海外トピックス

2011/3/22

vol.175 博愛精神に富むアメリカ人

アフリカでエイズの子供達のためにボランティアをして夏休みを過ごして来たアイザック(メイン州)
アフリカでエイズの子供達のためにボランティアをして夏休みを過ごして来たアイザック(メイン州)
アンダーソンランチ・アート・スクールでは、アーティストが寄付した作品をせりにかけてその収入を奨学金にあてる(コロラド州スノーマス市)
アンダーソンランチ・アート・スクールでは、アーティストが寄付した作品をせりにかけてその収入を奨学金にあてる(コロラド州スノーマス市)
アンダーソンランチ・アート・スクールでせりに出す作品の紹介をするボランティア(コロラド州)
アンダーソンランチ・アート・スクールでせりに出す作品の紹介をするボランティア(コロラド州)
モロッコで3年間ピースコアのボランティアをしてきたエリザベス・スミス(イリノイ州シカゴ市)
モロッコで3年間ピースコアのボランティアをしてきたエリザベス・スミス(イリノイ州シカゴ市)
ペンランド工芸学校でも作家が作品を寄付し、売り上げは奨学金になる。大勢のボランティアが手伝っている(ノースカロライナ州)
ペンランド工芸学校でも作家が作品を寄付し、売り上げは奨学金になる。大勢のボランティアが手伝っている(ノースカロライナ州)

地震の報道直後から募金活動がスタート

アメリカに暮していつも驚くのは、募金と奉仕活動が多く行なわれていることである。 今回の日本の東北巨大地震では、地震と津波の報道直後、全米のTVで赤十字が10ドルずつの寄付を募り、時を移さず日本の地震津波被災地へ合計10億円を送った。画面で「日本へ物資を送るには運賃が大変高いのでお金が一番有効です」と合理的な説明をし、モノよりもむしろお金を送るよう募金を奨励、電話、ウエブサイト、テキストメッセージで受け付けた。 多くの宗教団体、慈善団体、グループ等も寄付を呼びかけているが、その対応の早さは驚くべきものがある。アメリカで災害が起きた場合は即座にボランティア募集があり、その日のうちに大勢の人々が被災地へ出かけるが、さすがに言葉も文化も違ううえ、遠い国日本へは医療や技術関係者に限っての少数のボランティア達が旅立った模様。

お金持ちもそうでない人も、それなりに寄付

寄付というのはお金が余っている人のすること、と以前は思っていたが、ない人はないなりに1ドルでも5ドルでも寄付している。一方、お金のある人、例えばフェイスブックのCEO、マーク・ザッカーバーグはすでに100億円を5年間にわたって出身地であるニュージャージィ州ニューワーク市へ教育振興基金として寄付しているが、それは彼の慈善の手始めで、さらにマイクロソフトのビル・ゲイツ、AOLの創始者スティーブ・ケイスら超金持ちとともに17人が発起人となり、彼等の持つ巨大な富を慈善のために寄付すると非公式ではあるが発表して暮れに話題をまいた。 マークはそのグループの最年少であるが、「人々は年を取って功を遂げてからようやっと寄付をするが、なぜそれまで待つのか? 若いうちに行動を起こせばたくさんのことができるし、慈善の結果を充分に見届けることができるのに」と説明している(www.npr.org 12/09/10)。 

小さい頃からボランティア活動に参加

昨年は6,300万人がボランティアとして彼等のエネルギーや時間を費やしたという記録があるが(Chicago Tribune newspaper 11/28/2010)、アメリカ人は小さいときから学校や家庭、ボーイスカウト、宗教団体などを通じて自分のできる範囲でボランティアをよくする。地元はもとより国内や海外にも出かけたり、期間も短期や長期に渡ってさまざまなプログラムがある。 ハリケーンやテロ攻撃などの突発的な災害時にアメリカ赤十字は9万人が出動できる体勢を整えているが、そのうちの93%はボランティアで構成される(ww.redcross.org)。 突発時のボランティアと違い、長期というのは計画に沿ってある場所に一定期間滞在して学校を建てたり医療や教育援助をする奉仕活動で、1週間から数年間まで各種プログラムがある。 国内で有名なのは「アメリコア」であろう(AmeriCorpsと書くがアメリコアと読む)(www.americorps.gov)。以前に比べて単なる労働力の提供よりも技術を生かせる場が増えたのは大きな変化。教育、コンピューターの支援、公園や森林の整備、建設などさまざまなポジションがあって、自分の得意な分野で力を発揮でき、それがまたキャリアとして将来生かせるので若者に人気がある。現在8万5,000人いるボランティアを2017年までには3倍の25万人まで増やす予定(Chicago Tribune newspaper 11/28/2010)。 

「国が何をしてくれるか」ではなく、「国のために何ができるか」

「ピースコア(Peace Corps)」はアメリコア同様政府支援で、海外で行なわれる奉仕活動プログラム。1960年代にケネディ大統領により始められた(www.peacecorps.gov)。 「国があなたのために何をしてくれるか、と尋ねるのではなく、あなたが国のために何ができるかを問いかけて欲しい」(拙訳)と大統領就任演説(※)で格調高く国民に訴えたケネディ大統領。そのアメリカンスピリットはとりわけ若者の心を高揚させ、彼等は開発途上国へ続々と援助に出かけた。この伝統が現在へと受け継がれているのか、ケネディ暗殺を歴史の教科書でしか知らない23歳の若い友人、エリザベスはピースコアに応募してモロッコで3年間読み書きを子供達に教えたり訓練所の建設をして、契約終了後の現在アメリカの家に戻り、大学院に行くか再び奉仕活動を志願するか迷っている所。 ピースコアはボランティアとは言っても医療保険や旅費、生活費、多少の小遣いと共に休暇も与えられる。友人の高校生の息子、アイザックも夏休みにアフリカでエイズにおかされた子供達の医療援助をしてきた。こうした人々を魅了するのは見知らぬ国への好奇心もあるだろうし、自分がよりよい世界を作るという期待もあるのかもしれない。 いずれにしても困っている人にすすんで手を差し伸べる博愛精神はアメリカ社会の最も素晴らしい部分だと感じている。

※"And so, my fellow Americans:/ ask not/ what your country can do for You/-Ask what you can do for your country." 大統領就任演説からの抜粋(www.americanrhetoric.com/speeches/jfkinaugural.htm


アメリカでは東北巨大地震の被害が大きく報道され、その惨状に人々は大きな驚きと悲しい出来事にひどく心を痛めています。多数の友人達から状況を気遣う電話やメールを受け取っているので、その祈りと同情を伝えたく思います。亡くなった方達のご冥福と被害にあわれた方達の気持や傷が一刻も早く癒されるよう心から望みます。

Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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