海外トピックス

2012/1/20

vol.195 ホームレスペットと不動産エージェント

いずれもシェルターから貰い受けた犬達。友人で、広い農地を持つバーマン家(オハイオ州)
いずれもシェルターから貰い受けた犬達。友人で、広い農地を持つバーマン家(オハイオ州)
池の魚ひとつとっても、彼等は人間に依存して生きているのだ。放置すれば死んでしまう(イリノイ州シカゴ市)
池の魚ひとつとっても、彼等は人間に依存して生きているのだ。放置すれば死んでしまう(イリノイ州シカゴ市)
「猫は家族」と織物製作中の友人。犬も飼っているが、いずれもホームレスだった(バーモント州)
「猫は家族」と織物製作中の友人。犬も飼っているが、いずれもホームレスだった(バーモント州)
ホームレスの犬だったが、シェルターを通してシニアリビングのコミュニティドッグとして救われたラッキー(イリノイ州シカゴ市)
ホームレスの犬だったが、シェルターを通してシニアリビングのコミュニティドッグとして救われたラッキー(イリノイ州シカゴ市)
ペットの総合スーパー、ペッツマートでは、しばしばホームレスペット養子斡旋のイベントを催す(イリノイ州シカゴ市)
ペットの総合スーパー、ペッツマートでは、しばしばホームレスペット養子斡旋のイベントを催す(イリノイ州シカゴ市)
シェルターに保護され、現在はジェニファーが飼い主となり、幸せな日々をおくる元ホームレスの犬(カナダ・バンクーバー市)
シェルターに保護され、現在はジェニファーが飼い主となり、幸せな日々をおくる元ホームレスの犬(カナダ・バンクーバー市)

家を手放す人々に置き去りにされるペットたち

差し押さえ物件(foreclosure) の問題は、この数年来全米に広がっており、その悪影響はまだ当分収まりそうもない。差し押さえられ、家を出て行く羽目になった家族にとって、暮らしの大転換から来る不安や焦燥、絶望感は言うをまたないが、ペットへの被害は一層悲惨である。 飼い主に置き去りにされたペットは、知り合いや近所の人が餌をやる場合もあるが、たいていは放置され、やがて飢え死んだり、野犬化したり・・・。人間に依存するしかないペット達を置き去りにするのは許し難い仕打ちと思うが、見捨てた飼い主にとっては、“子供達が飢えているのに動物の世話までできるか!”というぎりぎりの心境なのだろうか。 ところで、これら置き去りにされたホームレスペットを最初に発見するのは、たいてい不動産エージェント。セールス中の差し押さえ物件へ買い手を案内するのだから当然ではあるけれど、哀れなペットを発見するのも度重なれば、何とかできないだろうか?という気持ちにもなるだろう。散らかったゴミの山を始末するのとはわけが違い、生き物だ。 たまりかねて数年前にホームレスペットを救助する組織を立ち上げた不動産エージェントグループがある。

ホームレスペット支援へ、不動産エージェントが寄付活動

「リアルターズ ツゥ レスキュー」(Realtors To Resucue)は、ゴードン・ マンデン氏とスージィ・ トーマスさんにより2005年に発足(以下敬称略)。 シカゴ市の不動産コミュニティを中心にホームレスペットの現状を公開し、行動を促すのが基本的な方針。寄付金集めのハロウィーンパーティやクリスマスにちなんだ楽しいイベントを企画し、市内のペット救済グループや動物病院に金銭的な支援をしたり、ペットフード、タオルなどの寄付を行なっている。ペットへの理解を求める教育や、イリノイ大学をスポンサーとしてパネルディスカッションなども開催。会員はボランティアとして養子縁組を世話するイベントに参加する。また、差し押さえ物件でペットのいる家族が退去せねばならない場合、シェリフ(差し押さえを執行する郡保安官)と動物虐待反対協会との橋渡し的な役割も果たす。 2010年には、さまざまなボランティア運動に加えて70万円以上の援助金を集めた。

ネットワークを駆使して、ペットの養子縁組活動

アメリカ人が本来持っているDNAか、教育制度のせいか、彼等は活動的である。ネットワークを動員して関連ある人々や必要な組織に働きかけ、兎にも角にも目的に向かって行動を起こす。うまくいくか心配して足踏みするよりも、やってゆく段階で問題が出てくればそれを解決してゆこう、という姿勢。そのチャレンジ精神にはいつも感心する。 ゴードンとスージィが始めた最初の頃は、不動産エージェントとしてのネットワークを駆使して、置き去りにされたペットの養子先をみつける努力をした。しかし、「養子」と一口に言っても、ペットの性格と養子先との相性や、ペットのしつけが充分できているかなど、素人で解決するには難しい問題も起きたため、そのあたりは専門家であるペット救済グループに任せることにしたという。自分達で養子先を直接見つけるよりも、むしろそういったペット救済グループを彼等の専門である不動産ネットワークを駆使して支援する側へと方向転換し、再出発したのである。

会員数1,000人に向け、活動はますます活発化

アメリカには現在5,280万頭の犬がおり、人間5人に対し犬1匹の割合。猫も同様だろうと思うが、アメリカ人とペットとの関わりは非常に強い。 差し押さえになる前の段階で、ローン返済の苦境に立つ家の持ち主が相談を持ちかけるのも、家の持ち主が亡くなり誰もペットの引き取り手がない時に相談するのも、不動産エージェントだ。そのような非常時にペットを放置しなくてもよいような良い情報を与えることができたら、顧客は安心、ペットも幸せ、エージェントも笑顔、というわけだ。 年会費30ドルで、現在125人の不動産エージェント会員が活動しているが、フェイスブックページで、不動産エージェントに限らず一般の人々にも参加を呼びかけており、今年(2012年)中には、会員数1,000人を目標にしているそうだ。 「リアルターズ ツゥ レスキュー」は、いまやシカゴ不動産協会のプログラムとなり、公式ウエブサイトには沢山の関連グループが網羅され、ネットワークは限りなく広がっている。 善意に端を発した「リアルターズ ツゥ レスキュー」は、ビジネス面においても頭ひとつ抜きん出てた感がある。

<参考資料>
=http://realtorstotherescue.org/
http://www.facebook.com/RealtorsToTheRescue
Chicago Tribune newspaper 11/20/2012


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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「海外トピックス」を更新しました。

サントスの「動く博物館」と中心街の再活性化【ブラジル】」を更新しました。

ブラジル・サンパウロ州のサントスでは、旧市街地2.8キロをめぐる「動く博物館」が人気となっている。1971年には一度廃止された路面電車を復活して観光路面電車としたものだが、なんと日本から贈られた車両も活躍しているという。