家の価値は「立地」で評価される
不動産ビジネスにおいて何が最も大切な要素か？と不動産エージェントに聞けば、1にロケーション、2にロケーション、3にロケーション、と答えるそうで、3回も重複して強調されるほど “ロケーション” というのは重要、と言われている。ロケーションとはこの場合、居住区域を指す。つまり州や市よりも狭い範囲、だいたい町くらいの規模だろう。 ところで、なぜ “ロケーション” が最重要視されるのだろうか？ それは不動産ビジネスにおいて、家の価値というのがその家が建っている区域で評価されるからである。家そのものの価値よりもロケーションによって評価が変わるので、売買においてはロケーションの動向をよく見極めることが決め手となるからであろう。地域のステータスによって、住宅価格にかなりの開き
ここに一戸建て3BR140平方メートルの住宅があると仮定しよう。アメリカでは平均的な家族向きのサイズだ。この物件をそれぞれ違うロケーション、つまりあちこちの居住区域に置いてみる（ちなみにアメリカの不動産の大多数は家屋と土地共に売買される）。 シカゴ市内の高級マンションが立ち並ぶゴールドコースト地区にこの物件があるとすると1億円くらいの価格がつくであろう。平均的な庶民が住むシカゴ市内北のロジャースパークだと4,000万円くらいの価格。シカゴ市内でも南側のケンウッド地区だと800万円くらい。このように、全く同じ建物であっても、置かれた地区によって値段にかなりの開きが出てくる。 では、都心に近い区域だから高いかといえばそういうわけでもない。シカゴのはるか北、レイクフォレスト市は車で都心から1時間半もかかるが、同じ家があるとすると1億5,000万円の価格がつくだろう。都心に近いとか、電車に便利とかいう便利さよりも、長い間に築かれ安定した土地柄と住民の高収入によって、レイクフォレストは昔から家の価格の高いロケーションなのである。「近隣の質」が最も重要な購入条件
NAR(National Association of Realtors) が2010年に全米で8,000人の潜在的購入者に調査した所、家を購入する場合に最も留意するのは“近隣の質” が64％でトップ、次に仕事場への便利さ49％。この他に友人達や家族と近い距離、良質な学校区、買い物や娯楽が近くにある、などが続く。電車やバスなどへの公共機関の便利さを重視するのはたったの7％(Chicago Tribune newspaper 04/03/2011)。 「ロケーションは家を買う時の重要な鍵となる」と、シカゴ郊外のリバティヴィル市センチュリー21社で30年間不動産エージェントとして働くパム・ホーセックは述べる。なぜなら、「ロケーション、つまり家を購入して住むであろう区域は “永久” だから」と付け加える。家自体は改築・改装して住みやすくできるが、近隣の質は簡単に変えることはできないから、まず始めにロケーションの選択が重要になる、という意味だろう。評価が高い地区は当然固定資産税も…
ロケーションとして高い評価がある地区は、概して固定資産税が高い。上記の一戸建て3BR140平方メートルの住宅がシカゴ市北のロャースパーク地区（中流の下）にあるとすると、固定資産税は年間に約45万円くらいだが、やや北の郊外ウィルメット市（中流の上）にあるとすれば固定資産税は年間およそ140万円くらいにはねあがる。同じシカゴ市でも南のケンウッド界隈では20万円くらいに下がる。 固定資産税は学校や森林管理などへも振り分けられるから、固定資産税が高い地区の学校は豊富な教材が揃えられ、教育レベルが高いとか、街路や公園もよく整備されている、といわれる。評価の高いロケーションと低いロケーションを比べた場合に、ドロップアウト率や犯罪率に顕著に差があらわれるのは否めない。はっきり決めつけられないながらも相関関係がうかがえる。物件が安いからという理由で評価の低い区域に引っ越すと、安全性の点でとりかえしのつかない結果に落ち入ることも多々あるようだ。再開発で地域一帯が驚くほど変貌するケースも
ところで、昔から評価の高いロケーション、上にあげたレイクフォレスト市やウィルメット市は長年安定しているが、シカゴ市の中心部では市の再開発計画などによりコミュニティは流動的で変化が多い。これまで危険な地帯だったのが、再開発でドラッグディーラーやギャング達、ホームレスの人々が追い払われ、新しい建物が立ち並び、そういった地域に引っ越してくるのは若い人達が多く、洒落たレストランや店舗が増えていって、その一帯がまるで生まれ変わってしまう。 しかし、追われたドラッグディーラーやギャング達は消えてなくなるわけではないから、今度はどこへいくのやら…、落ち着かれた先は安全性が脅かされる。だからか、コミュニティとしてよそものとか危険分子を排除する動きはかなり強い。ささいなことだが、芝生をきれいに苅っていなかったり、家の修理をおろそかにしていると注意を促すメモを隣人からもらうこともある。居住区域がより高く評価されれば、家の評価額が上がり、家を売る時に有利、という合理的な動機があるにせよ、ロケーションの評価の高さというのはコミュニティを良く保とうとする各人の自覚のバロメーターではなかろうか？Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
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コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。
89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート（ミシガン州）にてファイバーアート修士課程修了。
Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。
アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。
シカゴ市在住。
