船旅ののち、岩の多いベアーアイランドが見えて来た!!!(メイン州ベアーアイランド 以下同)
1時間の船旅ののち、岩の多いベアーアイランドが見えて来た!!!(メイン州ベアーアイランド 以下同)
管理人のトラクターで、荷物を何度かに分けてサマーハウスまで運ぶ
管理人のトラクターで、荷物を何度かに分けてサマーハウスまで運ぶ
サマーハウス。ベアーアイランドの高台にあり、ポーチからもどの部屋からも海が一望できる
サマーハウス。ベアーアイランドの高台にあり、ポーチからもどの部屋からも海が一望できる
何とジオデシックドームではなかろうか?!? たぶん原型となったモデルだろう。高さは2メートル足らず
何とジオデシックドームではなかろうか?!? たぶん原型となったモデルだろう。高さは2メートル足らず
フラー博士の居間。さすがにたくさんの蔵書がある。船のモデルやレコードプレーヤー、古いレコード盤も残っている
フラー博士の居間。さすがにたくさんの蔵書がある。船のモデルやレコードプレーヤー、古いレコード盤も残っている
持って来たカヌーで付近を探検する少女達。大西洋のはるか向こうはイギリスだろうか?
持って来たカヌーで付近を探検する少女達。大西洋のはるか向こうはイギリスだろうか?

全米各地から仲間が集合。北端の島へ…

「ジオデシックドーム」を発明したバックミンスター・フラー博士のサマーハウスで過ごす幸運に巡り合った。博士の家族が所有するベアーアイランドという島は、アメリカ合衆国最北端、カナダに近いメイン州の沖に浮かぶ。島をぐるりと回ると1時間位だから、面積は50エーカー程度ではなかろうか? 地中海の大富豪オナシス、フロリダの島に別荘があるマドンナやシルベスタ・スターローンなどが思い浮かぶけれど、島をまるごと所有している家族はそう多くはないと思う。 さて、集合場所は8月1日4時半にメイン州ディアアイルのヨットクラブ船着き場、という雲をつかむような目標であったが、教授も含め学生時代の仲間がアメリカ各地からやってきた。メイン州は合衆国の最も東のニューイングランド地方なので、ロスアンジェルスに住むスージィは5,070km、 コロラド州に住むジョディは3,340km、カンサスシティに住むマーシィは2,520km…、それぞれ飛行機やレンタカーを乗り継ぎ、ヨットクラブ船着き場に集合したのである。 ちなみに青森県から鹿児島県までは約2,000km、東京から福岡までだと880kmだから、ベアーアイランドへの旅のダイナミックさが想像できよう。長い距離をそれぞれ踏破して大西洋に面した船着き場での出会いは感動的であった。

食糧等は持参、飲料水は近くの井戸から調達

22年前のクラスメート仲間6人、現在は家族が増え教授も含めて4歳から70歳まで総勢20人だ。 リズとジュディがそれぞれ車一杯に食料を詰め込みバーモント州から運転してきた。島は個人所有だからコンビニなどはなく、滞在期間 × 20人分の食料と紙製品が必要だ。チャーターした船に荷物を積み込み、島をめざして5時過ぎにいよいよ出発。1時間の船旅ののち、ベアーアイランドに上陸した。管理人がトラクターで迎えにきていたので、荷物をサマーハウスまで何往復かして運ぶ。背の高い野草があたり一面風にそよいでいる。目の前に大きいビクトリア朝風の木造建物が迫って来たと思ったら、それがフラー博士のサマーハウスであった。 建物全体をぐるりとめぐる広いポーチが印象的。15部屋はあるので、各自で部屋を確保する。やや離れた場所に台所と食堂のダイニングハウスが建っている。水道も蛇口もないのに驚くが、近くにある井戸から飲料水を汲む。顔や身体、皿を洗うのには雨水を貯めた風呂桶のような水槽から水を汲む。トイレはやや離れた小屋。 2時間後、バジルたっぷりのペストソースパスタとサラダ、ローストチキンなどで晩餐の用意が整い、シャンパンで久しぶりの邂逅を祝う。海が見晴らせる食堂だが、すでに陽は落ち一面夕闇に包まれる。皿洗いは子供達にまかせ、蝋燭のあかりでワインを飲みながらしゃべり続ける。

原始的な生活の中で、エコロジーの先駆者でもあったフラー博士を思う

ベアーアイランドは19世紀にバックミンスター・フラー博士のおばあさんが購入したそうで、この邸宅は130年くらい前に建てられたという。現在はフラー博士の孫にあたるアレクサンドラ夫妻ともう一組が所有、管理している。普段使うのは親戚だけで、ここは寒いから使われるのは夏の間だけだそうだ。 フラー博士は「宇宙船地球号」「バックミンスター・フラーのダイマキシオンの世界」など多数の著書の他、ジオデシックドーム、ダイマクション地図の発明をし、建築家、詩人、思索家、哲学者でもあり、多方面における活躍で「現代のレオナルド・ダヴィンチ」と言われた巨人である。人類の生存を可能にする方法を思索し、“地球を包括的、総合的な視点から考え、理解することが重要”(119110.seesaa.net/article/147362513.html) と述べ、21世紀のエコロジーの先駆者ともいうべき学者であったらしい。 ベアーアイランドで過ごした数日間、テレビや車、豊富な湯や水の使用など現代の暮らしから隔絶され、言ってみれば原始的な暮らしであったが、はて、ここで一体進歩とは何か?我々は正しい方向に歩んでいるのだろうか?という課題を改めて考えさせるには充分な環境であった。

都会では想像できない生活、自然とのふれあい

2日目の朝、食堂に三々五々集まりコーヒー、トースト、果物などの朝食をとって…、と言っても簡単ではない。まず井戸へ行って水を汲み、大きなガス台で湯を沸かしてコーヒーをいれる。使った皿は雨水の貯水槽までバケツで運んでいき、水を汲んで火にかけ、限られた量の熱湯で洗うのだ。 海岸に出たり、泳いだり、持って来たカヌーを漕いで沖に出たり、散歩をしたり…、各自思い思いに自由に過ごす。 巨大なヒトデがぬたぬた動くのは初めて見た。アクアラングをつけて潜ったり、澄んだ水の底や岩にはりついているウニ、はまぐり、ムール貝を皆でバケツ4杯くらい採る。夕食はムール貝をオリーブ油とニンニクでいため、白ワインを加え、パセリをふりかけてリングィーニとあえる。リズの畑で穫れ運んで来た新鮮なトマト、キュウリ、タマネギ、ラディッシュ、さらにリズ手製のフェタチーズを加えたサラダ。 食事を終えてサマーハウス(本館)に戻る道は漆黒の闇。懐中電灯なしでは歩けないが、目が慣れてくると限りない数の星々や月でおぼろげに方角はわかる。それにしてもこんなにたくさんの星が頭上にあるなんて、都会に住んでいると想像もできない。 頼りない発電機の灯りのついた居間で、フラー博士はどの椅子に座って思索したのだろうか?どの著作を読んだのか?博士の寝室に幽霊が出たら?などとワインを飲みながら話題はつきず更けてゆく。


<参考資料>
www.joshuawiner.com/about-bear-island.php
en.wikipedia.org/wiki/Buckminster_Fuller


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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「海外トピックス」を更新しました。

サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。