海外トピックス

2011/6/6

vol.180 グッドマン家の夢のキッチン

グッドマン家のキッチン。たくさん収納場所があるため、非常にすっきりしている。床は美しい木材で落ち着いた雰囲気を醸し出す(イリノイ州シカゴ市 以下同)
グッドマン家のキッチン。たくさん収納場所があるため、非常にすっきりしている。床は美しい木材で落ち着いた雰囲気を醸し出す(イリノイ州シカゴ市 以下同)
飲み物のコーナーで通話中のシャロン。下の戸棚の中は製氷機。自動的にいくつかの違うサイズの氷ができている
飲み物のコーナーで通話中のシャロン。下の戸棚の中は製氷機。自動的にいくつかの違うサイズの氷ができている
キッチンの中心はアイランド型大理石の調理台。下の引き出しは電子レンジ、食品収納庫など日々使うさまざまなものが手軽に出せるように配慮されている。右側、家具のように見えるが冷蔵庫と冷凍庫!
キッチンの中心はアイランド型大理石の調理台。下の引き出しは電子レンジ、食品収納庫など日々使うさまざまなものが手軽に出せるように配慮されている。右側、家具のように見えるが冷蔵庫と冷凍庫!
家具のような特別注文の冷蔵庫、冷凍庫。市販の製品と違って奥行きが浅いので、内部が見易く何が入っているかすぐわかる。主婦らしいアイディアだ
家具のような特別注文の冷蔵庫、冷凍庫。市販の製品と違って奥行きが浅いので、内部が見易く何が入っているかすぐわかる。主婦らしいアイディアだ
アイランド型調理台下部におさめられた電子レンジ。違和感がない
アイランド型調理台下部におさめられた電子レンジ。違和感がない
キッチンから眺めた朝食用のスペース。右の大きくカーブした壁は、渋い赤の木材がモダンでありながら落ち着いた雰囲気を与えている
キッチンから眺めた朝食用のスペース。右の大きくカーブした壁は、渋い赤の木材がモダンでありながら落ち着いた雰囲気を与えている

キッチンだけのつもりが、家全体のリフォームに

キッチンは創造の場。おいしいものを食べる楽しみを家族や友人達と分かち合う喜びが生まれる場所でもある。 ファッションデザイナーのシャロン・グッドマンが3年前に大改造したキッチンは至上の「夢」のキッチンだ。シャロンはインテリア関係の専門誌をはじめ、友人達の推薦、ウェブサイト、新聞などで業者をリサーチし、絞り込み、何度も面談した末にキッチンデザイナーを決定した。しかし、プランを煮つめて行くうちにキッチンだけでなく家全体を改造しよう!と予想外の展開となり、キッチンデザイナーに加え建築家にも改造設計を依頼。プランに1年間、改造工事に1年間かけたのだ。改造中は近くに家を借りて住んだ、と軽く言うが、実際は大変な改造工事であったに違いない。現場で工芸家がひがな一日木材を彫っていたり、専門の職人が手焼きの煉瓦を積んでいたり、石工が「のみ」片手にスレートを削り・・・。 その頃、通りがかりに見かけたグッドマン家のゆったりした時間の流れが強く印象に残っている。

機能的、心地良い、美しい、明るい、がポイント

改造するにあたってシャロンが目標にしたのは、機能的であること、心地良いこと、美的に満足できること、そして明るい光に満ちていることの4点。スペースは40%ほど大きくなっただけだが、はるかに使い良くなり、改造の結果にはおおいに満足しているとのことだ。 広さを計ってみたところ、「うちのり」は「7m31cm x 4m26cm」であった。8畳二間位の広さだろうか、日本人の感覚からすればやはり広い。映画で見る貴族の屋敷の台所か寺の厨房のよう。 朝食用のスペースはキッチンの隣。家族や友人達、客が来て食事をするのは20畳位の大きいダイニングルーム。娘は嫁ぎ、大学生の二人の息子はよその州にいるから普段は夫婦だけだが、いつも人の出入りが多く、十何人も集まって食事をする機会が多いグッドマン家だからこれくらい大きなキッチンスペースが必要なのかもしれない。

さまざまな様式を融合しながらも、乱雑さはない

家もキッチンも、建築家、キッチンデザイナーと相談しながらシャロンのイメージ通りにデザインをまとめ、仕上げたわけだが、全体のイメージは筋が一本しっかりと通っている。つまりシャロンの強い好みが反映されている。 家具や台所用品の色、デザイン、仕様は彼女の指示による特別注文。本人は “エクレクティックかも?” と言うが、エクレクティックという舌をかみそうな言葉は、さまざまな様式をうまく融合させた折衷主義的な方法のこと。キッチン全体は渋い栗色で落ち着いた色調だが、朝食用のテーブル付近は大きくカーブした赤色の壁がモダンな感じだ。 50年代の家具はアンティックだろうか。モダーンでもあり、クラシックでエレガントでもあって…、一言でレッテルをつけられない。しかし、あれもこれもという乱雑さは全くなく、やはりシャロン独自の好み、と表現するのが最適だろう。

ユダヤ教の戒律を守れば、レンジが2つ、オーブンが3つ…

収納場所の多さや3ヵ所の洗い場、3つのオーブン、2つの電子レンジなどをみると、夫婦2人の住まいに何故こんなに必要なのだろうか…、と思うのだが、答えの鍵はグッドマン家が “コーシャー(Kosher)”、 つまりユダヤ教の食事に関する戒律を厳しく守る点にある。 コーシャーは実に多くの決まりがあって、普通の人が実践するのは難しいが、コーシャーの規範に従った食品は衛生的で安全性が高いためか、一般の人々から注目を浴びている。乳製品と肉とを一緒に冷蔵庫に入れたり洗ったりしてはならず、鍋や皿、包丁もそれぞれ別に用意する。乳製品と肉は共に料理せず、同時に食べてもいけないとされているが、というのは、チーズは牛の乳から作るわけで母親の乳と肉とをともに料理するのは残酷、という理由によるものらしい。だから厳格なユダヤ系の家庭では乳製品用と肉用の二組の洗い場や冷蔵庫や調理台が必要で、収納場所もそれぞれきっちりと分けるのである。

動線を効率よくできれば、使い勝手の良いキッチンに

これからキッチンを改造する人達へのアドバイスは?とシャロンに聞いたところ、「どんなふうに料理するかをリストに書き出してみる」。そして「シンク(流し場)と冷蔵庫、ストーブ(コンロ)を結ぶ三角形を基本にして効率のよい流れを生み出すデザインを考える」。それをまず基本として「キッチンの中であなたがどういうふうに動くか、自分で図にしてごらんなさい」といかにもデザイナーらしい答えが返って来た。 これはグッドマン家のような大きいキッチンでなくても応用ができる。動線さえ効率よくできていれば、小さなスペースはかえって使い勝手がよい。アイランド型の調理台があると料理はさらに機能的になる。鍋やザルなど毎回使うがかさばる器具が動線の中心、アイランドに収納できるし、そこで下ごしらえをしたりコーヒーでひと休みしたり…。 シャロンのキッチンは夢のそのまた夢にしても、料理を通して人生を楽しむ姿勢は、いつも新鮮な刺激を与えてくれる。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

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