海外トピックス

2012/5/7

vol.202 コープ住宅(その1)

ベイム氏のホームオフィスにて。マリーとマイクル・ベイム夫妻(イリノイ州シカゴ市。以下同)
ベイム氏のホームオフィスにて。マリーとマイクル・ベイム夫妻(イリノイ州シカゴ市。以下同)
専有面積は約260平方メートル、5BRの室内。当時の贅沢な木材を敷き詰めた床は現在の新しい住宅では見当たらない
専有面積は約260平方メートル、5BRの室内。当時の贅沢な木材を敷き詰めた床は現在の新しい住宅では見当たらない
大きなグランドピアノが小さく見えるほどの広い居間。世界中を回って集めた品々が所狭しと置かれている
大きなグランドピアノが小さく見えるほどの広い居間。世界中を回って集めた品々が所狭しと置かれている
右と中央奥のドアは昔はメイドの部屋だったそう。床材は多少ランクが落ちる
右と中央奥のドアは昔はメイドの部屋だったそう。床材は多少ランクが落ちる
エレベーター前のスペース。クラシックに飾り付けられている
エレベーター前のスペース。クラシックに飾り付けられている
ドアマン/コンシェールジがにこやかに入居者を導き入れる。訪問者はデスクで必ず確認される
ドアマン/コンシェールジがにこやかに入居者を導き入れる。訪問者はデスクで必ず確認される

優雅で気品に満ちた時代を彷彿させる建築物

“ゴールドコースト”と呼ばれるシカゴ都心の一等地には、シカゴが最も華やかだった1920~1930年代の頃の建物が今でも数多く残っており、70年代のポストモダーンや最新のデザインの建物と混じり合って、それぞれの時代こそ違え、その混成群がシカゴ独特の景観を形作っている。古い建築物は年を経て取り壊されたり、コンドミニアムや賃貸に変わったが、いくつかは「コープ住宅」(※)として生き延びた。 創設時の入居者達の時代から、もちろん何度かは持ち主が変わったにせよ、これらのコープ住宅は入居者の努力によって優雅で気品に満ちていた時代の矜持をいまだに保ち続けているという強い印象を受ける。

(※「コープ住宅」は日本的な言い方で、正式にはHousing Cooperative とか Co-op apartment と言う。一般にco-opと略し、「コープ」でなく「コアップ」と発音する。)

徹底した自主運営により、住宅のレベルを維持

コープ住宅とは、何人かで共同して集合住宅を建て、自分達で住まいながら管理をしてゆく住まいのひとつの「型」である。土地も建物も彼等が共同購入する。間に業者が入らず、建築家に依頼するにしても、自分たちで共有部分まで計画するため、コストは抑えられる代わりに、時間も手間もかかる。 建物が完成すると、入居者の中から役員を選び、さらにその中から役員長を選んで、役員会により運営の舵取りがなされる民主的なやり方が特徴。のちに自分の住居を売る際に、買い主、つまり次の住居者については役員会で徹底的に審査される。規約によっては、その申込者について入居者全員の同意を得て初めて入居がかなうコープ住宅もあり、入居基準は非常に厳しい。役員会はコープ住宅全体のレベルを保つのに強い力を持っている。

都心にもかかわらず、400平方メートルの住戸も!

友人のマリー&マイクル・ベイム夫妻は6年前にゴールドコーストのコープ住宅に引っ越して来た。44世帯が住む12階建ての大きな建物で、一世帯当たりの専有面積は地価が最も高い都心中心部であるにもかかわらず、広い! ベイム夫妻の居住面積は260平方メートル。一番広い世帯は400平方メートルだ。 入り口にはドアマン/コンシェールジが24時間常駐し、訪問者は必ずここで確認される。ドアマン/コンシェールジは荷物を届けたり、入居者が長期間留守にする時には植物の水やりをするなど、入居者のためにさまざまな利便も図る。 建物の一つの階に4世帯が住むのだが、5ヵ所にエレベーターがあって(一基は荷物用)、一世帯にそれぞれ専用のエレベーターがついているということになる。いらいらしながら足踏みして待ったり、エレベーターの中で襲われる心配などは別の世界の話。

