海外トピックス

2012/3/6

vol.198 住宅開発と農業のバランスは微妙

我々が日々口に入れる食べ物について案外知らないことが多いのに驚く(イリノイ州エバンストン市)
我々が日々口に入れる食べ物について案外知らないことが多いのに驚く(イリノイ州エバンストン市)
どんな処理を経て消費者の手元に届くのか?どれだけ知っているだろうか?(イリノイ州シカゴ市)
どんな処理を経て消費者の手元に届くのか?どれだけ知っているだろうか?(イリノイ州シカゴ市)
典型的な中西部の穀倉地帯(ウィスコンシン州)
典型的な中西部の穀倉地帯(ウィスコンシン州)
農地はたちまちのうちに土地開発業者により住宅群に変貌してゆく
農地はたちまちのうちに土地開発業者により住宅群に変貌してゆく
若く新しい感覚を持った農民が増えて来たのが注目される(イリノイ州エバンストン市)
若く新しい感覚を持った農民が増えて来たのが注目される(イリノイ州エバンストン市)

農民が土地を買い戻して農業を再開

アメリカ全土のうち2,000万エーカーの農地が、過去50年間で住宅用土地開発に転用されたという(1エーカーは約1,226坪)。 ところが景気停滞の現状況下、開発会社は倒産を目前にして四苦八苦。開発会社に土地を売った農民達の何人かが、今度はその土地を売った時に比べたら遥かに安い値段で土地を買い戻し、再び穀物を作り始めたというニュースを全米公共放送で聞いた(1月23日 National Public Radio)。 農業はますます大規模になり、それに従って多大な投資投入に見合うだけの利益を得るために、まずは効率を競う大企業に発展しつつある。土地の利用に関して、住宅開発か、農業生産の拡大か、あるいは有機農業参入かと揺れ動く世相がうかがえる。

景気低迷で、土地開発ラッシュが突然ストップ

アリゾナ州フェニックスの南に木綿やアルファルファ、小麦などで有名な広大な穀物地帯があって、その地域で代々農業を営んでいたある農民が数年前に1エーカー当たり8万ドル(約700万円)で土地開発会社に農地の一部を売却し、多大な利益を得た。一面に広がる木綿畑は開発会社によって延々と続く真新しいタイル屋根の住宅群に変貌。この町は当時全米で雨後のたけのこのように成長した住宅コミュニティの一番手として西部開拓史のゴールドラッシュさながら、建設ブームに湧きたったのである。 爆発的に土地開発が進み、多くの土地開発会社が農地買収を始めたのもつかの間、ブームは突然消滅。建設中止で放置されているのを目の当たりにして、この農民は売った分の4分の1を1エーカー当たり1万7,500ドルで買い戻し、農業を再開したのである。

食物生産の現場をとらえた“不気味な”映画

“日々の糧”…、我々が毎日口にする食べ物は実際にはどのように生産、収穫、処理されているか? ドイツのニコラウス・ゲイハルター監督の「Our Daily Bread (=日々の糧:神様に感謝する祈りの始まりの言葉)」は、農産物や畜産物の生産現場をとらえた、実に印象深いドキュメンタリーフィルムである。日本では2007年に「いのちの食べ方」という題名で公開されたそうなので、ご覧になったかもしれない。全編通してナレーションも音楽もなく、カメラを固定しズームアップも誇張もせずに現場の様子を淡々と映し出してゆく。穀物や家畜は巨大な工場のベルトコンベアにより次々と休みなく運ばれ機械的に処理されてゆくが、操作はコンピューターでなされるので人の姿はまばら。清潔すぎて処理される側も処理する側もともに「いきもの」なのに、その気配が全く感じられないのは不気味なほど。

巨大ビジネス化する「農業」

地平線も見えない広大な温室では、生育する植物へロボットが左右に何か噴射しながら前進するシーンがえんえんと続く。従業員は体中すっぽり覆いマスクもして宇宙飛行士のよう。画面が一転し、美しいひまわり畑に飛行機が浮かぶのどかな光景。飛行機が近づき一斉に何かを花々に噴射すると、輝く黄金色は灰色の霧で覆われる。これらが殺虫剤だとすると…? 我々が日々口に入れる野菜には…?!  収穫は大規模に機械を使って夜に行なわれる。それにしても、このように大きな機械類を購入したらその投資返済のために効率を上げねばならない。農業=Agricultureをもじってアグリビジネス(agriI-business)と言うが、農業はいまや世界的な規模の巨大企業と化した。

借地で農業を始める若者も増えたが…

カンサス州に住み大学の農学部で学位を取ったある友人は、アグリビジネスの現状にひどく落胆し、有機農業を独力で始めた。ここ数年来、広大な土地を入手できる資産を持たない若い人達が土地借りて農業を始めたというニュースはちらほらと聞く。彼らは農業に対して新しい将来像を持っているに違いない。 しかしながら、この農業化の傾向は、土地開発と農業生産効率のバランスの上に成り立っているような懸念もぬぐいきれない。もしも土地開発が近い将来活発化し、土地の価格が再び上がったら、土地を借りて農業をしている人々は継続できるだろうか?土地を買い戻していま耕作している農民は、再び土地ブームがやってきた時には真っ先にこの土地を売り払うのではなかろうか? まあ、少なくとも土地が放置されずに穀物がいま耕作されている、と考えれば多少気持ちが休まるが。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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