海外トピックス

2012/3/21

vol.199 破滅にひんしたカリフォルニアの町、ストックトン

ストックトン市に向かう車の中から。数年前はまだ農村地帯の面影を充分に残していた(カリフォルニア州)
ストックトン市に向かう車の中から。数年前はまだ農村地帯の面影を充分に残していた(カリフォルニア州)
ストックトン市に近い西海岸ポートランド市のお祭り。市主催のこういった祭りは市民の一体感を高める。景気の良かった時期にはきっとストックトン市でも盛んに行なわれたことだろう(オレゴン州ポートランド市)
ストックトン市に近い西海岸ポートランド市のお祭り。市主催のこういった祭りは市民の一体感を高める。景気の良かった時期にはきっとストックトン市でも盛んに行なわれたことだろう(オレゴン州ポートランド市)
ストックトンに近いネバダ州の風景。町を一歩出れば砂漠か荒野か農場が果てしもなくひろがる西部だ(ネバダ州)
ストックトンに近いネバダ州の風景。町を一歩出れば砂漠か荒野か農場が果てしもなくひろがる西部だ(ネバダ州)
アメリカ西部各地ではしばしばロデオクイーンが選ばれる。ストックトン界隈でもそうであったに違いない(オレゴン州ポートランド市)
アメリカ西部各地ではしばしばロデオクイーンが選ばれる。ストックトン界隈でもそうであったに違いない(オレゴン州ポートランド市)
ストックトン市郊外のキャンプ場。素朴でのどかな所(カリフォルニア州)
ストックトン市郊外のキャンプ場。素朴でのどかな所(カリフォルニア州)

のどかな農村地帯に突然湧いた住宅ブーム

以前何度か訪れたカリフォルニア州北部ストックトンの町が破産の危機に? 市がまるごと破産してしまうのってどういうことなのか、まるで見当がつかず、驚愕のてい。友人やそのご両親、古い石造りの図書館や歩いた川の土手が目に浮かぶ。 ストックトン市は八王子市よりやや小さい規模で、人口は八王子市の半分。だからとても広々としている。訪れた頃はのどかで静かな農村地帯で、ワイン製造や酪農、果物の缶詰工業などが主産業であった。その後、西海岸のベッドタウンとして町は開発され、あたかもわきたぎるブームタウンの様相を示したのだが・・・。突然衰退し、山のような負債が、そしてここにもサブプライムローンに端を発するフォアクロージャーの暗い影が見え隠れする。

西海岸の好況の余波で押し寄せた需要

ストックトン市は西海岸サンフランシスコより西へ1時間半ほど車でドライブした内陸部にあり、どこにでも見られるアメリカの農村だった。 10年前頃からサンフランシスコやシリコンヴァレー界隈の土地が急激に値上がりし、その影響で人々は東へ東へと家を求めるようになる。それにつれ町は変貌し始めた。需要を受け入れるためにストックトン市は住宅、商業施設及び公共の建物の開発を盛んに行なった。それら土木工事と建設に伴い、多くの人々が流入してストックトン市の人口は一挙に膨れ上がる。中心地には新しい野球場、スポーツアリーナ、ホテル、映画館、ショッピングセンターなどが続々と建てられ、市の職員、消防署員や警察官などには多額の給料と夢のような退職手当、家族を含めた一生涯の健康保険などが公約された。

失業率上昇、犯罪件数も増加

10年後の現在、ストックトン市はフォーブス誌により「全米で最悪の場所 第2位」の情けないお墨付きをもらうに至る。未就業率はほぼ20%でまず仕事にありつけない。市の財政が苦しくなり、過去3年間に100人近くの警察官を解雇した結果、犯罪件数が一挙に増加。住むには危険が伴う住宅地が激増した。ストックトン市は全米で最もフォアクロージャー率が多い市のひとつにあげられるが、10年前には4,000万円で売られた新築住宅が現在1,500万円でも売れない事実からわかるように、市が見込んだ固定資産税その他の収入はふいになってしまった。なにしろ突然に膨れ上がった市を賄って行くだけの収入源がないのだ。

崩れた“住宅神話”

10年前にはホームローンの金利が下がり、誰もかれもが家の購入を夢み、多くの人々は実際に家を手に入れた。投資目当てで別荘を3軒も購入した知り合いもいた程。しかし数年後の2007年にはサブプライムローン(信用力の低い人にも貸し出すシステムのローン)の破綻がじわじわと全米を覆い始め、ついに2009年には全米で1日に何とフォアクロージャー(抵当流れ物件問題)6,600件という事態に。3年経った現在でも悲劇はあとをたたない。とりわけカリファルニア州はフォアクロージャー問題で最も苦しんでいる地域の一つであろう。 “住宅は必ず値上がりする” という神話はもろくも崩れてしまったのである。

市財政はこのまま破綻に向かうのか…

3月11日付け全米公共放送によると、ストックトン市の公共の建物群はおよそ300億ドルの借金(municipal bonds)をして建てたもの。ハウジングブームのまっただなかにあった当時、市関係者はこれら莫大な借金は返済できると読んだのである。 確かに当時は高揚した感じで誰もが楽天的であった。まさかこんなに早く失墜するとは誰が予測したろうか? 市が行なったすべてのことはうまく行かず、財政指導の誤りが指摘されている。公務員の多大な給与は重荷となり、その上、市職員の不正や疑惑まで浮上。負債に関する法律的な処置は複雑で時間もかかり、もし倒産に立ち至れば訴訟費用だけでも18億円。破産を防ぐために市審議会側は公務員を代表する組合員や市の債券を買った人々と妥協案を見出そうと調停の道を探っている、とも報道されるが、全体の流れは破産申告に向かっている印象を受ける。州や議員達までが援助に乗り出し始めているが…、ストックトン市だけにとどまらず、同様な問題が他の町におきないことを祈る。


<参考資料>
http://www.bloomberg.com/news/2012-02-24/stockton-california-is-said-poised-for-its-first-step-toward-bankruptcy.html
http://www.npr.org/2012/03/11/148384030/an-example-to-avoid-city-of-stockton-on-the-brink
www.responsiblelending.org
http://en.wikipedia.org/wiki/Stockton,_California


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

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