居住者の多くは、裕福なシニア層

マリーによると、同住宅の入居者は、子供達が巣立ちリタイアした医者や弁護士、一人住まいの女性などシニア世代が多く、子供のいる家族は2世帯だけ。何人かは他にも住まいを持っているそうで、シカゴの冬を避けて暖かい地と交互に住み分けているという。 ベイム夫妻の住まいには、遥か昔に召使いが2人住んだという部屋もあり、華やかなローリングトウェンティーズ時代の住まいを偲ばせる。マリーは歩いてシカゴ交響楽団の演奏を聴きにゆける距離、という立地が何よりも気に入っているが、一戸建ての家を持つのに比べて管理がはるかに楽なのと、コープ住宅を核にした「コミュニティ」が醸し出す感覚が最も好きだそう。 海外に住む娘や西海岸の孫を訪問したり、痛風の専門医であるベイム氏に同行して学会に参加しながら世界中を旅する暮しには、都心一等地のコープ住宅は最適の選択。

高い居住者意識、管理・運営費も高額

コープ住宅は減少し、現在ではコンドミニアム(日本でのマンション)が売買される集合住宅として圧倒的に多い。入居してから役員会に出たり運営費を支払うやり方は、コープ住宅とコンドミニアムは非常に似ている。 マリーは、同住宅を買った時点での価格は同様のコンドミニアムに比べて安かったのだが、住んでからの運営費が同様のコンドミニアムに比べて非常に高い、と指摘する。確かにコープ住宅は自分たちで運営している、という意識が強いように見受けられた。 ベイム夫妻が購入を申し込んだ際には、役員会での数回にわたるインタビューに加え、資産から収入、家族の歴史に至るまで、綿密に審査されたと言う。 古い建物なので、現在の消防法に合わせての改築や、電力の容量を増やしたり配線を変える、屋根の吹き替えやら外装の管理など、すべて役員会で論議決定がなされるが、建物全体をそれなりに維持するためにはかなりの出費を覚悟しなければならない。 「どんとこい!」と賄える資産があり、運営に参加する気概を持つ人達によってのみ、この麗しいコープ住宅は後世に受け継がれてゆくのだろうか。


Akemi Nakano Cohn
jackemi@rcn.com
www.akemistudio.com
www.akeminakanocohn.blogspot.com

明美コーン

コーン 明美
横浜生まれ。多摩美術大学デザイン学科卒業。1985年米国へ留学。ルイス・アンド・クラーク・カレッジで美術史・比較文化社会学を学ぶ。 89年クランブルック・アカデミー・オブ・アート(ミシガン州)にてファイバーアート修士課程修了。 Evanston Art Center専任講師およびアーティストとして活躍中。日米で展覧会や受注制作を行なっている。 アメリカの大衆文化と移民問題に特に関心が深い。音楽家の夫と共にシカゴなどでアパート経営もしている。 シカゴ市在住。

新着ムック本のご紹介

ハザードマップ活用 基礎知識

不動産会社が知っておくべき ハザードマップ活用 基礎知識
お客さまへの「安心」「安全」の提供に役立てよう! 900円+税(送料サービス)

2020年8月28日の宅建業法改正に合わせ情報を追加
ご購入はこちら
NEW

月刊不動産流通

月刊不動産流通 月刊誌 2024年6月号
「特定空家」にしないため…
ご購入はこちら

ピックアップ書籍

ムックハザードマップ活用 基礎知識

自然災害に備え、いま必読の一冊!

価格: 990円(税込み・送料サービス)

お知らせ

2024/5/5

「月刊不動産流通2024年6月号」発売開始!

月刊不動産流通2024年6月号」の発売を開始しました!

編集部レポート「官民連携で進む 空き家対策Ⅳ 特措法改正でどう変わる」では、2023年12月施行の「空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律」を国土交通省担当者が解説。

あわせて、二人三脚で空き家対策に取り組む各地の団体と自治体を取材しました。「滋賀県東近江市」「和歌山県橋本市」「新潟県三条市」「東京都調布市」が登場します!空き家の軒数も異なり、取り組みもさまざま。ぜひ、最新の取り組み事例をご覧ください。