海外トピックス

2011/9/20

vol.187 もうひとつのサクセスストーリィ(その1)

ワシントンブリッジに掲げられた星条旗。アメリカ人達の気持ちを高揚させる(ニュージャージー州。メモリアルディかベテランズディの祭日。以下、写真は本間京子さん提供)
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ご主人、娘さんとの家族3人の楽しいピクニック
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こじんまりしたクラシックな外見の家を見つけて購入。近隣の環境がとてもよい点が気に入っている
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京子さんのオフィスを訪れたお嬢さん
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忙しい京子さんだが、かぼちゃを飾ったりハロウィーンを楽しんだり、うまく時間をやりくりしている様子
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「女性」「外国人」「マイノリティ」…3つのハンデを背負って

卒業後もアメリカに残ってアメリカ企業で働きたい、と教授に相談しにいった本間京子さん(以下、kyoko。敬称略)。日本に帰るとばかり思っていた教授は「あなたは“三重苦”を背負っているのよ。アメリカで働くっていうのは大変よ。」とクギをさされたという。 つまり、1.女性であること。2.外国人であること。3.マイノリティであること、の三重苦。アメリカではこの3つがハンディキャップとして常につきまとうのを覚悟しなさい、と巣立ってゆくKyokoに忠告したわけだ。

夫のサポートで、家庭と仕事の両立が可能に

“女性”であることは、基本的に身体の仕組みが男性と違うし、これまでの習慣もある。確かに女性が仕事を続けること、そして家庭を持ち、子育てをすることはたやすいことでは決してない。Kyokoの場合は子供を生後3ヵ月から保育園に預けていたが、送り迎えに加えて家事などは、数年前に金融関係の仕事を廃業した夫が“主夫”をやってくれているのでなんとかなっている。 パートタイムで働く女性は家庭の事情に合わせてやりくりできる場合もあるが、責任のある地位についてフルタイムで働く場合には、夫が家にいるとか、両親が助けてくれるとか…、サポートがしっかりとできていないと続けていかれない。 さらに企業内で高い地位に進むほど、家庭と両立させるのはアメリカでさえ難しい、とKyoko は是認。夕食後も家で仕事をするKyokoは、8歳の娘に「どうしてママは毎日夜 遅くまで宿題があるの?」と聞かれるそう。

文化の違いが、コミュニケーションを困難に

“外国人”というのはアメリカ生まれでない、という意味で、文化を共有していないために会話などのコミュニケーションが難しいということによる。彼女も12年前にシカゴのノースウェスタン大学の大学院をめざして留学した当時、マクドナルドでハンバーガーをオーダーしても英語が通じなかったそうだ。「大学院で勉強するつもりでやってきたのに、こんなことではいったいどうなるやら…?」と目の前が真っ暗になったとか。 私もアメリカに来た当時、バスの運転手に「何言ってるんだかぜ~んぜんわからないよ」といわれて泣きそうになったことも1度や2度ではない。テネシー州のガソリンスタンドで「あなたの南部訛りはよくわからないわ」と言ったら、「君もけっこう訛りがつよいぜ!」と言い返された経験もある。 学校で勉強する英語と普段の会話の英語は違う。互いに通じ合うことが最優先で、言い回しは実際非常にシンプルなのだ。日本人は誰でも学校できちんとした文法やボキャブラリーをたくさん習うから、最初はそれがかえって邪魔になる(?)が、実はそれは重要な鍵で、すぐに追いつく、というのもあとになって学んだ。

正面きっての差別はないが、社会の底流にはいまだ根強く…

“マイノリティ”というのは、アメリカ社会を形成している大多数の白人ではない、という意味。だから、アメリカ生まれのアメリカ人であっても顔色が白くないアジア系や黒人はマイノリティに入る。Kyokoが働くような欧米企業では、差別に対する教育や管理は徹底しているそうで、正面切ってビジネスにおいて差別されることはないにしても、女性、外国人、マイノリティ、というこれら3つの要素はアメリカ社会の底流に根強く存在する。 だから教授が心配したのは充分にうなずけるが、ともかくKyokoはマーケティング/広告で学位取得後、「応援するからがんばりなさいね!」と教授に激励されつつ、アメリカ企業に就職した。その後引き抜かれて会社を変わったりもしたし(アメリカではこうした優秀な人材を引き抜くヘッドハンティングが結構盛ん)、その間に結婚や出産などさまざまなできごとがあったが、現在、欧米系一流大企業のマーケティング部門の責任あるポジションで、4人の部下を持って働いている。

三重苦をあえて自分の「スタイル」に

Kyokoを見ていて感心するのは、上記の三重苦を無理矢理克服しようとはせずに、むしろ彼女の「スタイル」として定着させた点にあろう。女性であることは変えられないが、世の中には男性とみまごうかのような外見も中味も凄まじい女性が結構多い。反面Kyoko はステレオタイプの“女性であること”を素直に受け入れ、力は弱いがごつごつせずにしなやかにふるまう。外見だけでなく、柳のような柔軟性も内包しているのだ。 人事異動が多いKyoko が働いている職場では柔軟性は必要不可欠。プロジェクトが頻繁に変わるし、人も変わる。だから「安定した職場でしかやっていかれない人には難しいだろう」と彼女は指摘する。 口数が少なくしぐさも静かすぎるという、外国人でマイノリティからくる欠点も彼女の「スタイル」。周囲は「Kyoko は口数は少ないけど、言うべき時には主張する。そして聞き上手だ」 と評価する。彼等はKyoko の言うことには耳を傾ける。しかしそうなるまでには人間関係がよく確立されてなくてはならない。英語は100%完璧でなくても、その分信頼関係ができ上がっているから、言葉数の少なさを容認してもらえるのではないか? 日本人が元来持っている洞察力や忍耐力、持続力を良い方向に転換した例であろう。(次回へ続く)


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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