海外トピックス

2011/11/7

vol.190 アートに囲まれた暮らし

ウェンディと愛犬のプードル、アギィ(イリノイ州ハイランドパーク市。以下同)
ウェンディと愛犬のプードル、アギィ(イリノイ州ハイランドパーク市。以下同)
肖像画と本人。右上は温室のようなサンルーム
肖像画と本人。右上は温室のようなサンルーム
数々のモダンアートが並ぶ客間
数々のモダンアートが並ぶ客間
モダンアートや工芸品がさりげなく置かれた居間
モダンアートや工芸品がさりげなく置かれた居間
すべてが注意深く選ばれ、個性あるアート作品ながらうまく収まっている。左はキッチン
すべてが注意深く選ばれ、個性あるアート作品ながらうまく収まっている。左はキッチン
プールサイドで刺繍を楽しむ仲間達。各自忙しい人達だが、大切なリラックスできるひとときでもある
プールサイドで刺繍を楽しむ仲間達。各自忙しい人達だが、大切なリラックスできるひとときでもある

気に入った作品が家の中のあちらこちらに

ウェンディは彼女がとりわけ気に入ったアート作品を暮らしの中に活かしている友人のひとり。素晴らしいアート作品に囲まれて、眺めるだけでなく、美術館でしか見る機会のないような椅子に座ったり、楽しいアート作品がテーブルとして日々使われていたり、奇妙な球体がごろりところがっていたり…。 ガラスのピッチャーもケーキを盛る皿も “アート” だと納得のいくシャープなデザイン。どこを眺めてもうっとりとため息がでるが、ウェンディには自分の持っている物を独り占めしない鷹揚な気風がある。アートスクールに生徒が展示できるギャラリーを寄付したり、収集した作品を人々に見せたり…、アメリカ富裕階級の良識ある一人であろう。

アートスクールの見学ツアーも気軽に受け入れ

美術館やアートスクールがツアーを組んでアートコレクターの家を訪問する、というプログラムが数多くある。コレクターは当日アートに興味のある人々(8人から15人位)を自宅に迎え入れ、作品の説明をしたり、簡単な飲み物を出してもてなすが、あくまでもボランティアである。芸術作品を共有する優れたシステムだと思う。 ウェンディも頼まれればグループを受け入れて家中のコレクションを見せる。「値打ちのある “アート” でなく、フォークアートだし、私の趣味で集めただけにすぎないのよ」と慎み深いが、なかなかどうして…。ピカソやブラックがインスピレーションを受けたのも、アフリカやニューギニアなどのフォークアートだったし、現在フォークアートが再び見直されてきているのは事実だ。

収集を始めて20年。納得のいくものだけを身の回りに

ウェンディは建築、芸術、そしてインテリアデザインの学位を取得したあと、しばらく建築事務所で働いたが、仕事の上でアート作品を顧客の住まいに合わせて選ぶ機会がしばしばあったそうだ。それが目をこやす鍛錬を彼女に与えたに違いない。 その当時、アフリカの素朴な木彫作品を手に入れたのがウェンディのコレクションの始まり。ウィットに富む作品も多い。ここ数年来気に入っているコンセプチュアルアートも結構な数にのぼる。 「その時々でぱっと選ぶから、脈絡がなくてめちゃめちゃ」と謙遜するが、作品に使われている素材そのものが面白いし20年来の収集の好みはきちんと筋が通っているように思える。投資目的や有名な画家だからという理由で芸術作品を買う個人や会社も少なくないが、ウェンディは自分の目を通して納得のいく作品だけを身の回りに置く誠実さがある。

美術館や展覧会などをきっかけにアーティストを訪問

どうやって作品を手に入れるのだろう? ギャラリーや美術館を歩き回ったり、面白そうな展覧会へ出向く。そして興味のある作品に出会うとそのアーティストについて調べ、スタジオを訪ねる。気に入る作品がみつかれば購入。時には名前もない作品を旅行先でみつける時もあるというが、それにしてもアート作品はTシャツを買うのとは桁が違う。詳細は聞きそびれたが、現在はともかく、多くの収集品はウェンディが働いていた頃に自身で入手したそうだ。 ちなみにビジネスマンのご主人はアートの収集には興味がなく、ウェンディがどんな作品を購入しようが、どう飾ろうが、ティーンエィジャーの二人の娘も同様に口は出さないそうだ。

富裕階級ながら、明るく親しみやすいウェンディの家

アメリカ人達は概してもてなし上手。形式張らないから気楽に互いに家を訪問しあえる。季節の果物を使ったパイやケーキを焼くのが大好きなウェンディは、いつ遊びに行っても「食べてね!」とおいしそうな匂いのするキッチンへいざない、「何を飲む?コーヒー?レモネード?紅茶?熱いの?冷たいの?ミントグリーンティはどう?」。あいさつもそこそこにまだ暖かいケーキを早速味わう。 ウェンディの家は、高級住宅地ハイランドパーク市にあり、ミシガン湖を見下ろす丘に建つ。門を過ぎてからも少しドライブして家の前に車を停めると、大きな彫刻がドアの横にさりげなく溶け込んでいる。 家はインターナショナルスタイルとよばれる20世紀初期のモダニズム様式で、仕切りやドアが少ないから広々として室内は明るい。さらにどの部屋も床から天井までガラスの引き戸で、広々とした庭園やプールが遥かに見渡せて開放的。 住まいはそこに住む家族の人柄を反映するが、ウェンディの住まいは富裕階級でありながら彼女の性格そのまま、明るく親しみやすく楽しい家なのである。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年5月号
住宅確保要配慮者を支援しつつオーナーにも配慮するには?
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/5/1

「海外トピックス」を更新しました。

サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。