海外トピックス

2011/1/6

vol.170 ベビーブーマーズのスマートな改装アイディア

全米規模の大型ハードウェアチェーン店 ホームデポ(イリノイ州シカゴ市 以下同)
全米規模の大型ハードウェアチェーン店 ホームデポ(イリノイ州シカゴ市 以下同)
整然と商品が並んでいる HomeDepot 店
整然と商品が並んでいる HomeDepot 店
照明器具が所狭しと並ぶ(HomeDepot 店)
照明器具が所狭しと並ぶ(HomeDepot 店)
大きな工具はレンタルがあり、それらを運ぶトラックやバンも借りられる(HomeDepot店)
大きな工具はレンタルがあり、それらを運ぶトラックやバンも借りられる(HomeDepot店)
シカゴで最も品揃えがよく、商品に詳しい店員が揃い一番の店と表彰されたクラークデボン店
シカゴで最も品揃えがよく、商品に詳しい店員が揃い一番の店と表彰されたクラークデボン店
レンタルの品揃えも多く、使い方などもよく教えてくれる、後方には修理中の店員(ClarkDevon店)
レンタルの品揃えも多く、使い方などもよく教えてくれる、後方には修理中の店員(ClarkDevon店)

毎日7,000人が65歳の誕生日

真っ青に晴れ上がった快晴のHAPPY NEW YEAR! ――と言いたいところだが、新年早々アメリカの不動産市場は曇り空…。 そんな2011年、毎日7,000人(!)のブーマーズ(団塊の世代)が65歳の誕生日を迎えてゆくという(AARP=American Association of Retired Persons による調査)。 彼等の動向は人数が多いだけに社会に大きな影響を与える。ブーマーズは65歳前後になると本人や家族、働く状況などの変化により、暮らしの分岐点に立つ。アメリカの大多数のブーマーズはすでにローンを払い終えた一戸建てかコンドミニアム(マンション)に住んでいると想定されるが、人生の分岐点にさしかかった時、彼等はその家をどうするかまず考えるだろう。図体が大きく、財産としても価値があるからだ。その時点で(1)家を売る、か(2)家を売らない、かに選択は分かれる。

これまでは、「家を売って、ダウンサイジング」だったが…

大多数である中流層ブーマーズは、これまでは“ダウンサイジング”、つまり暮らしの規模の縮小を考え、今まで住んでいた家を売って小さい一戸建てかコンドミニアム(マンション)に住み替え、残金を将来の生活資金にあてる、という(1)の「家を売る」選択が多かった。都心から離れた地域で固定資産税が安く住宅価格が安い物件をみつけて引っ越すというケースだ。 だが、ここ数年、住宅の価格が下がり、いまかいまかと待っていても上がる気配が見られない。数年前までは5,000万円の価値と考えられた一戸建て住宅は現在3,500万円位が相場だろうか。そのため売れたとしても30%安く売ったということになり、数年前のブーム時期に比べれば1,500万円の損失となる。 反対に、家を買う場合はその分得である。小さい家、例えば400万円の価値がある家でも、今だったら30%安く買える可能性大。そうすると400万円相当の家を280万円で購入でき、120万円の得をする。 ところが、1,500万円の損失をして120万円得したので、全体から見れば1,380万円の損失となる。この計算は税金や手数料、控除などを含めておらずいささか乱暴だが、典型的なダウンサイジングとして、大きな持ち家を売って小さな住まいを買うのは不利、規模の縮小は現在合理的ではないことを示す例である。

家を売らずに住みやすく改装するのがトレンド

「よーし!新しい出発だ!」というかけ声が鈍ったブーマーズは、むしろ(2)の「家を売らない」選択をする。 アメリカ人の日々の暮らしのペースは早く、しかも片時も休まず前へ前へと進む。ところが、立ち止まって我が家をじっくりと見回して、さてどうしたらこの家をより心地よく住めるよう変えられるだろうか? 何年かして不動産の価格が上昇傾向になった時に少しでも高く売れるように今のうちに改築、改装したほうが利口ではないか?と考え直すブーマーズが多く出現するのだ。 レイオフされるかもしれない不安と再就職の難しさ、さらに年をとってからの年金制度と健康保険に対する不安感、つかみ所のない不安定さなどを心に抱いた彼等は今後の自分達を想像する。つまりシュミレーションをしてみる。――もしかしたら病気か手術などして車椅子が必要になるかもしれないから台所を広げようか?いずれひざが痛くなって現在は2階にある寝室を1階に替えるかもしれないから、今のうちに1階の洗面所やトイレを直しておこうか?年を取った親の面倒を見るかもしれないし、子供が一緒に住むようになるかもしれない…、いろいろな状況が描かれる。 そして現在の住まいをより住み易く改装する計画に没頭するのである。

修理・改装のための道具・ハウツーも充実

たくさんの大型ハードウェア店がある。建築資材、照明器具、キッチン風呂用品、下水、配線、園芸…、ともかく住まいに関しての必要な品はすべて1カ所の店で調達できるのだ。簡単に、経済的に施工できるよう素人向けの講習が設けられている大型店はブーマーズの動向を見越して、さすが!と言うべきか?ちょっとした修理や改装ならウェブサイトでわかり易くやり方を紹介している(www.homedepot.com)。必要な電気のこぎりや掘削機など大型の工具は自分で購入する必要はない。レンタルが用意され、使い方も親切に教えてくれる。こういった重い工具を家まで運ぶ時はトラックのレンタルまで完備している。それにしても、工具の置き場所と使うスペースが自宅にあるのは広い国土を持つアメリカだからの話かもしれないが…。 アメリカ人達は驚くほど自分であれこれ改装や修理をしてしまうが、実はそうできる「受け皿」があるからだろう。家は時代の流れにつれて常に新しく改装しておかないと使っていても不便だし、改装に手をかければかけたその分売る時に高く売れる可能性はある。 誕生日を迎えるブーマーズ達、年齢は “シニア” でも気持ちは若く、フロリダのプール際で日がな過ごす“引退者” のイメージは見られない。彼等の両親の世代とはまるで違って、ブーマーズは元気一杯!

Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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