海外トピックス

2012/1/6

vol.194 アメリカの「ひきこもり」って?

母親のジュリィ(左)と娘のメラニー。子供にはたくさん自由を与えるが、一方でかなり厳しい部分もあり、そのさじ加減には感心する(エバンストン市のリベラ家)
母親のジュリィ(左)と娘のメラニー。子供にはたくさん自由を与えるが、一方でかなり厳しい部分もあり、そのさじ加減には感心する(エバンストン市のリベラ家)
流しや収納場所がたっぷりついたアイランド型のキッチンが家の中心だ(シカゴ市のグッドマン家)
流しや収納場所がたっぷりついたアイランド型のキッチンが家の中心だ(シカゴ市のグッドマン家)
キッチンのすぐ前に食事用のテーブルや椅子を配するように改造したダイニングキッチン(シカゴ市のグッドマン家)
キッチンのすぐ前に食事用のテーブルや椅子を配するように改造したダイニングキッチン(シカゴ市のグッドマン家)
親戚のカーリィ(左)は乗馬と合気道の稽古で忙しく、姉のヘィリー(右)はバレーの練習とヘブル語を学ぶので忙しい。親もつきあうために忙しいが…(シカゴ市 フリーマン家)
親戚のカーリィ(左)は乗馬と合気道の稽古で忙しく、姉のヘィリー(右)はバレーの練習とヘブル語を学ぶので忙しい。親もつきあうために忙しいが…(シカゴ市 フリーマン家)
両親の努力で落ち着いたレイチェル(左)と、めでたくジュリアード音楽院に入学を果たし、しかめっ面でふざけるジェイジェイ(右)
両親の努力で落ち着いたレイチェル(左)と、めでたくジュリアード音楽院に入学を果たし、しかめっ面でふざけるジェイジェイ(右)

ソーシャルメディアによる弊害はアメリカの子供にも…

アメリカでも自分の部屋にこもってTVを見たり、ゲームをしたり、ネットで遊んだりする子供達は増えているようで、それが直接「ひきこもり」に結びつくわけではないが、ソーシャルメディアにふけり過ぎる状況から、いくつかの弊害、例えば肥満などが懸念されている。そして「いじめ」がバーチュアル形態へ移っているという報告もあり、説明の講座を両親に行なう学校もいくつかあるようだ。 精神的にバランスをくずした子供達のさまざまな問題は深刻さを増しているが、社会的、遺伝的、そして環境的な要因が複雑に絡み合っており、多くの専門家達が討議してはいるが、解決は決して簡単とは思えない。 調べるにつれて、靴の上からかゆい足指をかいているもどかしさを感じたのだが、アメリカと日本の社会構造の違いに直面したからだろう。それでも間取りの工夫や子供とのつきあい方など、アメリカで努力されている事柄が、「ひきこもり」を未然に防ぐ参考になるかもしれないので紹介してみよう。

子供のコンピューターを、親の部屋の前に

シカゴに住み、ティーンエィジャーの娘2人を持つリベラ家の場合、TVは居間にある。子供達用のコンピューターは2階の両親の寝室の前の廊下。夜、子供がこっそりとコンピューターを使っても親の目が届く。 両親は、TVもコンピューターも1日に何時間、と時間を限って使わせている。だから自分の部屋でゲームやネットはできない。これは子供達がどんなに泣きわめこうが、リベラ家の厳然とした規則である。2人の娘はそれぞれ携帯電話は持っているが、ネット機能はなく友人達ともっぱらテキスト交換。スマートフォーンは買わない。これもリベラ家の規則。部屋には鍵はもちろんついていないし、つけることは両親が決して許さないだろう。 友人のメイフィールド家もドナー家もTV、コンピューター、携帯電話に関してリベラ家と同様の処置をとっており、両親は権威があり、しっかりと子供達を管理している様子が強く印象に残った。

家の中心にダイニングキッチンを

食事をする部屋とキッチンの境を取りはずしてキッチンのスペースを広くとり、ダイニングキッチンを家の中心にすえる家庭が増えた。居間をつぶしてさらに広いダイニングキッチンに改造するケースも。 親は、放課後子供をピアノレッスンやサッカーや水泳などあちこちに連れてゆく忙しい日常。学校での出来事を子供から聞きながら母親は食事の支度をしたり父親が宿題を見たり、食事に加えて家族同士顔を合わせるのも自然とキッチンが多くなる。 だから改造する場合、キッチンのレイアウトは母親が背を向けて食事の支度をするという配置は避け、皆が顔を向かい合わせられるアイランド型の流し台と調理台が理想的。子供達が手伝いやすいよう、皿や鍋などの収納場所を低い位置に変えるとか、子供自身で用意できるよう朝食用シリアルやドライフルーツ、蜂蜜などを1ヵ所にまとめるとか…。また、子供を持つ多くの友人達によると、子供用のコンピューターは親の目が届くキッチンに置くのが一番多いようだ。

できる限り子供と時間を共有

我が家のすぐ近くにイリノイ州第1位の学力優秀校、ディケィター小学校がある。友人の子供が何人か通っているが、いずこも宿題で親子共々TVを見る暇もない忙しさ。母親の多くは仕事を持っているから、パートタイムに変えるとか、夫妻で工夫して子供に時間を振り向けている。朝、父親が仕事前に子供を送り届ける姿も見かけるが、父親もしっかりと育児を分担、両親共に教育熱心だ。 かといって、子供を勉強一途に追い込むわけでなく、たくさんの選択肢を与え、その中から子供がやりたいことがあれば全力をあげて応援するのには感心してしまう。友人夫妻の息子が5~6歳の頃、クラシックバレーに興味を持った。友人夫妻はもろ手をあげて応援、「くるみ割り人形」でたくさんの女の子達に囲まれて踊った少年の活躍を話してくれた。しかし彼はバレーダンサーにはならず、その後大学の建築学部に入学、現在は環境に留意した建築設計に取り組んでいるが。家族ぐるみで週末ピクニックに行ったり、泳ぎにでかけたり、学校のイベントに参加したり…、アメリカの親達は驚くほど子供達と時間を共有する。

子供の問題は、貧困層、富裕層それぞれに…

親がTVやコンピューターを子守りがわりにして子供を放置する場合は悪影響が多い。学校以外のさまざまな活動に参加するには月謝や会費が必要で、貧困層には厳しい現実。放課後行き所のない子供達は部屋にこもるか仲間とふらつく。 これを深刻な問題ととらえた前シカゴ市長夫人は彼等を放課後繫ぎとめるアート活動組織を設立。シカゴ市から資金を得て、都心のビルを借り受け、若いアーティスト達に呼びかけてアートクラスを開始した。ギャラリーも備え、子供達の絵を展示。子供達は放課後の時間を楽しく過ごすようになり、潜在的な問題回避に大きく貢献した。オバマ大統領夫人ミシェールも部屋にこもってしまう子供達を懸念して、幾つかのプログラムを国をあげて展開している。 子供達の問題は貧困層だけにあるわけではなく、裕福な家庭でも起こる。子供の欲しいものはすべて買ってあげたり、子供の言いなりになってしまう親も多く、親の放任は親自身の怠慢から来ると指摘されている。アメリカでは、問題を起こす場合、子供の資質というよりはむしろ親が子供にどう対処してきているかが問われるようだ。キッチンを家庭の中心にする等の改造は表層的な処置だけれど、根本には、親が船長として“家族号”の舵取りの責任をしっかりととる必要があろう。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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「海外トピックス」を更新しました。

サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。