海外トピックス

2011/2/7

vol.172 “サステーナブル”って何のこと?

ユニタリアン教会は竹の床材を使用し、サステーナブルな流れに従って大改造された。私事で恐縮だが、正面のタペストリーと両サイドの垂れ幕を依頼され制作した(イリノイ州エバンストン市)
ユニタリアン教会は竹の床材を使用し、サステーナブルな流れに従って大改造された。私事で恐縮だが、正面のタペストリーと両サイドの垂れ幕を依頼され制作した(イリノイ州エバンストン市)
グレイウォーターを使ったマーク・グッドウィン氏の野菜畑(ニューメキシコ州)
グレイウォーターを使ったマーク・グッドウィン氏の野菜畑(ニューメキシコ州)
強い日差しを防ぐために窓は小さく、壁は非常に厚い。天井内部は葦(あし)のような植物で覆ってある。マーク・グッドウィン氏が自分で建てたアドビ造りの家(ニューメキシコ州)
強い日差しを防ぐために窓は小さく、壁は非常に厚い。天井内部は葦(あし)のような植物で覆ってある。マーク・グッドウィン氏が自分で建てたアドビ造りの家(ニューメキシコ州)
洗面所の改造は最も一般的なので、さまざまな商品が見本市に並ぶ。サステーナブルな素材が話題を呼んでいる(イリノイ州シカゴ市)
洗面所の改造は最も一般的なので、さまざまな商品が見本市に並ぶ。サステーナブルな素材が話題を呼んでいる(イリノイ州シカゴ市)
アドビ造りの家は昔から現在までサステーナブル。サンタフェではアドビ造りのギャラリーが立ち並び観光客を集める要素にもなっている(ニューメキシコ州サンタフェ市)
アドビ造りの家は昔から現在までサステーナブル。サンタフェではアドビ造りのギャラリーが立ち並び観光客を集める要素にもなっている(ニューメキシコ州サンタフェ市)
プエブラ インディアンの遺跡。とはいえ、現在まだ数家族がここに住んでいる。土とわらをこねて造る。中央はパンを焼くかまど(ニューメキシコ州)
プエブラ インディアンの遺跡。とはいえ、現在まだ数家族がここに住んでいる。土とわらをこねて造る。中央はパンを焼くかまど(ニューメキシコ州)

環境問題での「サステーナブル」って?

「サステーナブル」とか「サステナビリティ」という言葉がエネルギーや環境問題のキーワードとなって久しいが、わかったようでわからない・・・。かといって、今更誰かに聞くのは恥ずかしい。辞書を引くと、「SUSTAINABILITY:持続可能性」とある(新コンサイス英和辞典)。 ず~っと続いてゆくのが可能な状態、長く保ち続けられることを言うらしい。「ポン」と手をたたくと音はすぐに静まるが、サステーナブルな音というのは「ぼ~~~~ん」と長く続いてゆく除夜の鐘の音のようなものか。エネルギーや環境問題に使われる時には、半永久的により長く続けられ、再利用が可能な場合の表現として使われる。

自動車の大量生産が始まってから100年を過ぎて…

では何を長く保ち続けるかというと、現在から次世代へも保ち続けられる社会を取り巻く環境条件を指す。いくつかの要因から環境の悪化が増し、その反省と共に今後の活動を考える動きが盛んになってきた。 考えてみれば、アメリカは自動車の大量生産開始から約100年が過ぎた。特にベビーブーマーズ世代は大量生産、大量消費、「大きいことはいいことだ」を善として受け止めた。資源が豊富にあったためもあり、大きな家に住み、大きな車を何台も保有し、室内は沢山の家具や巨大な冷蔵庫、TVなどの電気器具に溢れた。 その “豊かな暮らし” は実際、アメリカの経済を活発化させたが、このような暮らしには膨大なエネルギーが必要であり、その量に限りがあることに人々は最近気がつき始めたのだ。一方通行の消費であるから使い切ればそれまで。掘り尽くせばなくなる化石燃料ではなく、もっと持続可能なエネルギー源として太陽エネルギーなど自然エネルギーや植物燃料の開発をし始めたのである。

日本の住まいや暮らしには昔から「サステーナブル」があった

日本では、打ち水や氷室(ひむろ)、土壁、風通しの工夫など、昔から省エネや再利用の歴史がある。サステーナブルな暮らし方として、はるかに進んだ文化を持っていたと思う。だから先人の工夫をもう一度振り返って現代に生かす余地が充分あろうが、アメリカは新しい国、日本のような長い歴史の積み重ねがない。その上豊富な資源があるから、サステーナブルな方向に目を向ける必要性がこれまではなかったのだ。 現在、サステーナビリティに留意する少数派は、社会的な責任、という「倫理観」でサステーナビリティをとらえていると思う。樫や楓など硬い床材が好まれてきたが、とり尽くしてしまえば禿げ山になり、次に大きく育つまでには30年以上の年月がかかる。だから育つのが早い竹や混ぜ物をした床材がサステーナブルな素材として好まれている。 また、ハイブリッドの車が一般的になってきたが、何人かの友人達にきくと、車自体が高価だし維持費も結構かかるという。彼等は “我々の社会と環境を次世代へも保ち続けられるようサステーナブルな暮らしをする” という信念でこういった建材や車を選んでいるに違いない。

「大きな家」から「シンプルで効率のよい家」へ

しかし、ここ数年の不景気や雇用率の低迷で、サステーナビリティを倫理観よりも合理的な面からとらえる人々が激増。6年来の不動産市場の低迷期を境として、光熱費などの維持費を切り詰めざるを得なくなり「何部屋もある大きな家」から「シンプルで効率のよい家」へと一般の嗜好が変わった。 彼等は光熱費が節約できる家電や建材、燃費の低い経済車などに目を向け始めた。販売店では、これを使うと年に何ドル節約ができるとか、サステーナブルな商品に実際の数字を示して購買者の目を引く。 また、グレイウォーターや雨水の再利用も住宅や園芸、農耕に取り上げられている。家で使ったトイレ以外の水、例えば皿洗い機、シャワー、洗濯機、台所からの排水を「グレイウォーター」というが、それらをリサイクルするシステムだ。洗顔後の水をトイレ用に利用するシステムのトイレットはすでに市場に出回って久しい(ちなみにトイレと洗面台、シャワーは同じ部屋にあるのが一般的)。「洗濯から景観へ」というビデオでは、洗濯したあとのすすぎ水を戸外へ導きだして、果樹への水やりに使っている。果物の収穫がある、という副産物で購買者を引きつけるのは実際的なアメリカ人ならではのビジネスか。

快適さ追求から持続性へ。アメリカ人は移行できるか

住宅関連の商品では、政府がU.S.グリーンビルディングカウンシルとして製造者及び消費者を応援していることもあり(www.usgbc.org)、省エネを重視した製品が数多く市場に出回り、サステーナブルな流れはアメリカ全土でさらに強まりそうだ。 とうもろこしをベースにした燃料、ソーラーシステムなどは暮らしの中ですでに使われているし、風力発電は賛否両論にしても一般化している。この動きは100年続いた大量消費経済活動からサステナビリティへと今大きく方向転換していると思われる。 1月27日のNPR全米公共ラジオ放送で、オバマ大統領は “政府が主になってグリーン化を牽引してゆく”と強調しているが、サステーナビリティという考え方は、これまでひたすら快適さを追求してきたアメリカ社会にとっては大きな挑戦であろう。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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