海外トピックス

2011/11/21

vol.191 感謝祭は「七面鳥」と「フットボール」

感謝祭はアメリカの楽しい祝日だ。七面鳥やピリグリムの人形など飾って祝う家(イリノイ州シカゴ市 以下同)
感謝祭はアメリカの楽しい祝日だ。七面鳥やピリグリムの人形など飾って祝う家(イリノイ州シカゴ市 以下同)
かぼちゃは感謝祭になくてはならぬキャラクター。とりわけパンプキンパイやかぼちゃスープは、感謝祭当日多くの家々の食卓にのる
かぼちゃは感謝祭になくてはならぬキャラクター。とりわけパンプキンパイやかぼちゃスープは、感謝祭当日多くの家々の食卓にのる
見事に焼き上がった10kgの七面鳥を前に得意げなホスト
見事に焼き上がった10kgの七面鳥を前に得意げなホスト
七面鳥は1週間前に肉屋にオーダーして、フレッシュなものを前日に入手する
七面鳥は1週間前に肉屋にオーダーして、フレッシュなものを前日に入手する
さて、ホストがいよいよ切り分ける
さて、ホストがいよいよ切り分ける
若い人達からシニアまで、大勢で食卓を囲むのは本当に楽しい
若い人達からシニアまで、大勢で食卓を囲むのは本当に楽しい

「独立記念日」と並ぶ国民の祝日

秋が深まると感謝祭(サンクスギビングホリディ)の話題で賑わう。11月の第4木曜日、今年は24日だが、家族や友人達が一同に集まって共に食卓を囲む祝日。家に誰を招くか?メニューは?家族を訪ねて旅をするか?等々。 クリスマスやイースター、ハロウィーンなどは宗教行事だが、アメリカ独立記念日と感謝祭は宗教色がなく国民全体が祝う祭日だ。この日は大統領が生きている七面鳥に「恩赦」を与える子供っぽいセレモニーも公開され、政治の話は一切抜き。誰もがアメリカンフットボールをTVで応援したり、パレードを見に出かけて、家ではおいしいものをお腹がパンクするまで詰め込んで楽しく過ごすのである。

先住民のおかげで生き延びた最初の入植者たち

1620年に、ヨーロッパでの苛烈な宗教弾圧を逃れ、英国から102人の乗船者が4本マットのメイフラワー号で宗教の自由を求めて新世界に船出。数ヵ月にわたる旅の末にアメリカ東海岸マサチューセッツ州の湾内にたどり着いた。彼等が出港した場所と同じ名、プリモスと名付けた村に落ち着いた最初の入植者達はその後ピリグリムスと呼ばれる。 しかし、厳しい冬の寒さに耐えられたのはたったの53人。春になって、近くのインディアン達にとうもろこしの育て方やメープルシロップの蒸留法、害になる植物の見分け方、魚の捕獲法、農耕など、生き延びる手だてを教えてもらい、ヨーロッパ人達と先住民であるインディアン達との温かい交流が始まった。 翌1621年は、先住インディアン達のおかげで無事に冬を越せ、秋にはじゃがいもなどの収穫もあったので、当時の統率者ウィリアム・ブラッドフォードはこの成功を記念して、近隣のインディアン達を招いて共に祝ったのが最初の感謝祭、と信じられている。

七面鳥料理も、地方、家庭によりさまざま

典型的なメニューは10kg前後の七面鳥のお腹に詰め物をして、オーブンで数時間丸焼きにする料理。流れ出るジュースからグレイヴィソースを作る。とうもろこし、マッシュポテト、小さい玉葱や人参、甘酸っぱいクランベリーソース、かぼちゃパイやアップルパイ。いずれも400年昔を偲ばせる素朴な品々だ。 TV、ラジオ、新聞や雑誌にさまざまなアメリカの家庭の自慢のレセピが公開されて楽しい。ニューイングランド地方に住む友人は伝統的なメニューを先祖代々かたく守っているが、シカゴの友人達は柔軟性に富む。スタッフィングといって、玉葱、セロリ、ピーマン、マッシュルームをバターでいためパン粉とまぜて七面鳥のお腹につめて焼くが、南米がルーツの友人はスタッフィングに豆をつめるし、中国系の友人はいためた餅米と干し椎茸や栗をつめる。数年前に菜食主義の家庭に感謝祭の食事に招かれた時には、もちろん七面鳥はなし。かわりに“サイタン”とよばれる豆腐とお麩をかためたような七面鳥もどきの巨大な物体が大皿で供されたのには仰天したものだ。

男性陣はもっぱらテレビでアメフト観戦

感謝祭に七面鳥と共に忘れてならないものにアメリカンフットボールゲームがある。NFL(National Football League), AFC(All-American Football Conference) のプロはもちろんのこと、人気抜群の大学フットボールの試合も、感謝祭当日全米中からいくつも中継される。男性群はTVの前に陣取って熱中するのが定番。シカゴベアーズはダラスカウボーイと試合するかどうか、現時点では未定で、気がもめる。 町を練り歩くパレードも感謝祭の花だ。ニューヨークのメィシー百貨店のパレードが有名で、今年はすでに85回目。最初に行なわれた1924年、メィシー百貨店の雇用者には新しくアメリカにやってきた入植者が多かったせいか、彼等にとって新しいアメリカの伝統を祝福しよう!とパレードが組織されたという。シカゴ、デトロイト、フィラデルフィアなど各地でパレードが行なわれる。

一人住まいの人にも声をかけ、皆で集まって楽しくお祝い

感謝祭は4連休になる会社も多く、学校も休みになるので、厳粛ではないまでも、日本のお正月の雰囲気にやや近い。感謝祭を一人で過ごすのは淋しいに違いない、とアメリカ人達は他国からの留学生を気軽に家に招いたり、一人住まいのお年寄りに声をかけて共に食事を分かち合う。帰郷しない学生も少なくないが、そんな時は声を掛け合って寄宿舎に残っているもの同士集まって賑やかに祝う。それぞれの持ち寄る皿には地方色が出て楽しいものだ。 白人でない視点から感謝祭を眺めると、果たして先住民であったインディアン達は感謝祭を祝うのだろうか、とか、リンカーン大統領が合衆国をひとつにまとめあげるために感謝祭を「国民の祝日」と定めたとか、本来の意義が疑わしくなってくるが、せめてこの一日、各地にばらばらに散っている家族や親戚、友人達が集まる素晴らしい機会、とシンプルにとらえて仲良く平和を祝いたいと思う。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com


明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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